デパートを満喫しよう!(21)

「大丈夫ですよ。ご準備さえよろしければ、次のゴンドラにご案内しますね」


 お姉さんはにこやかな表情でチケットを受け取ると、ウエストバッグにしまい込み、乗り込みの準備を始める。


 俺たちが揃って観覧車を見上げると、ちょうど、唯一空席になっている赤いゴンドラが下りてくるところだった。


「ミオ、平気か? 怖くない?」


「うん。お兄ちゃんと一緒に乗れるから楽しみだよー」


 ミオは人生初めてとなる観覧車の到着が待ちきれないようで、お昼前に買ったおもちゃの箱を抱きしめたまま、その場で小さく跳ねている。


 そういや、俺が初めて遊園地へ行った子供の頃もこんな感じだったなぁ。


 さすがにジェットコースターは怖かったけど、高いところから下の景色を眺められる観覧車や、レールの上で乗り物を漕いだりするアトラクションには心が踊ったものだ。


 さて、この小型観覧車からは、一体どんな風景が望めるんだろうな。


「お待たせしました! どうぞ乗ってくださーい」


 下りてきたゴンドラの扉を開けるお姉さんの案内に従い、まずミオが乗り、俺はその対面へと座った。


「それでは、行ってらっしゃいませぇ」


 ゴンドラの扉が閉まり、止まっていた観覧車が再び動き出すと、ミオが窓から下を覗き込む。


「わぁ。浮いてるよ、お兄ちゃん!」


「そうだな。でも、まだまだこんなもんじゃないぞ。一番上まで行けば、周りの景色がよく見えるようになるからね」


 それを聞いたミオは視線を上げ、今度は周囲をキョロキョロと見渡し始める。


「あの山って、どっちの方にあるのかな?」


「山? お昼ご飯の時にミオが見てた山の事かい?」


「うん。これだけ高いところからなら、よく見えるかなって思って」


 レストランを出て、エレベーターでここまで来て、そして観覧車のゴンドラに乗る。そうすると、今自分たちがどっちの方を向いているのかが、よく分からなくなるんだよなぁ。


 方角はおいおい判明するとして、うちのショタっ娘ちゃんが、あの緑生い茂る山をここまで気に入るのは意外だったな。やはり見下ろす夜景に憧れを抱いているのだろうか。


 あそこまで登って、ミオに夜景を見せてあげると約束した以上、俺には重大な責任がある。来たる日の登山デートを大成功させるためにも、計画は綿密に練らなくちゃいけないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る