デパートを満喫しよう!(16)

「あれ? りほさん、お店から出て行っちゃったよ。どうしたんだろ」


 食事に集中しながらも、二人のやり取りに耳をそばだてていたミオは、理穂さんの突然な心変わりに驚いた様子を見せる。


「不思議だねぇ。たぶん急用でも思い出したんじゃないか?」


 慌てて店を出た、無神経な理穂さんの心理を適当に考察した俺は、若干冷めた味噌カツを口へ運んだ。


 うちの純真無垢なショタっ娘ちゃんが、大人の薄汚れたやり取りに毒されるのは忍びない。だからこそ、俺はミオの知らない横文字を使い、早々に理穂さんを追い払ったのである。


「ええー? でも、ここは先にお金を払うお店なんでしょ。外に出ちゃっても大丈夫なのかな」


 やっぱりミオは優しいなぁ。


 さっきまで、自分を散々ないがしろにしていた相手の事を気遣えるんだから。


「食券さえ持ってりゃ平気だよ。そんな事よりごめんなミオ、嫌な気分にさせちゃって」


「んーん、いいの。でもあの人……お兄ちゃんを『フッた』って言ってたよね」


「うん、そうだな。もうずいぶん前の話さ」


「じゃあ、あの人がお兄ちゃんの元彼女さんだったの?」


 と、ミオは若干声を潜めつつ尋ねてくる。


 その不安げな表情から質問の意図を汲み取るならば、あの女性と付き合っていて疲れなかったのか? といったところだろうか。


 そりゃあドッと疲れただろうね、もし告白が成功してたら。


「さっきの人は元カノじゃないよ。俺がまだ新入社員だったころに告白して、『お友達でいましょう』ってフラれただけの間柄さ」


「あの人がそうなんだ? ものすごく親しそうに、お兄ちゃんに話しかけてたから、付き合ってたのかと思っちゃった」


「一応、フラれる前に二人で出かけたりした事は何回かあるから、向こうとしては、気心の知れた仲だと思ったんじゃないかな」


「きごころ……」


 また俺が難しい言葉を使ってしまったせいか、ミオは箸を止め、まぶたを閉じ、首を傾げて考え込む。


「まぁ、とにかくだ。もうずっと会ってないし、連絡も取っていなかったから、理穂さんとは何でもないんだよ」


「良かった! 確かに、お兄ちゃんを『フッた』って言う人とは付き合えないもんねー」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る