デパートを満喫しよう!(3)

「ミオ」


「なぁに? お兄ちゃん」


「このおもちゃでさ、おいしいチョコを一緒に作ってみようよ」


「一緒に?」


「そう。実は俺もこれが気になってたんだよね。だからミオと二人でやりたいんだ」


「んー。ボクも、お兄ちゃんと一緒にお菓子作りできるのはすごく楽しみだけど、大丈夫?」


 心配そうに尋ねるミオの表情を見るに、やっぱりこの子は、お金の事を気にかけていたのだろう。


 ミオが後々、申し訳無さを覚えないようにするためにも、もうひと押しとなる決めゼリフが必要だな。


「もちろん大丈夫だよ。こういうのってすごく楽しそうじゃん? ほら、何と言うか、『初めての共同作業』って感じでさ」


「え? 初めての……何?」


 ミオがキョトンとして聞き返す。


 いかん、言葉選びを間違った!


 共同作業はまぁいいとして、その前に「初めて」という副詞を付けちゃったら、それは披露宴のケーキカットを指してしまう事になるじゃないか。


 一体何をやってるんだ俺は。まだミオと結ばれてもいないというのに、今のはとんだ爆弾発言だよ。


「いや、その。今のは要するに、二人で同じ事をすれば盛り上がるかなーと思って。だから、あんまり深い意味は無いんだ」


「それが〝キョウドウサギョウ〟なの?」


「うん」


「でも、同じ事はいつもやってるでしょ? 一緒にお風呂に入ったりとか」


「それはそうなんだけど、ニュアンスがちょっと違うんだよ」


「何それ? ねぇお兄ちゃん、また難しい言葉使ってるでしょー」


「ご、ごめん。今のは確かに難しかったね」


 よほど大きな声で筒抜けだったのだろうか、遠くのレジで俺たちの会話を聞いていた店員さんが、微笑ましそうこっちを見ている。


 これがあどけない少女と、日がな一緒に入浴しているのだと勘違いされたら、俺は間違いなく社会的に終わっていただろうな。


 ミオは確かに美少女顔でキュートな見た目のショタっ娘だけど、性別は紛うことなき男の子だから。


「じゃあややこしいのは抜きにして、とにかくこれ買ってさ、二人で協力してチョコ作りしようよ。お金の事は、何も心配しなくていいからね」


「ほんとに大丈夫?」


「うん。いつもいい子にしてるミオへのご褒美に、ささやかだけどプレゼントしたいんだ。だから、貰ってくれると嬉しいな」


 俺がそう言ってミオの頭を優しく撫でると、ミオはようやく控えめな笑みを見せ、そして俺の腕の中に飛び込み、そっと頬を寄せた。


「お兄ちゃん……ありがとう」


 ふう、これで何とか落着したかな。


 心優しいショタっ娘ちゃんの気遣いを取り除くひと押しには手こずったけれど、その苦労の甲斐が実って、気兼ねしないお菓子作りを楽しんでもらえそうだ。


 会計を済ませた後、大事そうにおもちゃの箱を抱えるミオが見せてくれた幸せそうな横顔は、俺はずっとずっと忘れる事はないだろう。

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