夜のデートはイカ尽くし(11)

「あの生簀いけすのイカは刺し身、あるいは活け造り用ですので、釣りをご希望のお客様には、どちらかの料理のご注文を頂戴する事になります」


 まぁそれはそうだよな、釣ったイカをまた生簀に戻すんじゃあ、ただイカをいじめているだけになるから。


 このお店でイカを釣るって事は、すなわち命を頂く事であり、俺たちはその行為に責任を持たなければならない。


「ミオ、釣りしてみたい?」


「うん。でも、釣ったイカは食べるんだよね? ボク、そんなにいっぱい食べられるかなぁ」


 現在頼んでいる料理は、今しがたテーブルに並べられた茹でイカと夏野菜のサラダ、アオリイカの天ぷらだろ。それに加えて、後からイカのぽっぽ焼き、イカスミ炒飯とイカ飯、そしてイカ団子の汁物も来る事になっている。


 そこに活け造りか刺し身がプラスされる事になるわけだから、確かに食べる量は相当なものになるよな。


「お客様。よろしければ、別の生簀にてヒイカの釣りも体験できますが……」


「ヒイカ、ですか?」


「はい。今のヒイカはだいたい十センチに満たないくらいなので、一杯や二杯ほどでしたら、バター炒めにしてお出しさせていただきます」


「なるほど、そんな小ぶりなのもいるんですね。ミオ、ヒイカなら食べられそう?」


「たぶん大丈夫! バター炒めも食べてみたいな」


「よし、それじゃあ釣ってみるか」


 店員さんの提案を検討した結果、話がまとまった俺たちはヒイカ釣り体験をお願いし、さっそく小さな円形の生簀に案内された。


 その生簀の中では、手のひらに収まりそうなくらいな小さいヒイカの群れが、ところ狭しと泳ぎ回っている。


「見て見てお兄ちゃん! かわいいイカちゃんがたくさんいるよー」


「うん、確かに小ぶりだ。一口にイカと言っても、こんなにたくさんの種類が海にいるもんなんだなぁ」


 姿勢を低くして、ミオと一緒にヒイカの泳ぐさまを眺めていると、店員さんが、傍らの竿立てに置かれていた釣り竿を手に取り、俺たちのもとへとやって来た。


「こちらがヒイカ釣りのセットになります。二名様のご利用でよろしいですか?」


「あっ……と、僕はいいです。この子の分だけお願いします」


「えー! お兄ちゃんもやろうよー」


 ミオが俺の上着の袖をきゅっと引っ張り、ヒイカ釣りを促してくる。


「でも、俺はもう子供のころにやったから。今日はミオに楽しんで欲しいんだよ」


「ボク、お兄ちゃんと一緒に釣りがしたいの。おねがーい」


 そう言うとミオは、服の袖を掴んだまま、無垢な瞳で俺の顔を見上げてきた。


 まいったなぁ。かわいいショタっ娘にそんな目でお願いされちゃったら、絶対断れないよ。

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