イカ料理を食べよう!(5)

「大丈夫だよ。料理酒はさっき言ったように、食材の臭みを消したり、他にも煮込む物を柔らかくするために使うんだけど、アルコールは火にかけるとほぼ全部飛んじゃうんだ」


「アルコールが? 飛ぶ?」


「そう。料理酒の中のアルコールが気体になって、飛んでいっちゃうんだよ」


 俺は少し大げさに両手をパァッと広げ、アルコールが気化する様子をジェスチャーで表現した。


 アルコールには揮発温度というものがあり、その温度、つまり七十八度に達すると、アルコールは揮発し、気体になる。


 この現象を料理に当てはめて言うと「アルコールを飛ばす」になるのだ。


「じゃあ、お酒じゃなくなっちゃうの?」


「そうだよ。だから、出来上がったイカ飯は、ミオも安心して食べられるようになってるのさ」


「そうなんだぁ。よかったー」


 食べたい料理に対する不安が取り除かれた事で、ミオはホッとした様子で胸を撫で下ろす。


 しかし、こうやってレシピを眺めていると、イカ飯って案外シンプルなものなんだな。


 調味料はスーパーで全部揃えられるし、イカも鮮魚売り場か、あるいは魚屋に行けば手に入るだろう。


 これなら俺でも作れるんじゃないか?


 ……って。ちょっと待てよ、俺は一体何を考えているんだ。


 サイトに書かれたレシピと調理方法を読み進めるうちに、完璧なイカ飯を、ご家庭でも簡単に作れそうな気分になってきてやしないか。


 言うは易し行うはかたし。俺みたいな素人の一朝一夕で、ミオが喜んでくれるような、おいしいイカ飯を作れるわけがないだろう。


 いかんいかん。うっかり自分の事を、腕利きのシェフか何かだと勘違いするところだった。


 そもそも俺が言い出しっぺで、イカ飯とは何たるかを知るためにこのサイトを開いたのであって、自炊マニュアルをしたために訪れたのではない。


 今度の土曜日は、ミオと二人っきりでイカ飯を食べられる食堂、あるいはレストランで外食デートをするはずだったのだ。


 外出先によるデートで、おいしい物を食べる。それが今回の主目的だから、これ以上イカ飯の作り方を深堀りする必要はないだろう。


 とにかくイカ飯は、イカやうるち米などの食材と、醤油ベースの味付けでもって炊き込まれる料理だという事がよく分かった。


 よって、このチンパンジーでも分かるという触れ込みのサイトはお役御免。


 お次はそのイカ飯をメニューとして出しているお店探しにかかろう。


 ところで、イカ飯はご飯ものという分類でいいのかな。


 イカ飯定食なんて聞いた事無いけど、米を詰めて作る料理だから、やっぱり主食というカテゴリーで出されるのかねぇ。


 その辺の事情も含めて調べてみるか。

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