夏のマリンアクティビティ(6)

「ボクが彼女になったら、思いっきり甘えちゃうけど、いいのかな」


「もちろんいいよ。それって今まで通りって事だろ?」


「うん。いっぱい抱っこしてもらって、いっぱいスリスリするの」


 ミオは俺への愛情表現として、甘える時には、夢中になって頬ずりをするのがクセになっている。


 他にも、俺があぐらをかいて座っている時は、股の間に入ってきてくつろいだりしてくるので、その様はさながら子猫ちゃんのように見えるのである。


 何より魚が大好きだし。


 そう考えると、あの元カノとミオは、性格から何から、全てが正反対なんだなぁ。


 恋人としてどっちが好きかと聞かれると、そりゃ当然ミオの圧勝なんだけど、いかんせんこの年の差だから、ほんとに俺が彼氏でいいのかなって気にはなる。


 あとは、恋人同士になった二人を、世間がどんな目で見て、理解を示してくれるのか。


 もっとも、俺に一途なミオの事だから、そんな年の差や世間の目などの問題なんて些末さまつな事だと思って、歯牙しがにもかけないんだろうけど。


「あ! お兄ちゃん、ボートが停まってるよー」


「ほんとだ。あれが三時四十五分発の便なんだね」


 直射日光でジリジリと焼けた砂浜を歩き、再びグラスボート乗り場へと戻ってきた俺たちを、係員さんは笑顔で迎えてくれた。


「ちょうどいいお時間でしたね。ボートは十分後に出発いたしますので、乗船してお待ち下さい」


 係員さんに渡した乗船チケットの半券をもぎってもらい、安全のために渡されたライフジャケットを着て、俺たちは桟橋の乗り場からボートに乗り込む。


 船の中央には、透明かつ頑強な細長いガラスが船底に張ってあり、ここから海底を覗き込むシステムになっているのだ。


 このガラスを上から眺めやすくなるよう、両脇には長椅子が据え付けてある。


 長椅子に座れるのは片側八名ずつが限度らしいので、参加者の定員は、一回の出航につき十六名までという事に決まっているようだ。


 予約しといてよかったなぁ、もし行きあたりばったりで乗りに来ていたら、俺たちはあぶれていたかも知れないんだから。


 船内では、すでに数人の先客が見晴らしのよさそうな場所を確保していた。


 どうやら指定席というわけではなさそうなので、俺たちもボート右側の長椅子に隣り合って座り、出航を待つ。


 しばらく待っていると、少し遅れて他の予約客たちが、ぞろぞろと船内に乗り込んできた。


 係員さんは乗船している客の人数をカウントし、定員の十六人が揃っている事を確認すると、両手を頭の上に掲げて丸を作り、船長さんに〝出航OK〟のサインを出す。


 船長さんはそのサインを受けて船のエンジンをかけると、操縦席にある船舶用マイクを手に取り、天井に設置されているスピーカーを通してアナウンスを始めた。


「大変長らくお待たせいたしました。ただ今より、皆様を海底の世界にご案内するグラスボートが出航いたします」


 乗客の数名から送られた、パラパラというまばらな拍手が、本格始動したエンジンの音にかき消される。


 いよいよ、本日二つ目のマリンアクティビティが始まるのだ。

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