リゾートホテルの昼休み(1)

 プライベートビーチでひたすら泳ぎ、砂遊びを楽しみ、適度な運動をして腹が減った俺たちは、シャワーを浴びた後、服を着てホテルに戻った。


 そしてエレベーターに乗り、地下にあるレストラン、翔風楼しょうふうろうを目指す。


「あ、お兄ちゃん。お店、あそこじゃない?」


「ほんとだ。看板が出してあるね」


 ミオが、地下のレストラン街に並ぶ数々のお店の中から、店名が書かれている縦長の袖看板そでかんばんを見つけた。


 暖色系のLED電球で照らされるレストラン街の中で、ひときわまばゆい輝きを放つ袖看板には〝和洋折衷料理 翔風楼〟という文字が並ぶ。


「ねぇお兄ちゃん。お店の名前の横、何料理って書いてあるの?」


「あれはね、和洋折衷わようせっちゅうって読むんだよ」


「ワヨウセッチュウ?」


「うん。たぶんこのお店は、和食と洋食のいいところをミックスした料理を作っているんだろうね」


「そうなんだ。じゃあ両方食べられてお得だね!」


「はは、そうだな。んじゃ、さっそく入ってご飯食べようか」


「うん。どんな料理が出るのかなー」


 俺は自動ドアに軽く手を触れ、ミオを連れて店内に入る。


 この店もレストラン街の雰囲気に合わせてあるのか、照明には、暖色系で落ち着きのある、ややオレンジがかった電球を用いていた。


「いらっしゃいませ。ご昼食ですか?」


 先客におひやを提供していたウエイターさんが、入店したばかりの俺たちに気付き、笑顔で尋ねてくる。


「はい。あのー、これを使いたいんですけど」


 と言って俺とミオは、ホテルのチェックインの時に渡された昼食券を差し出す。


「ありがとうございます。それでは、お席の方へご案内させていただきます」


 普通のファミレスや定食屋の場合、お好きな席にどうぞーと言われるから、ある意味自由な席取りが可能になる。


 だが、さすがに格式あるレストランの、しかも他の利用客で混み合う昼食時なので、俺たちは対面に座る、二人用のテーブルへと案内された。


 もっとも、これから食べるのは昼飯であって満漢全席ではないのだから、テーブルの広さなんてものはこんなもので充分である。


「ランチタイムのメニューはこちらになっております」


 ウエイターさんは二人分のお冷を置くと、テーブルに並べられていたメニュー表の一つを取り、ランチタイムでのみ注文可能な料理のページを開いた。


「それでは、お決まりになりましたらお呼びくださいませ」


 注文が決まった後の呼び出し方は、普通にさっきのウエイターさんに声をかけるだけでいいのかな?


 ファミレスみたいに呼び出しボタンが据え置かれているわけでもないし、何かコールベルのようなものはないのだろうか。


 テーブルの上のメニュー表を持ち上げ、下に何かないのか探し回っていると、ミオが小さな長方形の四角柱を手に取り、不思議そうに眺めていた。

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