魚釣りと温泉(6)
「お兄ちゃん、食べようよー」
「……あっ。そ、そうだな。さっそく食べようか」
しかし大きいなぁこのアイゴ、さっきは目測で二十センチオーバーだと思ったけど、改めて皿の上に乗った実物を見ると、三十センチ近くはありそうだ。
そりゃあ手応えのある引きをするよな。
激痛を伴う毒ヒレで釣り人を困惑させるこのアイゴだが、一応魚なのでご多分に漏れず、地方によって呼び方が違う。
九州の某地方では〝バリ〟と呼ばれ、あるいは〝アイハゲ〟なんて男が気にするような名前が付く地方もあり、さらには〝ネションベン〟なんて
なぜそんな呼び方になるのかというと、アイゴはとにかく皮と内臓が臭うそうで、何の処理もしないとアンモニア臭がきついため、とても食えたものではないらしい。
だから、仮に毒のあるヒレを全部除去したとしても、そのあまりの臭みに嫌気がさして、やっぱり家に持ち帰るのは断念した、なんて釣り人もいたかも知れない。
ただ、この塩焼きになったアイゴは
さらに、臭い消しの追い打ちとして強い味方になってくれるのが、塩焼きの横に添えられた
こういうところでも島の名産品を付け加えて提供するサービスに、ホテル側の郷土愛を感じる。
せっかくだからアイゴにはかぼすを搾り、果汁をたっぷりとかけてからいただくとしますか。
「イワシ、すっごくおいしいよー」
先に食べ始めていたミオが、あまりのおいしさに感激している。
「そのくらい大きいイワシなら、脂が乗っておいしいんだろうなぁ」
「うん。身がホクホクしてて、脂が口の中でじゅわっとするの」
「イワシはおいしい上に栄養が豊富だからね。青魚の中でも比較的たくさん釣りやすいし、ほんといい魚だよな」
「こんなにおっきなイワシが、たくさん釣れるの?」
「うーん。こんだけ成長してるイワシの場合だと、生まれて二年くらい経ってるはずだから、普通の堤防からだとなかなか釣れないかもね」
「そうなんだ。じゃあここで釣れたのって珍しいんだね」
「まぁ地域性によりけりだな。イワシの種類にもよるけど、ミオが今食べてるマイワシは、陸から釣るならそのくらいが一番大きいらしいよ」
「陸から?」
「うん。でも海上、つまり船に乗りながらの釣りなら、もっと大きいのが狙えるって事かな」
「へぇー。でも、あんまり大きすぎるイワシを食べたら、ボクお腹いっぱいになっちゃうかも」
「はは、そうだね。俺でもそんな大きいのは、一匹食べられれば充分だよ」
一般的な堤防、あるいは波止場、釣り公園なんかで釣れるイワシは、平均的なサイズもそんなに大きくないから、唐揚げや天ぷらにするといいらしい。
だが、この釣り公園で塩焼きオンリーの調理サービスを提供している理由は、それだけ大きなイワシが釣れやすいから、魚の持つ味を最大限まで生かしたい、というホテル側の思惑があるのではないだろうか。
まぁ俺が釣ったのはアイゴだけど。
さて、俺の人生初となるアイゴの塩焼きは、果たしてどんな味がするのだろうか。
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