魚釣りと温泉(2)

 ちなみに集魚灯だが、自治体によっては使用が禁止されている場合がある。


 それから集魚灯だけでなく、そもそも常夜灯の光すら嫌う魚はまず寄って来ないそうなので、という名が付いてはいても、一長一短はあるという事だ。


 さて、俺も堤防釣りで大物を狙ってみますか。


 今回管理施設から貸してもらった釣り道具は、この間行った時のサビキ仕掛けとは違い、極めてシンプルだ。


 竿から伸びたラインにウキが付けられ、ハリスには小さなおもりが一つに、割と小ぶりな針が一本。


 そんなにシンプルな仕掛けをすでに装着されたまま貸し出してくれたので、俺たちはただエサをつけ、仕掛けを投げればいいだけなのである。


 なお、施設で売っているエサは、パックに詰められたオキアミのみという、これまたシンプルなラインナップになっている。


 オキアミとは何かという説明だが、平たく言うと、つまりはエビに似た小さな甲殻類だ。


 この仕掛けとエサで数々の実績を上げてきているので、宿泊客にも手軽に釣りを楽しんでもらえるよう、規格を統一したのだという。


 今の時期ならアジもたくさんいるし、イワシに至っては今がまさに旬で、あぶらが乗って大変うまいのだそうだ。


 まだ釣ったことのないサッパは、聞くところによると、一応は年中通して釣れるとの事。


 ただ、肝心の釣果としては、そんなにはめざましくないようである。


 まぁ食べられりゃ何でもいいんだ、全部塩焼きにしておいしくいただくんだし。


「あっ。お兄ちゃん、ウキが沈んだよー」


 さっそく、ミオの投げた仕掛けに反応があったようだ。


「じゃあ、サビキ釣りの時みたいに合わせてごらん」


「うん。やってみるね」


 ミオは寝かせていた竿を立て、針が魚の口に掛かったのを確認してからリールを巻き始める。


 この一連の動作は、以前海釣り公園でサビキ釣りをした時に嫌というほどやったので、もはやお手のものだ。


「んー、ちょっと重いぃ」


「え、もしかして大物きちゃった? 手伝おうか?」


「おねがーい」


 という返事を聞いて、俺は自分の仕掛けを素早く巻き上げる。

 

 それからミオの真後ろに位置取り、今にも手放しそうな竿をしっかりと支えた。


「竿持っててあげるから、リールを巻いてごらん」


「ありがと。これ、すごく手応えがあるよー」


 子供の力だから重いのかなと思っていたが、確かにこの引きは、小アジなんかのたぐいではなさそうだ。


 ミオのリールを巻く作業と連動しながら、魚が壁の隙間に逃げ込まないよう、竿を慎重に動かす。


 そうこうしているうちに、徐々に暴れる獲物の正体がくっきりとしてきた。


「お。イワシじゃん」


「イワシって、お兄ちゃんが前釣ってた魚の事?」


「そうそう。それが成長してでっかくなった奴だよ」


 イワシは散々暴れ回って疲れたのか、とうとう観念し、ミオのリール巻きによって陸地へと揚げられた。


「わぁー。すごく大きいね」


 ミオはその場にかがみ込んで、すっかり元気を無くしたイワシを指でツンツンしている。


 これはデジャヴかな、確か海釣り公園で豆アジを釣ったあの時も、同じ事をしていたような気がするが。

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