初めての通知表(3)

 通知表はもちろんだが、今時の小学校が、果たして子供たちに、どんな夏休みの宿題を課したのかも気になる。


 俺が小学生だったころは、日記と自由研究の他、〝夏休みの友〟という名の、各教科の課題が載った冊子を渡され、それを期間中に埋め尽くしていたものだが。


 あの時は友達にもいろんなタイプがいたなぁ。


 日記以外の課題をさっさと済ませて、後は悠々自適ゆうゆうじてきに夏休みを謳歌おうかする奴。


 夏休みも終わりかけだというのに、日記もつけず、まだ課題も白紙のままで、最終日になって、ようやく焦り始めて涙目で課題をやる奴。


 そんなだらしない奴のために、日記を書く際に必要な、夏休み全期間の天気を掲載した新聞もあったっけ。


 他にも早朝のラジオ体操なんかも実施してたし、思い返してみれば、一口に夏休みと言っても、やる事はたくさんあったんだなぁ。


 ミオにとっては、ほとんどが初めての経験になると思うんだが、果たしてうまく過ごしていけるのだろうか。


「ただいまー。帰ったよ、ミオ」


「お兄ちゃん! お帰りなさーい!」


 奥の部屋から玄関まで小走りで迎えに来たミオが、買い物袋をぶら下げた俺の胸に勢いよく飛び込んでくる。


「今日はお昼で帰ってきたんだろ? さみしくなかったかい?」


「うん、大丈夫。お兄ちゃんが帰って来るまで、ウサちゃんと一緒にお昼寝したり、テレビを見たりしてたの」


 ミオの言う〝ウサちゃん〟とは、先日行ったウサギオンリーの動物園で買った、おみやげのぬいぐるみの事だ。


「そっか。お昼ご飯はしっかり食べた?」


「食べたよー。お兄ちゃんの作ってくれたカレーライスおいしいから、いっぱい食べちゃった」


「ははは、そんなに気に入ってくれたんだ。じゃあまた今度、カレーを作ってみるかな」


「うん! 作って作ってー」


 ミオはそう言って、ぴょんぴょんしながらおねだりする。


 はぁ、やっぱりうちの子猫ちゃんはかわいいなぁ。


 このいとしい子猫ちゃんのためにも、来週の旅行が楽しい思い出になるように、綿密にプランを練らなくちゃな。


 いつものお迎えが終わった後、俺は部屋着に着替え、さっそく晩ご飯の準備を始める。


 商店街にあるスーパーで買ってきた惣菜を電子レンジで温め、二人分の白飯をよそい、味噌汁を作って食卓に並べれば完成だ。


 俺は料理が不得意だから、晩ご飯はいつも出来合いの惣菜とかインスタント食品、あるいは簡単なカレーばかりが並び、その度に申し訳ない気持ちになる。


 でも、ミオは何一つ文句も言わず、いつもおいしい、おいしいと言って食べてくれるのだ。


 その優しさに俺は心を打たれ、ミオの事をますますいとおしく思うのである。


 普段の食生活が質素になっているだけに、たまには豪勢な食事をさせてやりたいのだが、これまでは、なかなかその機会が無かった。


 そしてようやく訪れたチャンスが、来週のリゾートホテルへの宿泊だ。


 パンフレットによる料理の紹介を見るに、あの高級ホテルなら、きっとミオにもたくさんのを食べさせてあげられることだろう。


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