夢のリゾートホテル(4)

「佐藤、今キャンセルしたらいくら戻ってくるんだ?」


「えーとな、ちょっと待ってくれよ」


 佐藤はスマートフォンを手に取り、リゾートホテルのホームページをチェックし始めた。


「予約取った日はもろハイシーズンやし、今から起算すると五十パーセントになるらしいわ」


「てことはおよそ五万円か。結構取られるんだな」


 たいていのホテルなら、前日までなら二十パーセントのキャンセル料で済むらしいんだけど。


「しゃーないわ、泊まる場所が場所やからな。ホテルのある離島まで行く、船賃コミコミで予約したのもあるし」


「で、泊まる日はいつなの?」


「ちょうど一週間後や」


「そんなに急な話なのか! 直前でフったユキちゃんもユキちゃんだな……」


「まぁ金額の話はさっきしたとこやしな。とにかくもう、五万円は返ってけーへんのや」


「でも残りの五万円は戻ってくるんだろ。そこで妥協するしかないんじゃないか?」


「それを柚月に何とかして欲しぃて、こうして頼んでるのや。七万九千円で買うてくれ」


「だから刻むなってんだろ。諦めて五万円もらっときなよ」


「あんなええホテルや。お前のミオちゃん、きっと喜ぶぞ……」


「うっ!?」


 佐藤めー、ミオの存在を盾に、懇願から悪魔のささやきに切り替えてきやがった。


 確かにあのホテルに二人っきりでお泊りできたら、ミオにはいい思い出になるだろう。


 今年の夏はぎっしり予約が埋まっている、プライベートビーチ付きの高級リゾートホテル。


 そこでオーシャンビューの部屋に泊まれるというのだ、これを興味が無いと言ったら嘘になる。


 よーし。佐藤がそう出るなら、俺も営業職らしく、駆け引きと行こうじゃないか。


「佐藤。五万五千円なら考えてもいいよ」


「アカン。めいっぱい譲っても七万五千円や」


「つまり差額は二万円か。お前がもっと譲歩しないと、ホテルから戻ってくるお金が減るぞ?」


「柚月、思い出が欲しくないんか?」


「ほ、欲しいけどさぁ」


「ほな決断しとこ。なっ?」


「じゃあ、五万六千円」


「お前まで刻むんかい!」


「あー、明日になって返金額が四万円に下がってたらどうしよっかなー。ま、俺には関係ないけど」


「ぐっ!?」


 よし、精神攻撃が効いているぞ! この調子だ!


「な、七万ジャスト。これ以上はビタ一文譲らへんぞ」


「まだ高い!」


「柚月ぃー、ミオちゃんのためやと思えば安い買い物やろがよ」


「お前ずるいぞ、そうやってミオをダシに使うのやめろよな。だいたい五万円で困るのはどっちだか分かってるのか?」


「でも、この値段であんなええホテルに二泊もできるんやぞ。どう考えても破格やろ」


「その破格をもう一声いければ考えるんだけどな」


「さよけ……ちゅう事はどうやら、まだお互いに譲歩が必要なようやな」


「よし分かった。じゃあ、せーので金額を言い合おう。それで決めようぜ」


「よっしゃ。ほな、いくでぇ」


「せーのっ」


「六万五千円!!」


 ――意外や意外。


 俺と佐藤が言い合った金額は、一切のズレが無い、ジャスト六万五千円だった。

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