夏とプールと日焼け止め(6)

 さて、手足への塗り方と伸ばし方を覚えたら、今度は顔と首周りだ。


 まず顔への塗り方だが、額や鼻、頬などの各部位に、真珠くらいの大きさの日焼け止めを付けて伸ばすといいらしい。


 というのを口で説明するのは簡単だが、ミオは真珠の実物を見たことがないため、その大きさを説明するところから始める必要がある。


 かくいう俺も真珠にはてんで詳しくないので、モデルガンなどに用いるBB弾くらいの大きさを想定して、手のひらに乗せて見本を見せた。


 これを顔のあらゆる場所に塗り、すり込むのではなく、優しく丁寧に、ムラ無く伸ばしていくのがコツなのだそうだ。


 しかし、ムラが無いようにとは言っても、この作業は鏡を見ながらじゃないと難しくないか?


 ミオにも実際にやらせてみたが、案の定、鏡無しでは塗り忘れというか、伸ばしきれていない部分がハッキリ分かった。


 塗り残しがあると、そこが日焼けした時に、顔が模様になりそうで心配になる。


 というわけで、俺が満遍まんべんなく伸ばせるよう、手伝ってあげる事にした。


 ……そういや、頭を撫でたり頬ずりされたりする事はよくあるけど、こうやってミオの顔に触れるのって、実は初めてじゃないか?


 ヤバい。そう考えると、何だかすごくドキドキしてきたぞ。


「ど、どうかな。痛くない?」


「大丈夫。お兄ちゃんの手、温かくて大好きだよ」


 くぅー、かわいい。そんな事を言われたら、尚更意識してしまうじゃないか。


 俺はミオの額や頬に触れ、伸ばしきれていなかった部分へ、優しく指をわせる。


 その間、女の子座りをしたミオはあごを上げ、じっと目を閉じ、まるでキスされるのを待つかのように……。


 撤回、今のは撤回!


 俺って奴は、なんていやらしい事を想像しているのか。


 今やっているのは、あくまで日焼け止めの塗り方を教えているだけであって、それ以上の事は何も起きてはいけないのだ。


 ミオだってそのつもりで目を閉じているだけだというのに、俺が勘違いして変な気を起こそうものなら、二人の仲がへ突っ走ってしまいかねない。


 俺は理性を保つのでいっぱいいっぱいだったが、何とか塗り残しがある部分まで日焼け止めを伸ばし終え、ミオの顔から手を離した。


「もう終わっちゃった?」


 ミオが目を閉じたまま尋ねてくる。


「うん。全部綺麗に伸ばせたよ」


「ありがと。お兄ちゃんにお顔を優しくなでなでしてもらってるみたいで、すごく気持ちよかったよー」


「そっか。まぁ顔にするマッサージもあるから、そういうのに近い感覚はあったのかもね」


 最初はフェイシャルエステと言おうと思ったが、ミオには難しい横文字だし、結局そのエステの施術にマッサージが含まれるので、そのままマッサージと表現した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る