二人の歯科検診(6)

「柚月さん、こんにちは」


「あ、どうも。こんにちは」


「今日は、検診で来られたということですが」


「……はい」


 もはや「違う」とは言える雰囲気ではない。


「今現在、どこか気になるところはありますか?」


「いえ、特に無いです」


「分かりました。それでは、これからお口の状態をチェックしていきますね」


 椅子がリクライニングされ、俺は歯科用探針しかようたんしんというチクチクする針と、検診用の小さな鏡で、上下全ての歯と歯ぐきの状態をチェックされた。


 先生はシーがゼロだとかマルだとか、八番がニ、七番がイチだとか、専門用語を使い、歯科助手さんに記録させていく。


「柚月さん。歯の方はおおむね問題ないです。すでに治療されている歯の状態も良好ですね」


「そうですか」


「はい。だけど、これ見てください。奥の方です」


 と、先生は俺に手鏡を渡し、俺でも奥歯が見えるように合わせ鏡をしてくれた。


「一番奥の、がちょっと虫歯になりかけてるんですよ」


「えぇ!? そうなんですか?」


 何てこった、歯磨きは毎日やっているから、虫歯なんて無縁だとばかり思っていたのに。


「まぁ、このくらいならまだ様子見で大丈夫です。斜めに生えているから難しいのはありますけど、歯磨きの方を頑張ってください」


「分かりました……」


「あと、歯石が若干付着しているので、取っちゃいましょう」


 先生はそう言うと、歯科衛生士さんにバトンタッチし、他の患者のところへ行ってしまった。


 その後は目にタオルをかけられ、歯石取りの機械で歯石をガリガリと削られたのだが、これが思ったより痛い。


 歯科衛生士さんは、「痛かったら言ってくださいね」とは言ってくれたが、そんなの大の男が言えるわけないじゃんと思いながら、ただひたすら耐えたのだった。


 歯石取りが終わったら、今度は歯の磨き方をレクチャーされ、歯間ブラシの他、糸ようじの手巻き版である、デンタルフロスの使用を勧められた。


 歯間ブラシは欠かさず使っているが、それだけじゃ、歯垢の除去は不充分だということなのか。


 また歯石取りで痛い目に遭いたくないし、帰りにドラッグストアに寄ってフロスを買うことにしよう。


 予定外の検診と歯石取りを終えた俺は、待合室に戻り、ミオの隣に座った。


 歯石を取ってもらったからか、何だか歯と歯の間が広く感じる。


 そしてスースーするようになった。


 本来なら、これが健全な状態なんだろうけど、今は違和感の方が強い。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


 ミオが俺のほうけた顔を見上げて尋ねてくる。


「うん。歯の周りを綺麗にしてもらってきて、ちょっとスッキリしたような気がする」


「さっきチュイーンっていってたの聞こえたけど、お兄ちゃんが歯を綺麗にしてもらってた音?」


「そうだよ。歯ぐきの隙間とかに付いてた歯石を取ってもらったんだ」


「シセキ? 痛くなかった?」


「ちょっとだけね」


 と、俺は強がりを言ってみた。

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