ミオの散髪(3)

里香りかちゃーん」


「あっ、ミオちゃんだー」


 二人はお互いを〝ちゃん付け〟で呼ぶ程の仲らしい。


 この里香というツインテールの子も、ミオの事を女の子として接しているのかな。


「こんばんは。いつもミオがお世話になってます」


「こんばんは! ミオちゃんのお父さんですよね?」


「違うよ里香ちゃん。ボクのお兄ちゃんだよー」


「え、そうなんだ! すごく歳が離れてそうだから、お父さんだと思っちゃった」


「ははは……」


 さすがに小学生は容赦ないな。


 まぁ歳が離れているのは事実だけど、俺はこれでもまだ二十代なんだぞ。


「里香ちゃんどこ行ってたの?」


「塾だよー。今から帰るとこなの。ミオちゃんはどこかにお出かけ?」


「うん。お兄ちゃんと一緒に、床屋さんに髪切りに行くんだよ」


「あー、そういえば学校で言ってたねー。ミオちゃん、ほんとに短くしちゃうんだ?」


 そう言いながら、里香さんがミオの後ろ髪を指でいじくった。


 俺以外の人に髪を触られた事に、ちょっとだけジェラシーを感じたが、まぁ女の子同士なら、このくらいのコミュニケーションは普通に取るよな。


 ミオは男の子だけど。


「そだよ。初めて行く床屋さんだから、お兄ちゃんに連れて行ってもらってるの」


「お兄さん優しいんだねー。あたしもそんな欲しかったなぁ」


「うふふ、お兄ちゃんって優しいだけじゃなくて、お料理も上手なんだよ」


「え、そうなんだー」


「うん! この前もね……」


「ミ、ミオ。今日はもうその辺で……」


「えー? もう行かなきゃダメ?」


「ほら、こんな時間だし」


 そう言って俺は左腕の袖をまくり、腕時計を見せた。


「里香さんの帰りが遅くなったら、親御さんも心配するから。な?」


「そっかぁ、んじゃ仕方ないね。里香ちゃん、また明日お話しようね」


「うん。じゃあねー! お兄さんもさようなら!」


「はい、さようなら。これからもミオの事よろしくね」


 ミオと里香さんの別れ際。二人はお互いに、姿が見えなくなるまで手を振っていた。


 ほんとはもう少しお話させてあげたかったんだが、さすがに俺がいる前で、俺の事を自慢され続けると照れくさくて、背中がむず痒かったのだ。


 ただ、それはミオにとって、俺がいい里親であり続けているって事なのかも知れないし、そこは素直に嬉しかった。


「ミオ、あの子と仲がいいんだね」


「うん。里香ちゃんは、学校で一番初めに話しかけてきてくれた子なの」


「へぇ、そうなのか。ガールフレンドができるっていいよなぁ」


 俺はしみじみとつぶやいた。


「お兄ちゃんが小学生の時は、女の子にお友達いなかったの?」


「そうだよ。小学生どころか、高校生までずっといなかったな。何しろモテなかったからね」


「じゃあ、今は?」


「今もほとんどいないよ。大人になって仕事しだしたら、友達を作る暇が無くなってくるからね」


「ふーん、大人って大変なんだね」


 ミオはそう言うと、また両手で俺の腕を抱いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る