第3話
我々の世界で七年間無事に生きつづけることは並大抵のことではない。天敵のいない人間サマと違って、一分一秒に危険がつきまとい、生と死の
オイラはそれを聞いて、人間サマに興味があったが、突然出逢ったこの老ダンゴムシにそれ以上の興味が沸いた。
「若いの、もしよかったら、わしと一緒に暮らしてみる気はないか。わしも年を取って寂しく思うのもしばしばじゃ。その気があったらわしのあとについて来るがええ」
老ダンゴムシはそれだけいうと踵を返して離れて行った。
老ダンゴムシがそういってくれたことは願ったり叶ったりだった。オイラは躊躇することなくあとについて歩いた。
それからというものは、二匹でひとつの石の下で一緒に暮らすようになり、一日中歩き廻っていると、理解できないことや不思議に思うことが山ほどある、そんなときオイラはすぐと老ダンゴムシに質問を投げた。またこの爺っちゃんが無類の博識で、愕くほど物事に精通していた。長いことホタルの光と雪の灯りで勉強をした成果なんだそうだ。
つい先日のこと、うららかになりかけた春の陽射しのもとで急に爺っちゃんがオイラに話しかけた。
「ムシュよ」
爺っちゃんはいつからかオイラのことを〝ムシュ〟と呼ぶようになっていた。どうも〝虫〟から転じた呼び名のようだった。
「――おまえはなぜ毎日のように危険を冒して人間のことを知りたがるのだ?」
どうやら、爺っちゃんはオイラの気持を不可解に思ったのではなく、考えを聞きたかったらしい。
そのときのオイラは、人間サマに興味があったのと、何かにつけて知らないよりは知っていたほうがいいに決まってるし、それに物知りだと爺っちゃんのように長生きができると信じてる、と大きく胸を張った。ところが、それを聞いた爺っちゃんは目を吊り上げて突然怒声を発した。
「ムシュよ、おまえは肝心なことを忘れておりはせんか!」
予想外のことに一瞬面喰った。 誉められることはあっても、まさか怒鳴りつけられるとは考えてもみなかったからだ。
「……肝心なことって、一体何?」
オイラは怪訝な顔で訊き返した。すると、爺っちゃんは先ほどとは打って変わって、今度は静かな口調で話しはじめた。
「よう聞けよムシュ、我々にとっていちばん大切なことはな、向学心でも探求心でもないのじゃよ。我々にとってもっとも大切なことはな……」
と、そこまで話したとき、急に地面が大きく揺れた。口から内臓が跳び出しそうなくらいの振動が地面から伝わった。同時に辺りが真っ暗になり、いまにも春雷が起こりそうな空模様になった。何事が起こったかのかなどと考える暇もなく、爺っちゃんは慌てて小さな石の下に逃げ込み、オイラはオイラでどこか身を隠す場所はと必死になって走り捜した。
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