第19話

なぜ今ごろになって奥底から大量に吹き上がって来たのか。


逃げ出したい。


バスから飛び出したい。


しかし私の身体は、自分ではどうしようもないほどに震え、縮み上がり、全く思うように動かすことが出来ませんでした。


私は心の底から強く強く思い、決意しました。


たとえどんなことがあろうとも、このバスには死ぬまで二度と乗らないと。


そんな私を尻目に、老婆が前から二つめの席に、女子高生が一番前の席に座りました。


乗客は老婆と女子高生に目は向けるのですが、やはりそれだけでした。


そしてバスは動き出しました。


ひどい山道を通り、次の停留所に差し掛かりました。何もない山の中。


それでも私はここで降りると決めました。


思うように動かなかった身体も、少しずつ自由が利くようになっていました。席を立ち、前に移動し、バスを降りる。


その程度ならなんとか出来る。


私はそう思い、少し腰を浮かせかけました。


ところがバスはいつも停車していたバス停で停まりませんでした。


そのまま素通りしてしまったのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る