あのバス停を降りたときに

ツヨシ

第1話

その当時、私は、少しばかり残念なことに、けっこう田舎にある小さな会社に勤めておりました。


平凡でしがない一人のOLとして。


そしてその私が住んでいた所はと言いますと、さらに残念なことに、会社以上に田舎な場所に住んでいたのです。


そんな事情もありまして、会社も私の家も駅と言うものが近くにはありませんでした。


しかし幸いなことに、本数は少ないのですが一本のバスが運営されていて、会社も私の家もその路線の近くにあり、バス停留所もそう離れてはいませんでした。


車はおろか免許すら持たない私は、必然的にそのバスで通勤していました。


そしてそれが二年ばかり続いたある日のことです。


その日私は、業務が終わるといつものようにバス停にむかい、いつものようにやって来たバスに乗り、いつものようにやや後方の席に座り、そしていつものように眠りについたのです。


普段の私であれば、自分の降りるべきバス停が近づいてくると、自然に目が覚めていました。


毎日同じバスに乗り続けたために習得することが出来た技です。


しかしその日はそうではありませんでした。目が覚めなかったのです。


その結果私は寝過ごしていまいました。


バスの外には見慣れぬ風景が流れていました。


先ほども言いましたように、私の住んでいるところはけっこうな田舎にあるのですが、山の中と言うわけではありません。


しかし今私の目に映るものは、完全に山の中のものです。


狭く暗い道。

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