迷宮攻略とユーナの魔法3

「能力を調べることが出来ても、その国に行けないのであれば諦めるしかありませんね」

「そうだな。まあ、ユーナが以前話をしてくれた通りなら、安全地帯は魔物からユーナを守る能力の様だから安全地帯の能力はひとまず忘れてこの迷宮を攻略するのを優先してもいいかもしれない」

「どういう時に安全地帯の能力が使えるのか分かっていませんし、いっそ安全地帯の能力は無い思っていた方が良いかもしれません。これがあるから大丈夫と思って油断していると使えなかった時が怖いです。他の魔法みたいに詠唱したら発動するものでは無さそうですし、私の意思で使えるならいいんですが」


 ユーナは俺がわざと説明を省略して言った意味をきちんと理解して納得している様だった。

 安全地帯が魔力消費関係無しに常時ユーナを守っているのなら良いが、何か発動に条件があってそれを本人が分かっていないのだとしたら、安全地帯に守られているから大丈夫だとは言えない。

 どういう条件で発動するのか確認する為にわざと魔物の攻撃を受ける状況にするのは危険すぎるからしたくない。

 安全地帯が発動せず魔物がユーナに接近した時に即反応して魔物を狩れる位の攻撃が出来る様になっているならともかく、魔法をそんなに早く出来ないだろうしユーナは物理攻撃が出来ない。


「剣が駄目なら、せめてナイフを使える様にしたいな」


 以前のギルの説明通りなら、ユーナは杖が無い方が魔法が使いやすいんだろうからそうなると杖は持ち歩かなくなるだろう、杖の代わりにメイスでもいいかと考えていたが軽い剣ですら持ち上げられないユーナの腕力では、初心者用のメイスでもかなり重く感じるだろう。

 短剣でさえ重すぎる可能性もあるとすれば、ナイフしか選択肢が無い。


「ナイフ、ですか」

「ああ、これでも重すぎて扱えないのなら持っている方が危険だから、これは無しだな」

「そうですね。両手でも重すぎです」


 もう一度剣を手に取り、ユーナは両手で剣の柄を握るとそのまま体の正面にまっすぐ構える。

 見たことがない構え方だが、背筋を伸ばし両手を伸ばして構えるその姿はすぐに崩れてしまう。


「やっぱり無理です。持っているだけも難しいです」


 情けない顔でユーナが俺を見る。

 それが可笑しくて、でも可愛くて、なんていうか言葉で上手く言い表せない感情を持て余してしまう。


「ヴィオさん、笑ってませんか」

「笑って無いぞ、俺は真面目に考えてる。ユーナの安全の為の検証で笑うわけがないだろう」

「本当ですか? 私の目を見てもそう言えますか」

「え、ユーナ。お、おい」


 ずいっと近付いて、じいいっと俺を見上げ始めるユーナに思わず後退りする。


「どうして逃げるんですか、やっぱり笑ってたんですよねっ」

「いや、そうじゃなく。あのさ、ここ、迷宮の中だって自覚はあるか。いくら階段近くで魔物が少ないとはいえ、さっきから油断しすぎなんじゃないか、ユーナ」


 逃げてない、逃げてない。

 慌てて表情を怒ったように作りながら、ポンとユーナの頭に左手で触れる。


「え、あ、そうでした」


 そうでした、じゃない。

 いくら下級迷宮の下層とはいえ、俺もユーナも油断し過ぎだ。

 まあ、それを怒ったわけじゃなく言い訳にしただけなんだが。


「魔物の気配は俺が探っているし、今近くにいないのはユーナも分かってるとは思うが昨日の件もある、気を抜かずにな。ところで採取はもういいのか」


 言い訳で早口でそう言えば、ユーナはきょろきょろと周囲を見渡した後頷いた。


「気をつけます。薬草は大丈夫です十分採れましたからこれで依頼三回分にはなると思います。こういう依頼をコツコツ達成していけば私の星の数、減らしていけますよね」

「そうだな、外の依頼もある程度は受けないといけないが、迷宮の素材で依頼達成数を稼ぐのも大事だ」

「分かりました。そうすると朝ギルドに立ち寄る方が良いですか」


 気をつけるの言葉通り、ユーナは辺りの気配を探りつつ歩き始める。


「そうだな、早目に昇級をしたいとか依頼料で稼ぎたいというなら積極的に依頼を受けたほうがいいが、攻略を優先したいなら常設依頼程度にしてもいい、つまりユーナがどちらを優先したいかだな」


 下級なりたての冒険者に基本を教えるなら、ギルドに寄って依頼を受けそれを意識しつつ迷宮を攻略していくのが正しいと言える。

 自分達が受けた依頼を達成出来るかどうか依頼書から判断し依頼を受ける。そして受けた依頼をっ確実に達成出来るように活動出来る様になるのが大事だからだ。


  依頼料が入るのも大きな理由の一つだ。


 下級の成り立ては泣きたくなるほど稼げないから、少しでも稼ぎを増やす努力は大切だ。

 あえてユーナにその方法を取らせなかったのは、例の文字があるからだ。

 依頼を受けるとどうしてもそれに時間を取られてしまうから、攻略が思う様に進められなくなる。

 昨日のは極端だがあの文字の発見だけを意識するのなら、依頼の達成や稼ぎを気にしなければ各層を駆け抜けるぐらいの気持ちでいた方がいい。

 それにこれからいくらでも迷宮に入るのだから、今は最低限採取の依頼だけ出来ていればいいだろうと考えていた。


 ユーナは見習い期間中にそれなりに稼いでいたし、魔法使いが下級の間貧乏になりやすい理由の一つである魔力回復薬をユーナは殆ど必要としない。

 俺が死蔵していた魔導書を使って魔法を覚えているから、その出費を考えなくてすむのも、他の下級成り立てと違う点だ。

 泊まっている宿はユーナは見習いとして受けている依頼料が入り始めてから自分の分を支払いするようになった。食材の費用は俺が出しているが、料理はユーナがしてくれるから宿代は俺が出すと言っているのに「そういう甘やかしは駄目です! ヴィオさんには服代とかで散々散財させてるのに、これ以上は駄目」と譲らなかったんだよなあ。ああいうところ、頑固だ。


「私が決めてしまっていいんですか?」

「ああ、ユーナが攻略を急ぎたいというならそうするし、依頼も受けて行きたいと言うならそれでもいい」

「私がどちらを優先したいか、ですか」


 むぅと唸りながら、ユーナは考え始めてしまう。

 どちらにするにせよ、これが癖になるのは駄目だな。


「ユーナ」

「はい」

「考えるのは宿に戻ってからでもいいだろ。今は攻略に専念しよう」

「あ、注意受けたばかりなのに、私また、駄目ですね。ごめんなさい」


 迷宮に慣れていないし、今魔物が近くにいない。そして俺が判断しなきゃいけない様なことを言ってしまったのだから、油断するなと言っても初心者には厳しいだろうとは思う。

 俺がいるからという気持ちもあるだろう、でもそれが当たり前になるのは駄目なんだ。


「集中します。まずは攻略、今日は十五層まで行きたいですし」

「分かった十五層だな。この層の地図は、頭に入ってるって言ってたが」

「一応覚えてますが、方向を覚えているのって難しいですね」

「ああ、俺は盗賊の能力の地図把握が使えるから初めての場所でもある程度の地形が分かるし、一度入った迷宮の地図は頭に残っているんだが、それが使えない場合は慣れるしかないな」


 俺はいつの間にか地図把握の能力を覚えていたが、魔物の気配を探るとか罠探知と違って地図把握は何故覚えられたのか分からない。

 リナも覚えたいと言っていたが、結局覚えられなかったしポール達も覚えられなかった。

 

「そうなんですか、私方向音痴じゃない筈なんですが歩いている内に方向分からなくなりそうです」

「今はまだいけるか」

「はい。まだ、ええと上に上がる階段はここからだと左斜め向こう、ですよね」

「そうだな。階段を真っ直ぐ目指すならそれでいいし、魔物を狩りたいなら気配がある方に歩いてもいい」

「二十層までは宝箱? とかは無いんですよね」

「この迷宮はそうだな。たまに何か落ちていることはあるが、宝箱は二十一層からだな。よく調べてるな」


 迷宮の中にある木箱だったり籠だったりする入れ物が通称宝箱と呼ばれていて、中に入っているのは迷宮産の剣や薬等だ。

 俺が使っているマジックバッグや剣も迷宮で見つけた物で、魔道具師等が作った物より迷宮産の方が優れていると言われている。

 宝箱を初めて見つけた時リナは『ゲームの世界みたい』だと喜んでいたが、何故宝箱が出て来るのかと不思議がってもいた。俺には当たり前に思っていた迷宮の宝箱の出現は、リナにはとても不思議な物だった様だ。


「迷宮についての資料は、あるだけ全部読みこんだつもりです。学生時代にしていた大学受験のための勉強よりも必死に暗記しました」


 受験勉強の言葉に、ユーナはやはり良い家の娘なのだなと考える。

 この世界では学生といえば学校に通う貴族の子息子女を言う。


「実戦経験は少ないですけれど、必要な知識は頭に入れたつもりです」


 得意気なユーナが可愛いんだが、これは口にしない方がいいよな。

 なんて言うか、俺の思考がマズイ気がする。

 

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