第19話おっさんと奴隷オークション その3
「奴隷オークション会が言理の契約、服従の証を隠していた事実に変わりありません。私達には出資額を考えなす権利はあるのではないでしょうか?少し時間を頂きたい。」
オーメルさんは、俺の想いを知るために時間稼ぎをしたのだ。
「オーメル様、それはごもってございます。一度休憩を取りましょう。ポーク子爵様、よろしいでしょうか」
「…ふん、好きにしろ!」
流石の子爵様でも、オーメルさんの要求を拒否する程ではないようだ。
「オオミヤ様、個室を用意させますので移動しましょう」
「わかりました……」
ネフィルちゃんは、職員に連れられ奥の部屋に戻って行った。
姿が見えなくなるまで見ていたが、俺と目をそらす事はなかった。
俺達は施設の中でもVIP会員しか使えない個室に通された。
競りにかけた商品をここで直ぐに、顧客に売るための商談スペースでもあるようだ。
奴隷は鮮度が命であり、取り扱いを間違うと先程の奴隷の男のように問題を起こす場合もある。
「時間もありません……ここに案内された意味はわかりますよね?」
突然の面談に俺は下準備もせず、対応しなければならない。
20億円という国家資産レベル商談だ……オーメルさんの自身も緊張しているのだろう。
オークション会場の中心でクレームを言っていた時以上に顔が怖い。
「ああ…」
意味はわかっている。
だが、資格も後ろ盾も何もない。
それに魔法音痴で私生活にすら、まともに暮らせそうにない。
そんな社会的地位の低い俺が20億円の重りを背負っていかなければならない。
「私どもも、金換券2万枚は予想外の額でしたが、出せない額ではございません」
「実際の予定額はいくらだったんだ?」
「彼女の利用価値に金換券1万枚はくだらない価値はあります」
まじかよ…
「って事は最初っから俺を試してたって事か……」
「申し分けございません……本来なら私の手の者が番狂わせを行おうと思っていたのですが……」
「あの額が出るとは思わなかったのか…」
確か、人材獲得のために国が企業などに出資できる上限額は金換券1万枚。
そんな金額は、王宮議会の議決を得なければならず、奴隷を買うなんて論外だ。
異世界生活始まってすぐに、この国の闇を見た。
「だが、それでもあの貴族が金換券1万枚をよく出せたな」
貴族と言っても、現実的な額ではないだろう。
ただの性奴隷に10億円の価値があるとは思えない。
「この子の才能ってのは、そんなもんなのか?」
「そうですね。ポーク子爵は、とある工学的魔法ゴム製品の製造の特許権を獲得して財をなしています」
「ちなみにそれは」
「避妊具でございます」
ですよね。
あの貴族、性欲強そうだもん。
「ネフィル様は大学では生理学を専攻しており、人体構造のプロフェッショナルです。これからは、神秘性の回復魔法だけでなく、工学的回復魔法が勢いがあり、プロジェクトの拡大に利用したいのでしょう」
「金になる性奴隷か……あまり聞いていて面白くはないな」
「はい……ポーク子爵に良いうわさは聞きません」
医学関係は常に需要があり、新薬の開発で起きる利益は10億なんて軽いものだ。
先行投資にしては安いぐらいなのかもしれない。
「お前さん達もそう言う理由で?」
「それもありますが……彼女の黒髪種族の研究も支援したいと思っています」
「そこまで面白いもんかね」
「申し訳ありません。詳細はカールイ様から止められておりますゆえ」
個人で5000万円を出すぐらいだ。その黒髪の種族研究は何かしら意味があるのかもしれない。
「あの子の価値はそれとなくわかった。それでもお前さんは俺にあの子を預けるのか?」
「それは貴方次第であります。当初の金換券4500枚は構いません。もし、彼女をお買い上げ頂く場合は、残りの金換券1万5000枚を貴方への貸しとします」
「つまり、いつか返せと?」
「いいえ、貴方が一度でも主人として不適合であると分かれば、全額返済を請求するつもりです」
巨額の金銭で俺の人生を縛るか……だが俺は決まっている。
「それでも、俺はあの子の主人になってやる」
「その理由は?」
簡単な事だ。
「あの子を守ると決めた……あの子は、どうしようもない俺を身を呈して守ろうとした」
貴族エルフにナイフを指し続ける姿は、感じるものがあった。
「俺は前、人を殺し続けた殺人鬼だ。そんな俺でも良いのか?」
「私は正しい者の味方です。貴方の過去ではなく、現在及び未来で判断をいたします」
本当に変わったおっさんだ。
「あの子の道は俺じゃない。だが、俺の道にあの子がいなければ、俺の道はそこで終わる……いや、終わらせる」
これは、ただの商談じゃない。
俺が、この世界への『対話』であり、オーメルさんとの『対話』でもある。
今、俺は国家を動かす程の……この世界への影響をもたらす『対話』を行おうとしている。
「あの子のためなら金換券2万枚なんて、安いよ。あの子の命に価値は付けれないからな」
オーメルさんは、一枚の板を取り出し何かを呟き始めた。
「もし、ポーク子爵が私どもの用意する額を超えてきたら?」
「その時は、世界でも滅ぼすよ」
また俺は同じ過ちを犯してしまいそうなぐらい、あの子を守りたい。
「冗談のような事を……しかし…」
最初は赤黒く光っていたそれは、緑の純粋な色変わっていった。
「……わかりました…オオミヤ様、貴方を正当な商談相手として認めます」
すると、オーメルさんは内側のポケットから小さな鈴を取り出し机に置いた。
「それは?」
「心理の鈴でございます」
だろうな。
あのカードもダミーだったようだ。
これで、俺も生きる意味が見出せた。
つづく
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