ラショナリゼイション

 彼には歌は必要ない。詞を見た事実があればいい。

 メロディ旋律なんのその、言いたい事は迅速に。

 彼に手足は必要ない。頭があればそれでいい。

 その手に取るから悩んでしまう。足がなければ足蹴にできぬ。


 彼に味覚は必要ない。腹が満ちれそれでいい。

 ガブッと丸呑み飲み込んで、腹でもがけどお構いなし。 

 彼に嘘など必要ない。割れた舌先あればいい。

 物こそ掴めぬ身なれども、心掴むは十八番。


 今日も今日とて酒と語るは、昔の仕事の大一番。

 惚けておだてる阿呆を肴に、デンキブランをペロリとひと舐め。

 神をも騙した果実の話を、幾千幾万繰りかえす。

 気分良くして床へと飛び出し、曲に合わせて踊るや否や

 頭上に迫るはラクダのひずめ。

 咄嗟に頭を抱えたその時、手足がないのを思い出す。

 潰れ弾ける頭の隅で、思い出すのは昔の仕事。


 「俺は食べろなんて言っちゃいない。死ぬこたぁないって言っただけ」

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