第28話「ヒデン・テンプルpart2」

 シエラに迫るこん棒の像。その鈍器が野球のバットのように振られる。シエラの回避は間に合わず、とっさに剣を盾のように構えるが、その圧倒的なパワーに、シエラは人形のように吹っ飛んだ。


 こん棒を振り切り、その動きに隙がでる。リュウトはそれを見逃さず、一気に走りこむと飛び上がって像の首を刈り取った。重々しい音を立てて首が落ち、こん棒の像はゆっくりと後ろに倒れた。


「シエラさん! 大丈夫ですか!」


 壁に寄りかかっていたシエラが弱々しく親指を立てる。


 だがその時、斧の像がパンドラを守っていたイオを腕で殴り飛ばすのが見えた。そしてその腕を上げ、パンドラめがけて振り下ろそうとしていた。


「パンドラ!」


 考えるよりも早く走り出したリュウトは、斧が振り下ろされる直前にパンドラとの間に割って入り、その体を抱きかかえた。


 しかし、斧を避けている時間はなかった。目を瞑って痛みに耐える用意をしたが、それはついに訪れなかった。魔導衣ローブのマフラーが勝手に、いや、クラークの意思で動き、白羽取りの要領でその刃を掴んでいたのだ。


『リュウト……急げ……!』


 クラークの振り絞るような声音に、この状況で長い時間耐えられないことを悟ったリュウトは、そのまま正面の壁を上るように走ると、それを蹴って像の頭上を跳んだ。


 それと同時に炎の矢が像の頭部を爆発させ、リュウトは背後に着地した。後ろを振り向くと、こちらに炎の弓を向けているシエラが立っていた。


 残っているのは右腕と右足を失った槍の像と、今のところ無傷の剣の像だ。槍の像は左手で槍を拾い上げると、残った左足で器用に立ち上がった。


 剣の像は顔の横で剣を構え、その切っ先をこちらに向ける。イオは床に伸びたまま動く様子がない。いつあの二体の像がパンドラに攻撃するか分からない以上、リュウトはパンドラを抱きかかえたまま戦うしかなかった。


 槍の像が飛び上がり、急降下串刺し攻撃を仕掛けるが、二人は左右に飛び退く。


 リュウトが地面に突き刺さった槍の穂を切断すると、その勢いで回転しながら倒れこむ像の首をも斬る。


 槍の像が無様に倒れる横で、剣の像がシエラに鋭い突きを放つ。それを叩き落とすようにして切っ先を逸らすと、返す刀でその首を狙う。


 像は首をわずかに傾けて回避、その場で回転しつつ、シエラの背中を斬りつける。空中にいるシエラはそれに対応しきれない。


 リュウトがその刃をシュエルヴで受ける。


 その時何らかの強い思考が、シュエルヴを握った手から伝わってきた。


 冷たい手に心臓を鷲掴みにされたような、捉えた獲物は逃さないという強い殺気が、全身駆け巡り、肌を粟立たせた。


「なんだ……これ……」

「ありがとう! 助かった!」

「……あ、はい!」


 シエラは着地と同時に像に向かって走り出し、像に向かって右手をかざす。そしてその右手を握ると、像の周囲から炎の鎖が伸び、体に巻き付いた。


 リュウトが炎の鎖で拘束された像の右腕を斬り落とし、シエラは左足を切断。二人はひざまついた像に接近すると、クロスするようにその首を刎ねた。ゴトリ、と首が転がり、像が倒れた。


「……これで終わり、かな」

「だといいんですけど」


 剣を鞘に納めたリュウトは、まだかすかに震えている右手を見た。


 さっき像と切り結んだ時、何か漠然とした思考が頭の中に流れてきた。恐れと畏怖、それに殺意。どす黒い感情が、胸の中に澱のように沈んでいくのを感じた。


「イオ! 起きてるの?」


 すると倒れていたイオは右腕を上に突き出した。


「再起動まで時間をください!」


 その時、大きな振動と共に部屋の中央が開き、丸い円筒型の穴が開いた。そこに像の残骸が落ち、遥か下から石が砕けた音が聞こえた。穴を覗くと、かなりの深さまで掘られているようだった。

 シエラは、参ったわねというように腰に手を当てた。

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