第一章 胡蝶の見る夢 二

「陽向、朝だよ、起きて」

 滑らかで美しい声に名前を呼ばれ、優しく肩を揺さぶられて、陽向はほっと息をつき、重たい瞼をゆっくりと持ち上げた。

「……今、何時?」 

 低血圧で朝の寝覚めの悪い陽向は枕に顔を押し付けて、嫌々をするように頭を振る。

「七時を回ったところ」

 そろそろ起き出して、仕事に行く準備をしなければならない時間だ。

「アラームは鳴った……?」

「鳴ってたよ。僕が先に起きて、消したけれどね」

 彼が寝室の遮光カーテンを開くと高層マンションの十階にある窓から、よく晴れた朝の光が差し込んできた。

 眩しさに一瞬目が眩み、窓の前に立つ人の姿が、淡い光の筋の中、陽炎のように揺れて霞んだ。

「朔也」

 とっさに不安に駆られて呼びかけると、朔也は振り返った。十年以上前に出会った時からあまり変わっていない、涼やかな目元が印象的な端正な顔立ち。背は高く、アメリカにいた頃やっていたテニスを辞めて少し痩せたくらいで、スタイルも昔のままだ。

 長めの髪はもとがくせ毛で、起きたばかりの今は、右側のひと房が変な方向にはねている。

 どこにも変わったところはない。いつも通りの彼だ。

「……どうしたんだい?」

 異様に真剣な陽向の視線を受けて、朔也は不思議そうに首を傾ける。

「ううん、ちょっと……目が覚める前に悪い夢を見ていたような気がするの、内容はもう思い出せないんだけれど……」 

 頭の芯にわだかまった滓のようなものを振り払うかのごとく頭を揺らし、陽向は改めて朔也に向き直った。

「寝ぐせが付いているわよ、久藤博士」



 職場も同じ、共働き夫婦の二人は、トーストとベーコンエッグの簡単な朝食を手早く済ませ、一緒に家を出た。

 結婚後、朔也が務めている汎用型人工知能研究所のある神戸のスマートシティ特区に移り住んで、もう二年が経つ。朔也は脳型人工知能研究開発室のチームリーダー、陽向自身もまた別のラボで働く研究員だ。

 今はこうして職場近くのマンション暮らしをしているが、朔也が商品開発に関わっている、アメリカのベンチャー企業が特区での建築を申請中のスマートホームに許可が下りれば、被験者になる条件で入居する計画だ。この街は環境もいいし、そのうち子供ができたら育てるにはいい場所だという朔也の意見には陽向も賛成した。

 確かに子供は、いつかは欲しいと思う。一年前に急逝した父親に孫の顔を見せてあげられたら、よかったのにとも――。

 人工島の主要な交通機関の一つである、自動運転のシャトルバスに乗り込む。専用の車線を走行する電気車両は、揺れは少なく、耳障りなモーター音もなく、快適だ。

(でも、まだ少し早いかな)

 窓の向こうに見えてきた、汎用型人工知能研究所の白いビルを眺めていると、微かな緊張感と共に身が引き締まるような気がした。

(子供を作る前に、私にはまだやりたいことがあるもの)

 ぼんやりと考え事に耽っている陽向の顔を、傍らの朔也が覗き込んできた。

「朝から難しい顔をしているね、陽向?」

「うん……大丈夫、今の研究テーマにちょっと煮詰まってるだけ」

 陽向が適当なことを言ってごまかすのに納得したのかしないのか、朔也は気づかわし気な表情を浮かべたまま、無言でじっと彼女を見つめ続けた。

 朔也は、月の差さない夜のような黒く、静謐な瞳をしている。

 この目にこんなふうに深々と見つめられると、胸に隠し持っている悩みや不安を打ち明けずにはいられなくなるのが常なのだが、今は込み入った話ができるタイミンクではない。

丁度バッグの中のスマホがメールの着信を伝えて鳴ったので、確認すると、今日取材予定の雑誌の記者からだった。

「……お話を伺うのを楽しみにしています、かぁ」

 社交辞令のあいさつメールを読んで憂鬱な気分でため息をつく。

「取材、今日だっけ……佐々木博士の知り合いの記者だったよね、雑誌Athenaのweb版だっけ」

 汎用型人工知能研究所で働く若い女性研究員を記事にしたいということで、ラボで一番若手の陽向が相手をすることになったのだが、インタビューなど初めての経験だ。

「専門雑誌じゃないから、そんなに構えることはないんじゃないかな」と、専門誌はおろかテレビの取材経験もある朔也は、鷹揚な顔で頷き返す。

「記者の人だって、お偉い先生じゃなく若手の研究員の話を聞きたいから、陽向が選ばれたんだろう。一般読者が聞いて面白いと思えるような話を分かりやすく説明すればいいだけだよ」

 嫌味の欠片もない、のほほんとした口調に、ちょっとかちんときた。

「なによ。偉い先生じゃなくて、お生憎様でしたね」

 陽向はむっと頬を膨らませ朔也の胸を小さな拳で叩くと、戸惑う彼を置いて、丁度職場前の停留所に着いたバスのドアへとまっすぐに歩いて行った。

 乗客の半分ほどもここで降りる職員だったので、人の流れに任せてさっさと先に降り、エントランスへと歩を進めていく。

「陽向さーん、仕事終わったら、連絡して」

 振り返ると、同じ研究室の同僚に捕まった朔也がこちらに向けて手を振っていた。

そう言えば近くに新しいイタリアンレストランができていたから、帰りに寄ってみようと話していたのだ。

 拝むような仕草をする朔也を見て、拗ねていた陽向もちょっと気持ちを和らげた。大きく手を振り返しながら、「うん、分かった」と答え、大勢の職員達が入っていく自動ドアをくぐった。



「初めまして、Athena Web版の脇本真子です。この度は、取材の申し込みを受けてくださって、ありがとうございました」

 各研究棟に面した広々としたオープンスペースで待ち合わせていた記者は、陽向とあまり変わらない二十代半ばくらいの若い女性だった。

 明るく開放的なカフェのような雰囲気のフロアの一角で、どこかのラボの研究員達がディスカッションをしている様子を遠目に眺めながら、簡単な挨拶と施設の説明をした後、陽向は彼女を自分のラボに連れて行った。

「佐々木先生から話には聞いていましたけれど、久藤さんって、所謂理系女子のイメージじゃないですよね。こんなに可愛らしいのに、頭もいいなんて、何だかずるいです。うちの雑誌は、男性だけじゃなく女性読者も多いので、きっと親近感を持って記事を読んでもらえると思いますよ……ああ、後で写真も撮らせてくださいね」

 明るくはきはきとした態度で、親しみのこもった口調で話しかけてくる脇本に、陽向は曖昧に微笑み返しながら、内心溜息をついた。

(……理系女子なんて、今でも言うんだ)

 ラボに入ると奥のデスクにいた同僚の一人がパーテーションの向こうから一瞬顔を覗かせ、頑張れよというように無責任に手をひらひらさせてきた。

 チームリーダーの佐々木は、他の研究員を連れて東京で開かれるセミナーに出かけている。一般紙の相手だなんて彼らにしてみれば面倒なだけことを、陽向は押し付けられたわけだ。

 陽向は深呼吸し、自分のワークスペースに脇本を招き入れた。大丈夫。この日のために、数日間考えに考え抜いたプレゼンだ。この記者はきっと喜んでくれるはず。

「脇本さん、まず、ラボのマスコットのRuikunを紹介しますね」

デスクの上をちょこちょこ歩いてくる、AIロボットRuikunを見て、陽向とさほど年の変わらない脇本は案の定、大喜びした。

――こんにちは。

 興味津々の記者の顔をパソコンの陰から見上げる、小さなロボットの顔にははにかむような笑顔――と見える表情がうかんでいる。

「……このRuikunは、対話する相手の表情や言葉に反応して、豊かな感情表現を交えたコミュニケーションができるんですよ。家庭用のペット・ロボットよりも、ずっと人間に近く、高度な知能を持っています」

 親を見る幼児のように陽向の顔を窺ったかと思うと、Ruikunは子供のような甲高い声で行儀のいい挨拶をした。

――ようこそ、AIのコミュニケーション研究室に。僕は、コミュニケーション実験用ロボットRuiです。

 固唾を飲んでロボットを見守っている脇本の頬にたちまちえくぼができる。

「可愛いですね、Ruikun」

 そう思うのも当然だ。幼児のような体つき、子猫を思わせる顔と丸い大きな目――試作を重ねて作られたボディは、接する人の警戒心を極力和らげるように意図されている。

 ゲームやアニメの可愛らしいキャラクターを見慣れている人なら、一目で親しみを覚えるはずだ。

「コミュニケーション・ロボットにとって、外見の愛らしさは重要なんです。人間が接して不安や警戒心を抱かせてしまうようでは、将来人間と直接にやり取りをして、人の生活をサポートするAIのモデルとしては失格ですからね」

 少し余裕の出てきた陽向はRuikunの頭を撫でながら、興味深々の顔で自分の話に聞き入っている記者に向かって、真剣な顔で問いかけた。

「脇本さんは、不気味の谷という言葉を知っていますか」

「うーん……どこかで聞き覚えはあるような気もしますけれど、その意味までは知らないですね」

 曲がりなりにも人工知能研究者を取材しようというのなら、このくらい知っておいてほしかった。

「例えばRuikunのように、ロボットの機能が人間に似てくるほど私達の親近感や愛情は増してきます。ところが、不気味なほどに人間に似てしまつた途端、親しみは一気にマイナスに転落し、ロボットに対し今度は嫌悪感をかきたてられるようになるんです。これから、愛が敵愾心に変わる、そのいい例をお見せしましょう」

 陽向は記者の手にしているレコーダーにちらりと一瞥を向けた後、デスク上のパソコンを操作した。

「このRedaは、ロボット搭載型ではなく、ディスプレイに表示されたアバターを通じて、この研究所のサーバにある人工知能と直接に対話することのできるシステムですが――」

 プログラムが立ち上がるのと同時に画面に浮かび上がった、かなりリアルな人間の女性の顔を見て、脇本は素直に眉をひそめた。

「この顔は実在の女性ではなくCGで作られたものですが、Ruikunよりも更に高度なコミュニケーションが可能です。脇本さん、Redaに何か声をかけてみてください」

 脇本はしゃきんと背中を伸ばし、緊張気味にディスプレイの中の女性に向かって語り掛けた。

「……初めまして、Reda……さん……?」

 金髪碧眼の美女の顔をしたアバターは、しばらく無表情で正面にある脇本を見るともなく眺めたかと思うと、唐突に口を開いた。

――初めまして、脇本さん。今日は、いい天気ですね。

 Redaの声は、合成音声だが、肉声に近い仕上がりになっている。寝起きの人みたいに不機嫌で不愛想だが、声だけなら人間と区別はつかないだろう。

「あ、そうですね……梅雨に入ったばかりは思えないくらいに……」

――降水確率は深夜までゼロパーセント。外出の際、傘は持たなくても大丈夫でしょう。

 事務的な口調で言った後、少し間を置いて、ぎこちない笑みらしきものをRedaは浮かべる。こんな血も凍るような笑顔を恋人から向けられたら、百年の恋でもきっと冷めるだろう。

「自然言語で対話できる人工知能は、汎用型量子コンピューターの開発が進んだおかげもあって、様々なニーズに合わせて作ることができるようになってきました。けれど、AIが人間の共感をかきたて、円滑なコミュニケーションが取れるようになるまでには、このRedaを見るように、なかなかハードルが高いんですよ」

 無表情で黙り込んだまま、一定間隔で無意味な瞬きを繰り返しているRedaの顔を茫洋と眺めていると、脇本の感じ入ったような声が耳に届いた。

「不思議ですね、RuikunよりもRedaの方が表情も音声も滑らかで自然で人間に近いのに、何を考えているのか分からないゾンビを相手にしているみたいに不気味だなんて……」

 ゾンビ、まさにゾンビだ。この記者は、ここに来て初めて的確なコメントをしてくれた。

「私はいつか、人間のコンパニオンとしてその生活に寄り添ってくれるようなAIを作りたいと思っているんですが……それには、まず、この不気味の谷の問題を越えなければならないでしょう。AIが、人間と見分けがつかず、振る舞いも人間そっくりになった時初めて、人間は彼らに共感し信頼できるようになるはずなんです」

 遠い目をして呟いた後、陽向は脇本を振り返って、親しみのこもった笑顔を見せた。

「人間そっくりなAI開発にはハードの問題もあるけれど……とりあえずは、このゾンビみたいなアバターに自然な受け答えとそれに合わせた表情の変化ができるようなアルゴリズムを開発するのが目下の私の目標ですね。一昔前の特化型人工知能と違って、私達がこのコミュニケーション型の人工知能に求めるのは、必ずしも、人間が投げかける問いに対する正解ではないんです。大切なのは結論ではなく、そこに至るまでの過程なんだという、人間同士のコミュニケーションと同じ本質だから――」

 脇本は、陽向の言葉に賛同するというかの如く大きく頷いた。

「最近では、人間同士のつながりが希薄になって、コミュニケーションがうまくできず人間関係に悩むことが多いように思いますが……AIが人間の新たな友人になってくれるかもしれない未来、そこでもまた大切なのは言葉のやり取りを面倒がらずに重ねるという当たり前の姿勢だということですね」

 頭の中で記事にする文章をひねってでもいるのがしばらく考え込んだ後、脇本はまた別の質問をしてきた。

「ところで、久藤さん、これは、人間と自然言語でコミュニケーションできるAIという、あなたの研究テーマは抜きにして――人間と同じように、自分で考えて行動に移す意識を持つAIは、いつか本当に開発できるものなんですか?」

 陽向はたちまち答えに窮して、困ってしまった。魔法の呪文が分かれば可能だろう。しかし、世界中の研究者の誰もまだ魔法の杖さえ持っていない。

「そうですねぇ……残念ながら、当分の間、それはフィクションの中だけの話になりそうですね。私達はよく脳をコンピューターに例えるけれど、実際に人の頭の中の柔らかい神経組織の塊はコンピューターとは似ても似つかないでしょう?」

 まだ納得していない脇本の顔を見て、嘘は言えないが、陽向は更に言葉を重ねるしかなかった。

「確かに、いくつかの異なるアプローチで、意識を持つ人工知能を作ろうとする研究は世界中で行われているんですよ。ここ汎用人工知能研究所でも、久藤朔也の研究チームが、人の脳の全ての領域の働きを再現した汎用型人工知能の研究開発をしていますし……彼に言わせると、クラウド上のAIに意識活動を持たせることはもうすぐ可能になるそうです」

 朔也の研究について触れる陽向の口はつい重くなったが、それも気づかず、朔也の名前を聞いた脇本は目を輝かせた。

「ああ、若き天才と呼ばれる人工知能研究者、久藤朔也博士は、そう言えば、あなたの御主人でしたよね。私、彼が何かの賞を海外でもらった時のニュース記事を読んだことがあります。博士のような人が身近にいると、研究者として刺激も受けるんでしょうね」

「……それは確かに感じますけれど、家ではお互いの研究の話なんてしないんですよ」

「あら、意外です。科学の最先端にいる研究者夫婦が、他にどんな話をしているのか、見当もつきませんけれど――」

 この話題は準備してきたプレゼンの内容の中に含まれていないんだけれどなと思いながら、陽向はむきになって言い返す。

「普通に、近所にできたイタリア料理の店に仕事帰りに行こうとか、そんな話よ。彼はトマトソースが好きだから、パスタはいつもアマトリチャーナ……最近はまっている微発泡のワインを一緒に頼んで……ちょっと、こんな話、聞きたいんですか……?」

「問題ありません」

 トマトソースのスパゲッティくらい、陽向だって作ろうと思えば作れるのだが、結婚前のように今でも外に食事に出かけたり、休日に一緒に出掛けたりしているあたり、まだ新婚気分の抜けきらない仲のいい夫婦なのだろう。

「研究者としては、彼のことももちろん尊敬しているけれど、私の場合、亡くなった父の影響が大きかったのかな……と思います」

「この汎用型人工知能研究所の初代所長、宇和孝之博士のお嬢さんでしたね、久藤さんは……どんな方だったんですか?」

 朔也について聞かれるよりは、父の話をする方がまだ気は楽だ。研究者となった当初は、どこに行っても『宇和博士のお嬢さん』と呼ばれるのに抵抗を覚えていた。今はそれが『工藤朔也の妻』に取って変わった。

「いつかロボットの友達を欲しいと夢見た子供がそのまま大きくなったような人でしたね。研究が仕事であり、趣味みたいな……世間のことには疎かったけれど、AIやコンピューターの話になるとたちまち饒舌になって、生き生きと目を輝かせて――私が進路の相談をした時、一人娘が理工学部に入って研究職を目指すということに賛成してくれたのは母よりもむしろ父の方でした」

 ちょっと込み上げてくるものを覚えて、陽向は長い睫毛を震わせながら、目を伏せた。

「朔也……夫も私の父とは昔から交流があって――彼を最初にスタンフォード大学の研究所から日本に招いたのが父でした。母も健在だった頃、一人暮らしの彼はよく家に遊びに来たんです。家族のようにわいわいと食事をした後、リビングに移って、朔也さんと父はよく人工知能やコンピューターの将来といったディベートみたいな話をしていました。私も自分に持てる限りの知識を総動員して、二人の話に加わったこともありましたね。日本を代表する人工知能学者と将来を嘱望されていた若い研究者、そして、何も分かっていない恐いもの知らずの高校生だった私……子供が語る夢物語でしかない意見でも、二人は真剣に耳を傾けて、どんなアプローチをすれば可能性が開けるのか、実現のためにはどんな技術の発展を待たなければならないか、それぞれの考えを聞かせてくれました」

 今はもうなくなってしまった実家のリビングでの楽しい夜のひと時のことを思い出すと、陽向の胸は懐かしさでいっぱいになる。

「父と朔也さんの意見は、必ずしも一致しなくて……朔也さんはどちらかというと私の夢に肯定的でした。年が近いからかもしれませんね。けれど、最後の最後ですとんと腑に落ちるのはいつも父の言葉でした……現実味があるというのかしら。私が今、自分の研究で煮詰まっているようなことを当時、既に父は予言していたような気がするんですね」

 不気味の谷を乗り越えて、人間の友となれるAIを作るのに、ここまで苦労するとは当時は思っていなかった。しかも陽向が力を注いでいるのは、あくまで彼らの振る舞いや表情、話し方といった外見から受け取る印象の調整に過ぎない。

 いつか人間は、ロボットという体を持つか、コンピューターのディスプレイ上にCGとして現れるAIに、親愛の情を持てるようになるかもしれない。しかし、相手が心を持たない限り、その愛情は人間からの一方通行なのだ。なんて空しい徒労なのだろうか。

 人工知能の中に真の意識を宿らせるという、途方もない研究に携わっている朔也は、陽向のように乗り越えられない壁にぶつかって挫折感を覚えたことはないのだろうか。あまり細かいことにこだわらない、柔らかな笑顔からは、そんな葛藤は伺えない。それが天才と凡人の違いなのだろうか。

 そんな久藤朔也は陽向の夫だ。あまりにも身近にいる人だからこそ、彼の存在が、時として陽向の胸に小さな苦痛を覚えさせるのだ。


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