酔ってはおらぬ筈…<源之丞視点>
言綏が去ってしばらくして、少しずつ酔いが落ち着いてきた。さすがロイエ殿特製の薬。酔いが回るのが早くなるが、その分回復も早くなる──体感上は。
実際、酔いが完全に冷めるには長時間を要するが、そこまで冷めずとも良い。
頭と身体がある程度思うように動けば良い。
水を飲む。
言綏め、あんな強い酒を飄々と飲みおって。
息を吐き、大きく吸う。
私もここで、為すべき事を為さねばならん。
あれだけの大言を吐いた。言綏に兄上達の尻拭いなど、申し訳無くてさせられぬ。
到着して直ぐに二人で練り歩いた。
果たして翌日には、ホルヘ殿とアドリアナ殿と言う人物が釣れたのだから、言綏の狙い通りである。
なまじ言綏や父上、ルシアン殿、アルト公なんぞを見知っているだけに、腹に一物あるような人物は見抜ける。いや、この四人はそうでなくとも何か企んでそうに見えるな……。
二人が最終的に何を目的として私に近付いたのかはまだ不明だが、言綏には敵うまいと思って私に近付いたのは明らかだった。それはそれで複雑な気持ちになるが……この際それは捨て置く。
あちらの方は順調なのだろう。今日も私にわざと強い酒を飲ませて外出したと言う事は、誰か目当ての人物を釣り上げようとしているのだろうと思う。
言綏が日中、外で活動している間、私の元にオメテオトルの使者と名乗る者が姿を見せた。こちらに来てからずっと私と言綏を見張っていた者だろう。
夜半に抜け出して来いと言われていたものの、どう抜け出したものかと考えあぐねていたのだが、都合良く言綏が酒を出した。酔い潰れた振りをした所、上手く騙されてくれて出かけて行ったのは僥倖である。
足音を立てぬように通りに出て直ぐに、昼間に姿を見せた影が音も立てずに建物の陰から姿を見せた。
「……こっちだ」
階層を二つ上がる。
ここは確かイリダの王侯貴族が利用する店々が並ぶ階層だ。オメテオトルはイリダの王族と言う事だったから、不思議は無い。
影はある建物の裏口に回ると、扉を小さく二度、叩いた。
扉が僅かに開き、中の光が漏れる。
私と影を確認すると扉が半分程開いた。
「……中へ」
背を押されるようにして中に入ると、後方から扉の閉まる音がした。
「既にお待ちです」
それは、オメテオトルがと言う事だろう。
後をついて行くと、階段を更に上がるようだった。
床はふかふかとした敷物が敷き詰められており、壁面の装飾もきらきらしい。流石、イリダの王侯貴族御用達といった所か。
突き当たりの部屋の扉の前で案内人は立ち止まり、扉を軽く叩いた。
「……お入りになって」
……? 男子の声……?
オメテオトルは女人と聞いている。となれば、他にも呼ばれた人物がいるのやも知れん。
開かれた扉の先に、豪奢な長椅子に腰掛ける人物が見えた。
少し暗めの金髪を、ゆったりと右耳の横でひとまとめに紐で結っている。女性が着る長いスカートをはいている。
美しい
だが、どう見ても、この人物は……。
目の前の人物は柔らかく微笑んだ。
「初めまして、ね。お名前をお伺いしても良いかしら?」
低めの声。細い首に出ている喉仏。
「……燕国公方が三男、
酔いの所為ではあるまいな。そう思って何度も瞬きをしたが、目の前の人物の姿形は変わらない。
「私はオメテオトル……」
オメテオトルと名乗ったその人物は、どう考えても、男子にしか見えなかった。
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