031.今日も今日とて破廉恥です

源之丞様と側近?の人が何故、イリダに向かう事になったのかを、セラが教えてくれた。


腹違いの兄二人が、この大陸にオーリーのアサシンを紛れ込ませたり、魔石の存在を教えちゃったらしい。

控えめに言うけど、その馬鹿兄共はこの世から消えれば良いのにね? しかもその尻拭いを弟にやらせるとか。

ラトリア様だったら、絶対そんな事しない。ブラコンだから!


イリダの船舶は直接マグダレナの大陸には来ないらしい。

技術的には可能だろうとの事だった。


「まだ様子見と言う事ですか?」


「その次兄が定期的に魔石をイリダに売っていたらしいから、焦りは感じてないのかも知れないわ」


ん?

でも、私の事が知られているから、アサシンが狙ってるんじゃなかったっけ?


「ミチルちゃんを手に入れたいとは思っているだろうけど、魔素があるのはこの大陸だけなのよ。だから、ミチルちゃんを誘拐しても駄目なの。この大陸からは出せないんだから。

それに、ミチルちゃんとの間に子をもうけさせるにしても、一人いれば良い訳じゃないでしょ? 血の濃さは薄くなっても濃くなっても駄目なのよ」


あぁ、そうか。

レアな奴いた! 君に決めた! では済まないって事なんだ。

継続した電力源が欲しいんだもんね。


「思うようにはならないものなのね」


「何を他人事みたいに言ってるのよ。ミチルちゃんの事なのよ?」


おでこを突かれた。

コレ、久しぶり!

痛いのは嫌だけど、セラが帰って来た感があって嬉しい!

ニヤつく私を見て苦笑するセラ。


「その、お兄様達はどうなったのですか?」


「投獄されてるわよ、当然。処刑が確定しているもの」


本当にこの世から消えるのか。

自国内で処罰を受けなかったとしても、魔王様オトーサマやルシアンや、公家の人達に抹殺されそうだよね?

どのルート辿っても、死亡フラグ不可避。

聞いてると自分が公方になりたい為だけにこの大陸を売ったっぽいから、絶対に許されないよねー。少なくとも私は許さないよねー。

燕国の公方も、自分の息子を処刑しなければ国が滅ぶ状況と言う事だ。


「そうなると、魔石の確保が大変なのではないかしら?」


「それぐらい何とかするでしょ」


そうなんだろうけどさ。

源之丞様達は何も悪くないのに、その馬鹿兄の尻拭いさせられるんでしょ?


「助けたいと言うミチルちゃんの気持ちは素晴らしいと思うけど、これは燕国の失態で、燕国が自力で解決しなくてはならない事案なんだから」


燕国として、と言われてしまったらもう何も言えないなぁ。


押忍。

セラが淹れてくれた緑茶を飲む。


「イリダと言うのは、どんな国なのですか?」


「うーん……マグダレナとは交流がないのよ。だから詳しくは知らないの。交易があるト国と燕国ならいくらか知ってるんだろうけど」


世界地図を見せてもらったら、マグダレナの大陸は結構大きかった。

前世で言う所のユーラシア大陸がイメージ近い。大陸の左側、大きさで言うなら大体1/3がディンブーラ皇国圏内。

大陸の右上が雷帝国。右下から南側がギウス。


マグダレナの大陸から見て、海を隔てて東に位置するのが、イリダとオーリーの混血の燕国。海を隔てて南西側に位置するのがト国。

北半球と言うべきか、マグダレナの大陸は北の大陸と呼ばれる。


世界の反対側に、海を隔てつつタイチーマークのように存在する二つの大陸が、オーリーの大陸とイリダの大陸なのだそうだ。こちらは南の大陸。


イリダの大陸には戦争に負けたオーリーの民が住んで、オーリーの大陸にはイリダが住むと言う逆転現象が起きている。


「ねぇ、セラ、私達マグダレナの民は、国こそ分かれていても、同じ民族でしょう?

ギウスと、ト国と、燕国の違いは何なのかしら?」


平民であるオーリーの民とは基本交わらない。

魔力の器の事もあるし、大陸に魔力をと言う事実がオープンになれば、マグダレナの民は今まで以上に平民との婚姻を嫌がりそうである。


「ギウスもト国も燕国もオーリーとイリダの混血ね。

ギウスはオーリーの血が濃いから、戦闘を好む民族だと言われているわ。あの褐色の肌の色はオーリーの民の血の濃さを表していると言われているの。

ト国はイリダの血が濃くてね、知恵が回ると言われているわ。

燕国はね、マグダレナの血が混じっているのよ。3つの血が混じっているのなんて、燕国だけじゃないかしら」


えっ!

そうなんだ!


「だから、ひと口に混血と言っても、長い年月を経てもいるし、同じ民族とは言えないでしょうね」


なるほどねー、と納得しながら、お茶受けのお菓子を食べる。ハウミーニアでの小豆育成は順調で、その小豆から作った餡を挟んだどら焼きが、コレである。

小豆の粒は小さいものの、味は美味しい。これはやっぱり、大地に魔力が行き渡っているからとか、そう言う事なんだろうか。

ただねー、繊細さはないんですよねー。


「このどら焼きは、ルシアンの元にも?」


セラは首を横に振る。


「ルシアン様は甘い物を召し上がらないから」


ですよね。

でも、せっかくハウミーニアで採れた小豆なんだし、少しは食べても良いと思うんだよね。


「ミチルちゃんが食べさせれば、喜んでお口になさると思うわよ?」


それだ!


「名案ですわ。私、ルシアンにどら焼きを食べさせに行って来ます」


感心するようにセラが頷く。


「しばらく離れている間に、ミチルちゃんてば、随分と自分から愛情表現をするようになったわねぇ。良い事だわぁ☆」


「色々努力したのです」


それはもう、血の滲むような日々……は送ってません。

えぇ、日々ぐいぐい来るイケメン夫に押されまくって悲鳴あげてました。いや、でも、私なりにだね、頑張ってました。時間かかり過ぎ、しかもまだそこなのかと言うお叱りはごもっともです……はい……猛省しておりますので、どら焼き持って突撃して来ます……。


にんまりとセラは微笑む。


「いってらっしゃい☆」


どら焼きをお皿に乗せて、いざ、ルシアンの部屋へ!

って言っても隣の部屋なんだけどね。


ドアをノックすると、直ぐに開いて、ロイエが部屋に招き入れてくれた。

ルシアンは私が入室すると直ぐに、私をわざわざ迎えに来てくれる。


「どうしたんですか? これは、どら焼き?」


尋ねながら私の頰を撫で、持って来たお皿の上のどら焼きを見た。


さすがです! さすがですよ、ルシアン! ミチル心を鷲掴みですよ!

撫で方にすら愛情とか優しさとか感じちゃうよ!


「ルシアンにも召し上がっていただこうと思いましたの」


「ハウミーニアで初めて採れたと言う小豆が入ってるんでしたか」


「そうですわ。ですから少しだけ、私にお時間をいただけますか?」


勿論、と答えて頰にキスを落としてくる。

はぅ……きゅんとするから、お手柔らかにお願いしたい……! っていやいや、さっき猛省して、頑張るって決めたのに!


カウチに並んで腰掛け、どら焼きを千切ってルシアンの口に運ぶ。


「あーん」


蕩けた顔のルシアンが口を開ける。そこにどら焼きを入れる。もぐもぐと咀嚼する姿もイケメンです、えぇ。

360度何処から見てもイケメンだと思うんだよね。私がルシアンのこと好きすぎるのをさておいてもですよ?


「美味しいです。ミチルはもう食べましたか?」


「いただきましたわ。あまりに美味しかったので、ルシアンと共有したくなったのです」


執事に復帰したセラが、私に言った言葉がある。


"脳内で完結しないでもうちょっと喋ってちょうだい"


ぎくっ!

自己完結型な私は、脳内で激しくボケ、ツッコミ、独りちる訳です。それがバレていたとは……!

恐るべし、セラ……!

……ってまぁ、ルシアンにもバレてるとは思う。


「ありがとう、ミチル」


そう言って微笑んでくれるルシアンに、またしても胸が疼く。

はぁ……どうなってんのかな、このイケメン。

見た目だけでは飽き足らずに、ピンポイントで攻めて来やがりますよ……!


「どうしたの?」


「……ルシアンが……」


「私が?」


「イケメン過ぎます」


素直に思っている事を口にすると、ルシアンが噴き出した。


「!」


笑われた!

頑張ったのに!


「真剣な表情で何を言うのかと思えば」


ふふ、と笑ったルシアンは、私の手からどら焼きを取ると、ひと口サイズに千切って私の口に押し付けてくる。

これはルシアンのなの! と言う意思表示として首を横に振る。


「ミチル、あーんして?」


「?!」


ちょっ!

卑怯! 卑怯だよ、それ……!

そんな顔で、そんな甘い声で言われて、逆らえる者がいるだろうか、否、無い(反語)


おずおずと口を開けると、どら焼きが口に入る。

美味し。


「ルシアンに食べさせたいのですよ?」


食べ終えた私が抗議の意味も込めて言うと、にっこりと微笑んでかわされてしまう。


「私はひと口で十分ですよ。それよりも、美味しい物を食べて幸せそうにする貴女を見る方が、何倍も幸福感を覚えます」


だから、食べて? と何故か色気出しまくりで言ってくる。どら焼きだよ?! どら焼きを食べさせるのに、その色気必要ですか?!


次のどら焼きが口に運ばれてくる。

うーむ……何かおかしい……おかしいけど、ルシアンが満足そうだから、良い……のか……?


笑顔のルシアンを見ていたら、何だかよく分からなくなってきたよ!


頰にキスされまくるけど、どら焼き食べてるんだってば。


「一生懸命食べてて可愛い」


「……食べてるだけですよ?」


常々思ってる事だけど、ルシアンは目が悪いんじゃない。目がおかしい……!


「ミチルが何をしていても、私には可愛く見えるんです」


重症だ……!!

どうしよう、絶対病院案件だと思うんだけど、連れてって治ってしまったら耐えられないから、放置するしかない!

この世界に病院が無い事に感謝する日が来るとは……!


また、変な事を考えてるでしょう、と言うと、ルシアンはおでこにキスを落とす。


「ミチルの事を愛してるから、どんな姿の貴女も可愛いんですよ?」


やめてー、きゅんきゅんするからやめてーっ!

逃げたくなって来た!


そんな私の心を見透かしたのか、ルシアンの腕が私の腰に回される。

エスパーきた!


「逃がさない」


楽しそうにおっしゃいますね?!


「!」


「ほら、まだお菓子が残ってますよ?」


そう言って残りのどら焼きを私に見せる。

まだ結構残ってる……って言うか、きんつばがお皿に乗ってるのは何故?! いつの間に?!


「それでも逃げようとするなら、リボンで縛ろうかな?」


ひぇっ!

既に経験している為、口だけではない事は重々承知です。


ふふ、とルシアンが笑う。


「あーん?」


どら焼きを食べさせられているだけなのに、ちょいちょい可愛いと言われたり、キスが落ちて来たりして、どら焼きの味が段々分からなくなってきたよ!

普通に食べたい……!!


食べ終えた時には、全力疾走したかのような疲労感があった……何でなの……。どら焼きもルシアンにかかるとサバイバルに変わるのか……?


「源之丞殿の事は、セラから聞きましたか?」


おっ、急に真面目な話に?!


「はい。少しですが……」


「源之丞殿と、側近の多岐 言綏殿がイリダの都に向かいます」


タキトキマサ。

前にルシアンが言ってた人だろうか?


「燕国はイリダとは友好なのですか?」


「そうですね、比較的」


「源之丞様は真面目で誠実で不器用な印象なのですが、イリダなどに向かって大丈夫なのでしょうか……」


イリダはどうも狡猾で抜け目なく、強欲なイメージだ。


「側近の言綏殿は頭もキレ、狡猾で忍耐強い方ですから、丁度良いのではないでしょうか」


腹黒い、って事で合ってますかネ。


「ねぇ、ミチル」


お茶を飲む。口の中が甘さでいっぱいだったから、緑茶でスッキリです。


「何ですか?」


「私の印象は?」


「!」


緑茶吹くとこだったよ!


「……どうなさったのですか? 突然」


「いえ、随分と源之丞殿の事を褒めるなぁ、と思って」


ヤバイ!

ルシアンは結構嫉妬深いんでした!!


「率直におっしゃって下さい」


率直……率直にですか……。


「……ルシアンは……」


「うん」


「頭脳明晰で、真面目で」


何でもソツなく熟せるのに、決して手を抜かない、努力家タイプです。


「礼儀正しいですけれど、敵対した方には容赦ない腹黒いタイプです」


「…………」


ルシアンがじっと私を見る。

腹黒いは余計だったか…? いや、でも、腹黒いよね?


「……なるほど?」


怒ってる?!


「……怒ってらっしゃるの?」


「怒ってませんよ?」


嘘だ! 絶対怒ってる……!

腰に回された腕に力入ったし!!

いや、腹黒いと言われて喜ぶ人はいないだろうけどさ!


「腹黒いのは、自覚があります」


貴族ですからね、腹芸が出来なくてはね。


「ですが、それを印象として態々言われる程、と言う事なんですよね?」


「印象ですものね……そう言う意味だと、腹黒いは違いますね……敵に回しちゃいけない人?」


「ミチル?」


「褒めてますよ?」


ふぅん?と言われてしまった。

あかん。ご機嫌を損ねたっぽい。

あぁ、やっぱり私の考えてる事なんて、口に出しちゃいけなかったんだよ。


不意に、ルシアンの目が細められた。

……あ、これ絶対私にとって良くないこと思い付いた。間違いない。


「敵に回したくない、ですか」


ふふふ、とルシアンは黒い笑顔を浮かべる。


ひぇっ!


「お、お仕事を再開なされてはいかがですか?!」


逃げようとするも、いつの間にか両腕でホールドされちゃってるではないですか!


「私はいつもいつもミチルの事を考えています。それはもう、愚かな程に」


啄むような、軽いキスをされる。


「貴女の事を想うと堪らない気持ちになります。愛しくて愛しくて、声が聞きたくて、顔を見たくなる」


な……何が始まったの……?

びくびくしている私を無視して、ルシアンの話は続く。


「貴女と向き合えば、声を聞かせて欲しくて、名前を呼ばれると耳が心地よくて、貴女の目に私が映ると、心臓が鷲掴みされたような気持ちになるんです。苦しくもあるけど、多幸感に包まれる」


あの、コレ……ッ!

いつもと別の意味で恥ずかしい!


「抱き締めると貴女の香りがして、胸が疼いて、肌に触れると、貴女の全てを私のものにしたくなる」


瞬間的に顔に熱が集まる。

コレは! コレは駄目でしょう!


「顔が真っ赤です。目も涙で潤んでる」


まぶたにキスされる。


「前にも言ったでしょう? 貴女は常に私を誘惑してくると。その自覚がミチルになくてもね?」


まさかの言葉攻め……!


「る、ルシアン……」


「なぁに?」


「どうしたのですか?」


ルシアンの細くて長い指が鼻を摘む。


「!」


「嫉妬ですね、ただの。それと、腹黒いと言われたので、ご期待に応えようかなと」


なんかさっき、溶けそうな事、いっぱい言われた……。

顔が熱い。頰に手をやると、まるで熱を出した時みたいに熱い。


「熟れた林檎のようですよ」


「……ルシアンが……あんな事をおっしゃるからです……」


「嫌だった?」


首を横に振る。


素直に嬉しいけど、心臓がいっぱいいっぱいだ。

救心欲しい…!


「嫌じゃないです。でも、恥ずかしい」


ふふ、と笑うルシアンの目が蕩けてる。


「……ルシアンの瞳は……蜂蜜のようです」


「舐めてみますか?」


また! そうやって卑猥な!


「甘いかも知れませんよ?」


笑いながら私の頰にキスをする。

……今日のルシアン、甘すぎませんか……。


「ミチル」


耳にキスされる。

お願いだから耳元で囁くの止めてホシイ。反則だ。


「愛してます」


キスをされる。甘い。

もしかしたら、本当に瞳を舐めたら甘いかも知れない。


「愛してます、ミチル」


これ以上言われたら死にそうだったから、口封じ的にキスをする。


「ミチル、私を食べて?」


「もう! ルシアンは破廉恥過ぎます!」

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