030.閣僚会議?

ラルナダルトの宮殿、正式名称があるらしいよ。

適当に呼んでたら、祖母に教えてもらった。至星宮しせいきゅうって言うんだって。女神に一番近いとか何とか? 本当か?


宮殿なのでね、とにかく大きいです。突然の来客とか無問題。

だからこうして、一同が会する事が出来ちゃう訳ですね。


魔王様オトーサマとルシアンと、ギウス族長とセオラ。帝国の皇帝とレーフ殿下。

あと皇国公家の面々とゼファス様。

郵便事業を大陸全土に巡らせる為に、全員が召集されたんだって。


「まずは食事でもどうかな。空腹だとイライラする人もいるらしいし」


……いや、バフェット公がイラついてるの、間違いなくお義父様の所為だよね?


テーブルに並べられたのは、私が前に用意した鳥尽くしメニューだった。

初めて見る料理に皆、驚いている。


「ミチルに教えてもらった料理だよ。とても美味しいから召し上がれ」


戸惑っている人が多い中、以前食べた事のあるゼファス様は遠慮なく食べていく。シミオン様も気にせず食べる。

当然お義父様とルシアンと私も食べる。美味し!

そしてこの状況でも隙あらば私に餌付けしようとするルシアン。何でなの? 空気は敢えて読まないポリシーなの?


そうすると皆、気になるのか、少しずつ食べ始めた。

そしてチキン南蛮は、誰が何個食べただの、訳の分からない言い合いに発展してた。良い大人なのに何やってんの?


「空腹も満たされただろうから、今後の事について話を始めたいんだが、良いかな?」


皆、急に理性を取り戻したらしく、話し合いが始まった。

……ホッ。……ってゼファス様だけ食べ続けてるけど、いつもの事だし、まぁ、良いか。


「未来を見据えた話は大変有意義だとは思いますが、ギウスへの処遇を明確にしないと国民は納得しませんよ?」


エステルハージ公は中指でメガネを押し上げた。

言わんとする事は分かる。戦争をしたからね。


「それなのだが」


族長が口を開いた。皆の視線が族長に注がれる。


「ギウスを皇国に組み入れてもらえないだろうか」


元より冗談なんかを言うキャラではなさそうな上に、真剣な表情をしている。本気で言ってるようだ。

その視線を受け止めるお義父様は、微笑んだ。受け入れられると思ったのか、族長の目に喜色が浮かぶ。


「お断りするよ」


……皇国の事なのにお義父様が答えてイイんですかね?


「ギウスが皇国に組すれば、帝国とのパワーバランスが崩れる。今でこそこうやって話を出来る状況だけど、そんなものは統治者が代替わりすればあっさりと覆されてしまう程度のものだ。

三つ巴の今の状況は一番均衡が取りやすいんだよ。そこにギルドが加わる事で国とは別の力が加わる。均衡が更に複雑化し、一部分にだけ力が偏る事を防げる。

多すぎても少なすぎてもいけないんだよ、力というものはね」


三権分立じゃないけど、お互いに睨みを効かせると言うのは、確かに大事だと思う。特定の集団のみが力を持つ事を防げるから。


がっくりと肩を落とす族長に、お義父様は苦笑する。


「確かに今のギウスには何もない。その上大地に魔力をとなれば、帝国か皇国のどちらかに入るのが手っ取り早く国力を回復すると考えるのは自然な事だね」


でもね、とお義父様は言葉を区切ると、ワインを口にする。


「支配者たる者、眼先の事ばかりに気を取られてはいけないよ。短期的目線、中長期的目線。あらゆる角度、可能性を考えて行動しなければ継続可能な国など作れはしない」


この族長さんは頭良さそうだし、良い人そうだし、その辺は理解した上で言ったんだろうと思うけども。


「そんな顔をするものではないよ。さっきも言ったろう? 三つ巴状態が望ましいと」


これまでなら、ギウスは敵だった。

でも、今はイリダの存在がある。味方は多い方が良いと誰もが考える。


「族長の為に簡単に説明してあげよう。

数年前から、皇国にはギルドという職業組織を設置しているんだ。これはミチルから原案をいただいてね、こちらの世界で使えるように作り上げた組織なんだよ。

ギルドは管理する職業を営む者達の援助をする。同種間、異種間を問わず、問題があれば仲裁に入る。ただし、秩序を乱した者は罰を受けるけどね。

暴利を貪る一部の者を一つ一つ国が管理するのは無理だ。その役割をギルドに果たしてもらう。勿論メリットばかりではないよ。自然災害等で特定の職業で納税が難しい場合などは、ギルドがそれを国に申し立ててくる。無条件に取れていたものが取れなくなる事もある。

でも、それだけの価値はある組織だよ」


帝国にも置き始めていると言うから、ギルドのネットワークが確立されていったら、国を超えた組織が出来て、王族による横暴な政治が行われても、壊れ難い経済が出来ていくのではないだろうか。


「ギウスと言えば、その馬術にあると私は思っているのだけどね」


お義父様の言葉に、族長とセオラが頷く。


「その馬を使ったギルドを立ち上げたいんだ」


馬とギルドと来たので、皆うっすらと気付いたようだ。

族長が聞き返す。


「配送を行うと言う事か?」


お義父様は笑顔で頷く。


「そうだよ。荷物と手紙を運ぶ。その手間賃を利用者は支払う。そうして得た外貨でギウスに必要な物を購入すれば良い。魔石も買えるだろう」


セオラの目がキラキラしている。


「ギウスの大地は少しずつ戻っていくだろう。そうすれば、ギウスだけの特産物も出来るようになる。

それもまた、君達を助けるだろう」


特産物、いいね。お取り寄せって奴だね!

各地の特産品は何処か別のギルドが扱うのかな?


「長い冬だったろうが、冬ならば必ず春が来る。

そう出来るかどうかは君達次第だよ」


エヴァンズ公がうんうん、と頷いてる。

かなりの剣の使い手と言うのが未だに信じられないぐらい、良い人感が出てるけど……。アレかな、あのいつもニコニコしてる糸目が開いた時は地獄の釜が開く的な。

……ひぇっ。


「ギルド創設の前に、君の兄上には全ての罪を被っていただかないといけないんだが、異論はないね?」


あー……。そう言えばそうだ。

皇国民の中にはギウスとの戦争を、何処か遠い事のように感じてる人もいるだろうけど、帝国はそうもいかないよね。自国が戦場になってたんだし。


「……構わない。兄は私欲の為に戦争を引き起こした重罪人だ」


族長の兄は、自らが族長に相応しい事を証明しようとして挙兵し、帝国に攻め込んだ。

その責任を負って、処刑される。

ルシアンの話では、ギウスは大地に魔力を注ぐ装置を皇国から購入した。賠償金も莫大だと言う。

はっきり言ってかなり大変な状況だ……。

郵便ギルドだけで何とかなるんだろうか? 苦しい生活が続いた状態で他国に行って、自分達より恵まれた生活を見て、犯罪を犯さないだろうか…?


「皇国の秩序を維持する者としては、安易に受け入れ難いのだが、アルト公」


言ったのはシミオン様。

オットー家と魔王様は連携してると思ってたんだけど、違ったのかな。

それとも、それはそれ、これはこれ、事と次第によっては、って奴だろうか?

ドライだわー、大人だわー、ビジネスライク?


「ギウスの者達が我が帝国で犯罪を犯した場合、どうする? 文化が異なれば倫理も異なるだろう」


レーフ殿下も眉間に皺を寄せている。


「それは確かにそうだね」


何だっけ、こう言うの、前世でもあったな。あったって言うか、協定って言うか。条約?


「……あの」


恐る恐る挙手をする。皆の視線が一斉に向く。

ひぇっ。


「例え別の国の方だとしても、犯罪を犯した場合は、その国の法律で罰する事が可能になれば良いのではないでしょうか。貴族でも、平民でも」


貴族の処罰は難しい。

皇都の貴族がカーライルで罪を犯しても、カーライルではその罪を問えず、裁かれるのは皇都、と言うのがこれまでだった。

これを出来なくすれば良いと思う。


「もし、自国に逃げてしまった場合は?」


更に詰めてきますね、シミオン様。


「犯罪者引き渡し条約を結べば良いと思います」


「犯罪者引き渡し条約?」


頷く。


「罪を犯して自国に逃げて来た犯罪者を、相手国に引き渡すのです。拒否は出来ません」


何人か頷いてくれている。


「最初から完全な仕組みなど、作れまい」


クーデンホーフ公が言った。


「これを機に、昨今の貴族達も秩序を取り戻すかも知れんしな」


おぉ、バフェット公が好意的な反応を……! ありがたやありがたや。


「荷物も良いですが、人も運べると良いですわね。

護衛に冒険者ギルドに付いていただければ、冒険者ギルドとしてもメリットがございますし、郵便ギルドは荷物の盗難や紛失の被害にも遭わなくなりますし」


荷物を運ぶついでに人も運んだりしたら一石二鳥だし。

お急ぎ便はその為だけに走らせるから割高、とか。


「他のギルドと定期契約などはどうか?」


そう言ったのはヴィタリー陛下。


業務提携ッスね。良いと思う! その方が配送が定期的になって安定した業務量が確保されるし!


流通が構築されるのを目の当たりにしている! 面白い!

わくわくする!


「楽しそうですね?」


ルシアンの言葉に私は頷いた。


「流通が発達すると、国が栄えますから。道が整備されて、その街道沿いに新しい町が出来て、民が潤う。

資源の乏しい土地も、外から物資を得る事が出来るようになります。豊かな町ばかりに人が流出しないようにしなくてはいけませんけれど」


亜族は失くせる存在だ。元の人の姿に戻してあげて欲しい。そうすれば、町を城壁で取り囲む必要はなくなる。

人が住める場所は増える。自然破壊は好ましくないので、その辺は調節していただきたい。


「そうですね、資源の無い場所に、産業を持ち込むのもありですね」


おー、工場制手工業マニュファクチュアとかかな?

蟹工船みたいなブラックなのはギルドとかで取り締まるようにすれば大丈夫かな?


「今度は後ろ向きな話をしようか」


お義父様の言葉に、室内にピリッとした空気が走る。


「前回我がアルト家が屠ったイリダの暗殺部隊だが、燕国の船によって入り込んだ事が分かってね」


ざわり、とする。

これは燕国にとってマイナスな情報だ。帝国や皇国と関係を断ち切られてもおかしくない。


「燕国宗主からは、詫び状と、今後の計画への協力を約束する書面をいただいた」


いつの間に──。

魔王の仕事が的確で早すぎますわ。


「暗殺者を全て殲滅する事も考えたんだけど、現状、我らは敵の内情を知らなさ過ぎる。これではまともな準備も策も立てられないからね。

燕国にひと肌脱いでいただこうと思うのだよ」


「例えば?」とバフェット公。


「暗殺者は全員、オーリーの民だよ」


お義父様がそう言うと、「汚れ仕事は全てオーリーの民にやらせるか」と、唾棄するようにクーデンホーフ公が言う。怒ってるっぽい。


オーリーの民が肉体的に恵まれているからかとも思ったけど、そう言う側面もあるよね。

イリダによる支配を受けているんだもんね。


「ヴィタリー陛下の叔父上の元へは、イリダから技術者が来ていただろう? 彼らは神イリダをユーゲと呼んでいた」


貨幣偽造をしてたって言う叔父さんの事だろうか?

その機械を作ったのはイリダで、動力源として大地から魔力を吸い上げてたって言ってた。

その機械の技術者って事?


ユーゲ?

イリダなのに、ユーゲ?


「私もまだイリダの民の事は詳しくないんだけどね、神イリダをユーゲと呼ぶのは、下級国民なのだそうだよ」


下級国民……! 嫌な響き……!!


「虐げられたオーリーの民。同じ民族ながら、明確な格差。なかなか、面白そうだと思わないかい?」


満面の笑みで言う魔王様オトーサマに、バフェット公がすかさず、悪趣味だ、と嫌味を言った。


「敵対するならば、全力で相手するのみ」


「皇国を守るのが我ら公家の役割だからね」


クレッシェン公の言葉に、エヴァンズ公がうんうん、と頷く。


「異論無い」


「己が領分を弁えずに侵略して来ようなどと……いいでしょう、お相手してさしあげましょう」


エステルハージ公の銀縁眼鏡がキラリと光る。


何か皆、やる気に満ち溢れてオリマスネ……。

まぁ、これまでは海のものとも山のものとも分からない、イリダに対して対策を、と言っても戸惑っただろうしね。

情報は大事だよね。


「燕国を使って何をしようと言うのか?」


バフェット公の問いに、お義父様は微笑んだ。


「汚名をすすぎたいとおっしゃるのでね、お願いしたよ。

燕国宗主の嫡男と、その側近がイリダに潜入するよ」


えっ?! それって、源之丞様……?!

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