023.ドッペルゲンガー?
エマとリュドミラにお忍びの格好にしてもらって、ルシアンと感謝祭デートです!
ルシアンと見たかったから、昨日はセラともゼファス様のパレードをちょっとだけ見るに留めておいたのだ。
皇都のメインストリートまで馬車で来た。
ルシアンが差し出した手に、手を重ねると、すっかり気に入ったらしい恋人繋ぎをされた。
当初の予定と大きく乖離しているような気がしなくもない、私の健全な夫婦生活。
何故かルシアンにいいとこ取りされてるような?
…いや、私も、恋人繋ぎは好きですけどね?
今回も例によって例の如く、護衛を付けております。
せっかくの感謝祭だし、みんなもそれぞれ楽しんで欲しいと言ったんだけど、人混みが多いので、むしろ今日の方が必要だと言われてしまった。
「ルシアン、あれは何ですか?」
「なんでしょうね、布のようにも見えますが」
「リボンでは?」
フィオニアが言った。
リボン?
普段何気なく使っているリボンだけど、こっちでは専門にしている店舗が多くあるらしい。
ドレスにも使うし、髪にも使うもんね。
「ミチルちゃんの髪を結うリボンを見ましょうよ。イーギスやアメリアのもね☆」
そう言ってウインクをするセラ。
イケメン?イケ…てるおねーさま!
近付いてみると、フィオニアの言う通り、リボン専門の出店だった。
なんだか面白いなぁ。
アメリアとイーギスはいつも髪を結っているから、リボンはとても良いよね。
二人は恐縮していたけど、いつも守ってくれるお礼だからと言って、強引に受け取ってもらった。
エマとリュドミラ、クロエのリボンも買った。
「ミチルはどれがいいですか?」
朝、セラから、今日はルシアン様に甘えて、何でも買ってもらいなさい、と3回も言われた。
これはその通りにしないと怒られそうです。
私の髪はアッシュブロンドだから、青とか緑が合う。ピンクとか赤とかはあんまり似合わない。黒も似合わない。
どれがいいかなぁ、と悩んでいた所、店番をしている人の横にいる女性が、椅子に座ってせっせとレースを編んでいるのが見えた。
「そのレースは売り物ですか?」
私が話しかけると、レースを編んでいた女性はびくっとして、顔を上げた。
「いえ、これは、手慰みに編んでまして、売り物ではないのです」
「そうなのですか?とても美しいのに」
「確かに、とても精巧で良く出来ていますね」
ルシアンはその女性に、「リボンとして売っていただく事は可能ですか?」と尋ねた。
女性は店番の人と顔を見合わせて、それからこっちを向いて頷いた。
「こんなものでよろしければ…」
手慣れた様子でレースの端をまつり縫い?すると、私に差し出した。それをルシアンが受け取ると、私の髪に結んでくれた。
「ステキなリボンをありがとう」と女性にお礼を言うと、女性は顔を真っ赤にさせて頭をぺこぺこ下げた。
歩きながら、ルシアンにお礼をする。
「ありがとう、ルシアン。似合いますか?」
とても、とルシアンは微笑んでこめかみにキスをする。
揚げ芋の出店では人数分買って、護衛なんかもあるから、交代で食べたりした。
んー、ケチャップ欲しくなるー。
そういえばドイツの、ポテトを厚切りして、串に等間隔に刺して焼く?揚げる奴、今度アレクサンドリアでやってみよう。
この前のフレッシュジュース屋さんもお店を出していて、私が言った組み合わせ以外のミックスジュースも作り出していた。
いいね!
実はあれから、毎朝ミックスジュースが食卓に上がるようになったんだよね。
甘くないフレッシュジュースとして。
私達に気が付いた店主には、お礼を言われた。あれから甘くないジュースを売り出したら、売り上げが上がったとの事だった。
あまりにみんなが近くにいるから、ちょっと恥ずかしいなーとも思ったんだけど、むしろ近いから会話がしやすくて、これはこれで楽しいと思うようになってきた。
日頃あまり話せないイーギスやアメリアの趣味なんかも分かってきたりして。
イーギスは可愛い物が好きで、アメリアは甘いお菓子が好き、というのが、出店を見ていた時の反応で分かった。
そういえば前にファッジをあげた時、アメリア、めっちゃ喜んでたなー、と、ファッジを売ってるお店を目にして思い出した。
……ファッジ!!
許されるならフィオニアの胸倉掴んでガクガクさせたい、っていうか折檻したい!
「フィオニア…」
私の声がいつもよりちょっと低いからか、フィオニアが苦笑した。
「ルシアン様がいるので、成功しないとは思っていたのですが…いかがでしたか?」
あああああ!やっぱりそうだったんだ!!
いかがでしたかじゃないよ!こんにゃろめ!
「どういう事?」
セラが怪訝な顔で聞いてくる。
「昨日ミチル様に出店で買ったファッジを差し上げたのですが、一つだけ違う物を入れておいたのです」
ふふふ、と笑うフィオニア。
セラがフィオニアの胸倉を掴んだ。
「フィオニア、おまえまさか、ミチルちゃんに媚薬入りのファッジを口にさせたんじゃないよね?」
おぉ?!セラが怒ってる?!口調が違うよ?!
これにはさすがにフィオニアも焦ったようだった。
「ミチルは食べていませんよ。あからさまに怪しかったので、止めました」
ルシアンの言葉にセラはフィオニアの胸倉から手を離す。
「次にそんな事やったら、タダではすまさないわよ?」
あ、口調が戻った。
素直に頷くフィオニア。
「心に刻みます」
ルシアンにこっそりと、「セラとフィオニアは、どちらが強いのですか?」と聞いてみる。
「セラですよ」
そうなんだ!即答だったね、今の。
剣術大会で見たフィオニアは凄い強かったのに、それよりセラは強いのかー。
えぇー、こんなに美人なのに強いとか凄いね!
オリヴィエ様との子供とか、ちょー凄そう!
「セラ、ありがとう!」
さすが私のおねーさま!私を守ってくれてありがとう!
「媚薬は駄目よ、本当に」
そう言って目を伏せるセラに、何か違うものを感じた。
これは過去に…?
「セラ、大変でしたね?」
「何もないわよっ!」
おでこを突かれた。
痛い…。デコピン並みに痛い…。
ルシアンが苦笑して私のおでこを撫でる。
この前の噴水の前までやって来た。
花屋のおじさんは今日もいて、私達を見て手を上げた。
花祭りだけあって、この前とは比べものにならないくらい色んな種類の花が売ってる。
「昨日、兄さんそっくりな奴がここに来てね」
え?ルシアンそっくりな人?
「同じように女神の手にコインをのせてったよ!
いやー、美丈夫は女神に愛されてるのかね!」
ルシアンを見る。
世界に同じ顔の人は3人いるって言うけど。
「こんなイケメンがもう一人いるなんてねぇ」
と、セラがしみじみと言った。
本当、そうだよねー。
「ミチルちゃん、惚れちゃ駄目よー?」
ルシアンが無表情に私を見る。
ひぃっ。
ちょっ、セラ!変なフラグ立てないで!
「惚れません!私がルシアン以外を好きになる筈が」
…はっ!
咄嗟に己が言った言葉に慌てる。
ルシアンはにっこり微笑んで頰にキスしてくるし、セラとフィオニアはにんまり笑ってるし。イーギスとアメリアはちょっと顔が赤いし!
あぁーっ!なんてことーっ!!
「セラッ!」
うふふ☆とセラが微笑む。
「ルシアン様、ミチル様に花を差し上げては?」
フィオニアが言うと、ルシアンが頷いて、花屋のおじさんから真っ赤なバラを1本だけ買ってくると、私の髪に挿した。
「愛してますよ、ミチル」
恥ずかしくて顔を思わず覆ってしまう。
花屋のおじさんが「熱々だなぁ」と言ってるのが聞こえた。
あまりに恥ずかしくていたたまれなくて、思わずその場から逃げ出してしまった。
「あっ!ミチルちゃん!」
「ミチル!」
「ミチル様?!」
背後で名前を呼んでる声が聞こえたけど、もう駄目!恥ずかしすぎる!
…ここは、何処ですか?
勢いのままに、人混みをかき分けて落ち着くまで逃げた結果、よく分からない所に迷い込んでしまったようだ。
要するに袋小路一歩手前と申しますか。
よく、物語なんかで主人公が勝手な行動をして迷子になるのを見ると、馬鹿だなー、主人公!ってツッコミを入れていたけど、今まさに、同じような状況に陥ってる自分に衝撃を受けた。
…馬鹿すぎる!
「これはこれは、随分と別嬪さんじゃねぇの」
気が付くと、数人の破落戸が私を取り囲んでいる。
何てこと!まさかのテンプレ展開!
ヒロインならば、ここでヒーローが助けに来てもらえちゃう訳ですが、私はヒロインにあらず!
なんとか逃げ出さねば!
「せっかくの祭りなのに一緒に酒を飲んでくれる女もいなくてさぁ、俺達と一緒に飲みに行こうぜ?」
「ご遠慮しますわ」
ご遠慮しますだってよ!と囃し立てる声も聞こえる。
「そんな事言わないで!酷い事しないからさ!」
どっと笑い声もおこる。
男の一人が私に手を伸ばす。一歩下がる。
手を払いのけようとした瞬間、男の腕が掴まれた。
ルシアンだった。
!
助けに来てくれたー!
「なんだよ、邪魔するな!」
「ちょっと見た目がいいからって、いい格好すると怪我するぜ、兄さん!」
殴りかかる破落戸の一人をルシアンがあっさりと倒すと、他の破落戸達は大慌てで逃げて行った。逃げ足はやっ!
ルシアンが私の前に立つ。
謝らなくちゃ!と思って顔を見た時、違和感を感じる。
髪の色も、瞳も、顔の造形も、何もかも一緒だけど、この人はルシアンじゃない。
さっき花屋のおじさんが言っていた、ルシアンにそっくりな人?
なんてタイムリー?!
「…助けていただき、ありがとうございます」
お礼を言うと、そっくりさんはふ、と笑う。
「無事でなによりだ。そなたの様な容姿の優れた淑女が、一人でかような場所に来るのは、褒められた事ではないぞ?」
違和感!
顔も声もルシアンなのに、口調が違う!
「はい、反省しております」
「ミチル!」
「ミチルちゃん!」
そっくりさんの後ろの方から、本物のルシアンが走って来た。セラもいるので、間違いないと思う。
ルシアンとセラが私に近付き、そっくりさんが振り返った瞬間、セラが息を飲んだ。
「こちらにいらっしゃいましたか、レーヴァ様」
もう一人の見知らぬ人も、ルシアンとそっくりさんを見て固まった。
口に笑みを浮かべるそっくりさんと、無表情のままのルシアン。
まるで鏡みたいだ。
ルシアンは私をチラリと見る。
あ、やっぱりルシアンだ。
私はルシアンに駆け寄り、斜め後ろに立った。
「私の妻をお助け下さったようで、感謝致します」
「気にするな」
そっくりさんはマジマジと私を見る。
「それにしても、人妻であったか。
人妻でなければ是非にと思う程の美貌だな」
「!」
ルシアンから冷気が…。
「レーフ殿下ならば人妻に手を出さずとも、そのお立場です。女性に不自由なさらないのでは?」
そっくりさんと、そっくりさんの従者?らしき人の表情が一瞬固まる。
ルシアンはこの人が何者なのか知ってるっぽい?
「私が何者なのか、知っているのか。凄いな」
そう言ってそっくりさんは笑う。
「ならば悪い事は出来んな」
殿下と呼ばれたそっくりさんは、ではな、と言ってその場を去った。
二人が遠ざかるのを見送った後、ルシアンの袖を引っ張った。
「ルシアン、あの」
私の方を向き直ると、ルシアンは私を強く抱きしめた。
うぅ、また心配をかけてしまった…。
ルシアンは私を危険な目に遭わせないようにと心を砕いてくれているのに、肝心の私がこんな…。
「考えなしに駆け出してしまって、申し訳ありません」
ルシアンは私から身体を離し、私の肩に手を回した。
セラにも謝る。
「本当よ」
深いため息を吐いた後、セラは私の頭を撫でた。
「ちょっと揶揄いすぎちゃったわ。ごめんなさいね、ミチルちゃん」
私は首を横に振る。
「本当に、ごめんなさい」
にっこりセラは笑ってくれた。
「それにしても、ルシアン様に瓜二つだったわね」
うん、と私も頷く。
「破落戸がこっちの方に逃げて来たけど、さっきのそっくりさんが助けてくれたんでしょ?よく見分けがついたわね?」
「見たら分かりましたわ。雰囲気が全然違いますもの」
「確かにね」
さっき見てて思ったんだけど、私やっぱり、俺様苦手かも。
見た目はルシアンと同じだから、どストライクな容姿なんだけど、口調とか態度で駄目だった。
観賞用としては抜群だけど。
横に立つルシアンを見る。
優しい目で私を見つめてる。この目が好き。
「帰りましょうか、疲れたでしょう?」
差し出されたルシアンの手に、自分の手を重ねた。
あったかい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます