058.無理難題
そんな訳で?私とルシアン、モニカ、ジェラルド、王子の5人はカーネリアン先生の執務室に来ております。
「よく来て下さいましたわね、今、お茶を入れさせますからおかけになって。」
みんなが腰掛けたのを確認してから、カーネリアン先生はため息を吐いた。
「手紙に触りだけ書きましたけれど…。」
な、何だろう…もしかしてこの間の鉄扇事件だろうか?!
っていうか手、大丈夫だったのかな?
「私、皇女殿下から呼び出しを受けているのです。」
呼び出し?!
なんでまたカーネリアン先生が?!
はぁ、と先生はまた、ため息を吐く。
あの皇女から呼び出しとか…!
心中お察し致します、先生!
人ごとだから言えるけど、良い予感しないもんね。
関わっちゃいけない人ランキングがあるなら、堂々のトップ3にランクインですよ!
「当初の測定では、皇女は魔力の器がないとされていた。帝都でも再測定は可能になったのに、カーライルで再測定すると言い出したんだ。」
王子の説明に、みんな頷いた。
あぁ、そう言えば表向きそういう理由でしたね?
誰がどう見てもルシアン目当てだったけども。
「その測定を、私にと皇女はおっしゃってるのです。」
えぇ?なんで?!
誰が測定しても同じなのに!
本国でやりたまえよ!誰がやっても同じだよ?!
大体先生は研究者なだけで、測定のプロじゃないぞ?
先生は私の顔を見て、それからルシアンの顔を見た。
「ルシアン様、ミチルを王城に連れて行ってもいいかしら?」
えっ?!
何故に私も?!
先生が言うには、今回の研究に関わった者が呼ばれているらしい。
それで私も、ということらしいんだけど、駄目でしょう、どう考えても。
ルシアン狙いの皇女からは、ルシアンの嫁と言うだけで目を付けられ、挙句この前は殴られかけたという、私自身は何もしてないのに関係だけは順調に悪化していると言うのに、行ける訳がない。
「ミチル抜きで行って下さい。」
当然のごとくルシアンは先生からの申し出を断る。
「先生、ミチルは先日、王妃様主催のお茶会で皇女殿下から危害を加えられそうになったのです。ですから、私も反対ですわ。」
モニカも反対してくれてる。
「それはいけませんわね。嫌な予感しかしませんけれど行かない訳には参りません…。一人で行って参りますわ。」
ふぁいとです、先生!
後日、先生から再び呼び出された。
先生に一体何が?!顔が土気色だよ?!
何があると美熟女がこんなことに?!
ドン引きしている私たちに、先生はポツポツと話し始めたんだけど、それがとんでもない話だった。
「えっ?それじゃまさか…皇女の要求って…。」
絶句である。
先生は両手で顔を覆っている。
私たちは何も言えなかった。だってまさか…。
皇女が魔力の器を持っていないなんて。
身体のありとあらゆる箇所を測定しても、魔力の器は発見されなかった。
それはつまり、皇女は平民の血を引いているということに他ならない。
皇女だけじゃない。皇女の姉も、弟である皇太子も、同じ両親から生まれている訳だから、みんな器を持っていないということになる。
皇女の要求は、魔力の器を作れ、という、無茶苦茶なものだった。
わざわざ皇女が来た理由は、魔力の器に関する研究が進んでいるカーライル王国に来て、再測定をしたいのではなく、器を作らせる為。
ルシアンのことも勿論あるだろうけど、これも、彼女にとっては大事なことだったのだろう。
ただの方便かと思ってたよ!
やっと器が身体の色んな所にあったよ、だいはっけーん!ってなったばっかりなのに、器作れとか、無茶振りが過ぎる。
しかもあの皇女の為になんて、作ってあげる気になんてなれないし。
私は変成術で便利アイテム作りたいだけで、魔道学を極める気なんて1ミリもない。
…そう思うのに、めっちゃもやもやするのは、カーネリアン先生のことがあるからだと思う。
先生大丈夫かな…。
*****
気になって仕方なかったんだと思う。
夜中、目が覚めてしまった。
私という人間は、精神的に不安定になると、眠りの質が下がって夜中に目覚めるようだ。
眠るまでルシアンはいてくれたけど、案の定私が寝てから仕事をしてるんだろう。
横にはいなかった。あのワーカーホリックめ。
念の為、隣の部屋に行ってみるものの、やっぱりルシアンはいない。
ベランダに出た。
現代日本と違って灯りが少ないこっちの世界では、星がよく見える。
星座は詳しくないので全然分からないし、あっちと同じとかも分からないけど、星はキレイだ。
…なんだろう、この漠然とした不安。
「はぁ…。」
そう言えば、前世の私もこんな風に説明のつかないもやもやがあった時、夜中にこうやってお茶を飲んでいたっけ。
そうするといつもあの人がやって来て、他愛もない話をして、気が付いたらすっきりして、寝てたな。
「会いたいな…。」
「誰にですか?」
突然話しかけられて、もうちょっとで悲鳴をあげちゃうところだった!
びっくりした!!
振り返るとルシアンが窓枠に寄りかかって立っていた。
一体いつからそこに…気配全然分かんなかったよ。
「誰に、会いたいんです?」
ルシアン、なんか、ちょっと不機嫌?
「え?」
ルシアンはあっという間に私との距離を詰めて、目の前まで来た。
「前に、前世で一緒に暮らしていた女性のことです。」
「未練はないのではなかったのですか?」
「未練はないですけれど、会いたいなとは思います。」
会えないけどね、2度と。
こうして思い出してみるとよく分かるんだけど、私は彼女に精神的に依存してる部分があった。
飄々として掴み所がなく、何でも知ってて、何事にも動じなくて、私の悩みを一笑してくれた彼女。
彼女といると、どんなことも些細に思えて、乗り越えられたんだよね。
本当変わった人だったなぁ。
「気に入りません。」
「え?」
「生まれ変わってまで、ミチルに会いたいと思わせるなんて、許せない。」
い、いやいや、確かに精神的に依存はしてたけど、それは友人だからであって、私には恋人もいなかったし。
もしかして…。
「やきもち、焼いて下さってるのですか…?」
相手女性だし、2度と会えない存在だけど。
そう尋ねると、ルシアンはため息を吐いた。
おや?
「今頃そんなことをおっしゃるんですか?」
今頃?
ルシアンの両手が私の腰に回される。
「以前も言いましたが、私はミチルを誰にも見せたくない。閉じ込めて、私だけのものにしたい。」
久々にヤンデレきた!
「女性ですし、2度と会わない存在ですよ?」
「全ての男は敵だとは思ってましたが、こんな風にミチルの心に住み着く存在なら、同性でも許せません。」
そんな無茶な?!
思い出すら許せないとか、ヤンデル!
それにきゅんとしちゃう私も充分ヤンデル自信があります!最近自覚しました!
はぁ、己がヤンデレ派だとは…。クール系だと思ってた。
「私は強欲です、ミチル。貴女に関する欲望は膨らむばかりです。」
う…ど、ドキドキしてきた…。
「貴女の心も、身体も、何もかも自分のものにしたい。」
「!!」
もう充分にルシアンのものだと思いますけど?!
「…あの…中に入りませんか…。」
ルシアンは私をひょいと抱き上げて部屋の中に入ると、そのままベッドに連れて行った。
ベッドの上でもルシアンのお膝の上に座らされる。
何も言わず、私をじっと見る。
「そんなに…見ないで下さいませ。」
穴空いちゃう、きっと。
なんなら開けたい。恥ずかし過ぎて。
「誤魔化そうとしてますか?」
怒ってる…!
さっき話遮ったから怒ってる!
「してません。してませんし…あの…。」
直視出来ない…恥ずかしくて。
「私は、身も、心も、ルシアンのものだと…思っているのですけれど…。」
ちら、とルシアンの顔を見ると、無表情から、ちょっと笑顔になった。
「本当に?」
「本当です。友人のことは、思い出しただけですし…。
い、今はルシアンが…。」
だ、駄目だ、これ以上は言えぬ!!
顔が熱い!沸騰する!
「駄目。言って?」
!!
急に甘えるような声で言ってきた、このイケメン!
なんて恐ろしいの!
「す…好き過ぎて…。」
ルシアンはさっきとはうってかわって、とろけた笑顔で私を見つめながら、私の髪を指で梳く。
「好き過ぎて?」
言えなくて口をはくはくさせていると、ルシアンの指が私の唇をなぞった。
「言って、ミチル。」
好き過ぎて、自分でも怖いくらいなんだけど、言えなくて誤魔化そうとルシアンの胸に顔を埋める。
ルシアンは私の髪に頬ずりする。
顔も、声も、瞳も、手も指も、私を抱き締める腕も、ルシアンからするいい匂いも、体温も、頭の良い所も、私の拙い説明でもちゃんと理解しようとしてくれる所も、いつも私を第一に考えてくれる所も、あの時にちょっと意地悪なのも、全部好き。
全部全部好き。
閉じこめるって言うなら、私だってルシアンのこと閉じ込めたい。私だけのものに出来るんでしょ?ルシアンのこと。
閉じ込めて…いっぱい甘えて…。
「それは今でもいいんですよ?」
「!」
またしても私の心を読んで!!
「で、出来ませんっ。」
「どうして?」
だってそんな…。
「恥ずかしいから?」
実は私は…。
「駄目です。」
めっちゃ甘えん坊なのだ!
絶対絶対絶対に引く!
コイツ、まさかこんな奴だったなんて、って絶対思われる!
「思いません。」
「もうっ!心の中読み過ぎです!」
っていうかどうやって読むの?!
私もルシアンの心読みたい!
「読まれているんですから、そろそろ観念しませんか?」
観念て!
悪いことしてるみたいな!
「ね?ミチル。」
うぉ、これ、リアル悪魔の囁きって奴なんじゃないの?!
私のこれまで築き上げてきたミチル像というものが、木っ端微塵になっちゃうかもですよ!
くすくす笑いながらルシアンは私の顔のあちこちにキスしていく。
「ミチルが思うようなことにはなりませんよ。」
このイケメン、顔だけじゃなく、発言も態度もイケメン過ぎて危険。本当危険。
…はぁ…どうしよう…。
どうしようとか言いながら、ほぼほぼ心が25度ぐらいまで傾いてて、ちょんって押されたら完全に倒れる自信があるんだけど。
っていうかもう、倒れちゃおうかな。
「…あの…嫌になったら…言って下さい…ね?」
にっこり微笑んでルシアンは頷いた。
そっとルシアンの左手に触れる。大きくて、でも細くて長い指。男らしい筋張ったこの手が大好き。
ルシアンの手を両手で包んで持ち上げると、手のひらにキスをして、右の頰に当てて、頬ずりする。
温かい。
「好き、ルシアン…大好き。」
「ちょっ…と…。」
見ると、ルシアンは右手で口元を押さえてる。心なし、顔が赤い。
もしかして、色々アウトだった?!
ソッコーでアウトゾーン入っちゃった?!
一発目から?!
「いきなり煽り過ぎです。」
う…やっぱり駄目なんだ。
デレるって難しい!あっちの感覚がある私には、こっちのデレ方が分からないよ!
多分前世でなら、今私がやったことなんて、そんなにハードじゃない筈。タブン。全然セーフじゃない?
ハードなのはもう、女性が男性押し倒してるだろうし。肉食女子万歳。私には無理だけど。
はぁ、とため息を吐いたルシアンは、啄むように私にキスをした。
「ミチルが可愛い過ぎて、私の理性が持たない。」
理性がと言う割には、私、ルシアンに結構アレされちゃってるとオモウ。
「じゃあ…止めます。」
「駄目。」
頰を舐められる。
うひゃっ!ゾワッてする!ゾワッて!!
「もっとして、ミチル。」
ルシアンの言葉にゾクゾクする。
なっ、なんていうおねだり上手!
そんな自然なおねだり私もしてみたい!
「言ってみると、意外と難しくないものですよ。」
はい、第二の悪魔の囁ききました。
堕落ですよ。淑女としてはもう駄目な感じです、私。
でもなんていうんですか、ナチュラルハイっていうんですか、深夜ならではの謎のテンションが上がってきてる気がしますよ!
「私にしてもらいたいこと、言ってみて下さい。いくつでもいいですよ。」
ルシアンにされたいこと?
いっぱいちゅーされたいし、ぎゅってされたい。好き好き言われて悶絶したい。
…いや、いつもされてるな…?
「ルシアン、好きって言って?」
「ふふ…ミチル、好きです。愛してますよ。」
「もっと言って欲しい。」
困ったような笑顔のルシアンは、私に何度もキスをして、その度に愛してると言った。
「私も、私も好き、ルシアン。」
「もう、駄目。我慢出来ない。」
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