第11話 ユイルの血を継ぐ子
「ユイカ君」
ナミは気を取り直して、ユイカの名を呼んだ。
「何ですか?」
「お腹は空いてる?ご飯は食べた?もし食べてなかったら、何か作ろうか?」
するとそっぽを向いていたユイカが、ナミの方を見た。
「夕飯、食べれるんですか?」
「もちろん!」
ナミはユイカの反応に嬉しくなったが、すぐに肩を落として申し訳なさそうに言った。
「あー……、といっても、冷蔵庫の中身を見た限り、サンドイッチぐらいしか作れないけれど、それでもいい?」
ここの所、ずっとユイルを探していて、買い物が疎かになっていた。普段はよく料理をするのだが、彼を探す時間が欲しかったため、料理をする時間も惜しくなり、ここ最近は総菜を買って済ませたりしてしまっていたのである。
だが、ナミの心配とは裏腹に、ユイカはぱっと顔を明るくした。
「ぼく、サンドイッチ好きです」
「本当?」
「はい!」
ナミは安堵した表情を浮かべる。
「じゃあ、待ってね。今、作ってあげる」
そう言うと、ナミは大人一人しか立てないような狭いキッチンに立ち、エプロンをかけて腕まくりをした。そして、冷蔵庫から卵とレタス、トマト、ハムを取り出すと、レタスは手で小さくちぎり、トマトは輪切りにする。それから食パンにはマヨネーズを塗り、その上にちぎったレタスとトマト、ハムの順番にのせ、最後にもう一枚の食パンを上に置く。これで、一品目は完成だ。
(あとは、スクランブルエッグでいいか……)
ナミはフライパンを火にかけると、油をしき、温かくなると溶き卵を入れる。フライパンの端っこからくるくると混ぜ、ある程度固まったらガラスの器に入れると、マヨネーズとスクランブルエッグを混ぜた。そしてこれを、ロールパンの上部に切り目を入れ、マーガリンを塗ったところに詰めれば完成である。
「できたよ」
お皿に載せて、ナミはユイカのところに簡素な料理を持って行く。だが、反応がない。
「ユイカ?」
皿をテーブルに置いて、俯いた彼の顔を覗くと、器用に椅子の上で眠ってしまっていた。
「……」
ナミはため息をつきつつ、ユイカを起こさないようにそっと椅子を引くと、彼がずっと身に着けていたリュックや水筒を落とし、抱き上げた。
(うわっ、結構重い……)
赤ん坊なら友人の子を抱かせてもらったことは何度かあるが、これくらいの子供を抱き上げるのは初めてのことだった。
「……」
ナミは自分の小さな腕の中から、はみ出すように抱かれているユイカをベッドがある隣の部屋連れていく。しかし、ベッドを目の前にしても、ナミはユイカをすぐに下ろさず、彼の肩に顔を摺り寄せた。
(温かい……。そして、これがユイカの香り……)
ナミは腕の中にある、確かな重さと温かさを実感する。
(今、私の腕の中には、ユイルの血を継いだ子がいるんだ……)
複雑な気持ちではあった。だが、今はそれに向き合っても仕方がない。まずは、この子をどうしたらいいのか考える必要がある。
ナミは、ようやくユイカを自分のベッドに寝かせると、その気持ちよさそうな寝顔に、自分も眠ってしまいそうになる。しかし、作ったサンドイッチをそのままにしておくのはまずいと思い、一旦キッチンのある部屋に戻り、それを冷蔵庫に入れる。そして、ベッドのある部屋に戻ると、ブロンドヘアーの小さな王子様の寝顔を見ながら、ナミはうとうとと夢の世界へ入っていくのだった。
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