第3話「あたしたちよりは」

 「――っ!」


 金属音を響かせながら、火花を散らすリーサとエリザ。そんな彼女たちの戦いの様子を眺めながら、壁に背中を預けて座り込むティナ。そんなティナは、本を読むのを中断して自分の膝を下に頬杖をして両頬に手を添えていた。


 「(槍の中距離に対して、あの子のは剣、なの?変わった形だけど、近距離戦なのは変わらない。どうするのか見せてみなよ、リーサ・アルファード・アルテミス)」


 そんな事を思いながら、ティナはリーサへと視線を送る。その視線を微かに感じていたリーサは、横目でティナを見ながら思うのである。


 「(やり辛いっ!!道場で見られながらやった事はあるけど、あそこまで見られるのは初めてですよ!?もう穴が空きそうじゃないですか!)――」

 「余所見とは余裕ですのね?アルテミスさん」

 「……そんな事ありませんよ。武器が武器なので、様子見しているだけですから」


 だがエリザに突きを繰り出された瞬間、視線は目の前の相手へとリーサの視線は戻る。開いている距離は数歩の距離だが、それでもリーチはエリザの槍の方が当然長い。

 その長い槍を眺めつつ、リーサは少し息を吐いて目を細める。狙いを定めて、エリザの身体を上から下へとゆっくりと巡らせる。やがて吐いた息を戻すようにして息を吸い、そのまま吸い切った瞬間に攻撃を仕掛けた。


 「……んっ!」

 「!?(速いっ)」

 

 右からの剣戟を見据えたエリザは、槍の持ち手でリーサの攻撃を防いだ。刀身の鋭さを持ってしても、エリザの持つ槍を斬る事は出来なかった事を確認するリーサは、次の行動へと移っていた。

 右から放った状態から刀の向きを変え、槍の持ち手に刀身を擦り合わせるようにして前へと距離を縮めたのだ。堪らず後方へと下がってしまったエリザは、体勢を崩しつつも回避した。


 「っ!?(足がっ)」

 「……(これを避けますか。リーズフェルトの身体能力は優れているようですね)」

 「今のは危なかったですわ。けれど、攻撃は当ててこそ意味を成しますわ。その程度の奇策では、この私を倒す事は不可能ですわ」


 崩れた体勢を直しながら、エリザは強気にそんな事を言った。だがこれはブラフであり、内心では危険信号が出ていた。リーサの攻撃を回避した時、体勢を崩したと同時に足を捻ってしまっているのだ。

 だがエリザはそれを悟らせないようにして、あえて強気な様子を見せている。つまりは、虚勢を張っているという事だ。しかしリーサは、再び刀を鞘に納めて微かに口を開いて言った。

 

 「お言葉ですが、リーズフェルトさん」

 「?」

 「これ以上の戦いは無意味です。何故なら、もう決着は付きましたから」

 「……馬鹿を言わないで下さる?私はまだ負けておりませんわ。決闘中に寝言は、器用な事をするのですね!」

 「何と言おうとこれは決定事項です。貴女はもう戦えない。私の攻撃で足を捻ったのは明らかです。別に器用なつもりはありませんが、それでも相手の異変に気付けない愚か者ではありませんよ。私は」


 リーサは冷たくそう言った。その言葉を受け止める事に納得が出来ていないエリザは、捻った足を何ともないと証明するようにリーサとの距離を縮めようとした。だがその瞬間、エリザは勝手に動きを止めたのである。

 

 「……まったく。あたしの前でクダラナイ行動をしないでくれる?リーズフェルト」

 

 否。……エリザの足には、ティナが放った氷属性の魔法が包まれていた。捻った足を凍らせられている事で、追い討ちのようにダメージが加算される。微かな痛みが走った事で、エリザは表情を歪ませて地面に槍を突き立てた。


 「私は負けない。負けてはならないのです!!こんな所で、負けるなんてっ、私は!――」

 「アルテミスっ、何をする気?」

 「……」

 

 戦闘の意志を見届けていたリーサは、溜息混じりに刀をエリザの喉元に突き付けて目を細めた。そんなリーサの行動に肝を冷やしたのか、強張った表情へと変わったエリザは動きを止める。

 その表情を眺めながら、リーサは真っ直ぐにエリザの目を見据えて言った。


 「今の私には、この戦いに意味を見出せません。続きは公式な試合でお相手します。敗北をしたくないのなら、より多くの勝利を求める事をオススメします。けれど、敗北にも得る物はある事を、私としては忘れて欲しくないです」

 「意味を見出せ……そんな事で戦いを止めるというのですか?貴女は!」

 「そんな事だからこそ、ですよ。何を思って私を決闘に誘ったかは分かりませんが、少なくとも私にはリーズフェルトさんと決闘する気はありませんでした。もしこのまま続けるというのであれば――」

 「っ!?」

 「――その首は繋がっていない事を覚えていて下さい。では帰ります、あまり遅くなると妹が心配するので」


 リーサはエリザの顔の周囲で刀を素早く振るい、自分の剣筋が見えるかどうかを試しながら鞘へと納めた。だが剣筋を見える事が出来なかった事は、リーサにとっては明白だった。

 何故なら、エリザの足を凍らせていた氷が砕けていた。それはリーサが砕いた物だが、砕いた瞬間を見れていないエリザとティナは離れるリーサの背中を見て呟くように言葉を交わした。


 「フロストさん」 

 「何?」

 「私は敗北したのかしら?」

 「さぁ……あたしは見てただけ。けど、貴女自身が一番分かってるんじゃない。あの子は強いよ。少なくとも、あたしたち二人よりはね」

 「……」

 

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