王族の血族編

第1話「剣術VS槍術」

 対人訓練を基にした模擬戦の中で、Aクラスのメンバーが教室へと戻って行く。講義を終えて自由時間となった時には、残っている生徒は3人だけになった。残った生徒は、リーサ、エリザ、ティナの女子組である。


 「……ふぅ」


 そんな3人の中で、リーサは自分の半身である刀を振りながら肩鳴らしをしている。その様子を横目にティナは図書室から持ってきた本を読み耽っているのだが、その隣で壁に背中を預けるエリザが口を開いた。


 「あの子、貴女から見てどうかしら?」

 「どうって?」

 

 本を読みながら、ティナは視線をエリザへと送る。そんなティナの視線を受けて、エリザは素振りを続けるリーサを眺めている。そんなエリザを見るのを止めて本へと視線を戻したティナは、チラッとリーサを見た。

 その時リーサは、素振りをしていた刀を鞘に納めてティナの元へとやって来た。


 「ん、どうかしましたか?フロストさん」

 「別に」

 「そうですか?」

 「ん」


 本へと視線を向けているティナを無視して、エリザが前へと出て来て言った。


 「貴女、今から私と勝負して下さいます?」

 「……どうしてですか?」

 「単に戦ってみたいと思った。それだけですわ」

 「……」


 エリザを言葉を受けたリーサは、『受けても良いの?』という疑問の視線をティナへと送る。そんな視線を受けたティナは、溜息混じりで本を閉じて言った。


 「あたしに意見を求めようとしないで。心配しなくても、決闘ではないみたいだから大丈夫でしょ」

 「そうですか。……リーズフェルトさん、これは決闘ではないって事で間違ってはいませんか?」

 「ええ。これを決闘にしても良いですが、無断でやれば先生に叱られる結末になるかもしれませんからね。今日のところは決闘ではなく、あくまで模擬戦ですわ」

 「……」


 決闘ではなく、模擬戦。そんな定義に何か大差があるのかと思いつつ、リーサは自分の腰に下がっている刀へと視線を向ける。対人で一度しか使用していない武器ではあるが、それでも切れ味も鋭く殺傷能力も高い。

 下手をすれば、ただの模擬戦で怪我をさせてしまうかもしれないとリーサは考えた。考えたのだが、そんなリーサの考えを先回りした様子でエリザは言った。


 「心配しなくても、簡単に怪我をする程に柔なつもりはありませんわ。余計な心配は、失礼に値しますわよ?」

 「……分かりました。お手柔らかにお願いします」

 「良い返事ですわ」


 そう言ってエリザはリーサの横を通り、ニヤリと笑みを浮かべて槍を振り回して構えを取った。そんな構えを取っているのを確認したリーサは、エリザの前へと向かい刀を抜かずに構えだけを取って対峙した。


 「あら、貴女の剣を見せてはくれないのかしら?」

 「刀身を見せるつもりはありませんが、見たいのなら瞬きをしない事をオススメします」

 「へぇ……相当な自信がお有りなのね」

 「そんな事は無いですよ。戦う前から勝ちを確信するなんて浅はかな事は、するつもりはありません。第一、リーズフェルトさんは先程の模擬戦……本気では無かったじゃないですか」

 

 リーサがそんな事を言うと、エリザは口角を上げて笑みを浮かべた。やがて槍を少し遊ばせてから地面へと突き立て、エリザはリーサへと指を差して言った。


 「なかなか面白い方のようですわね、貴女。ベイルとは大違いですわ」

 「そうですか。あの方の実力もあまり知らないので、比べられても分かりません。けれど、そうですね。他の方と一緒にされるのは、少し心外ですね」

 「……へぇ。ではその実力、私に見せて下さいませ。アルテミスさん」


そう言って再び構えるエリザは、目を細めて突撃の姿勢を入る。目の前で突撃を見せられたリーサは、自分の周囲に居合いの範囲を定めて待ち構える。ジリジリと視線を交わし合う二人を本越しに見るティナは、口ではなく思考を働かせた。


 「……(攻撃と防御が完璧に分かれた。これだったら、有利なのは防御で待ってる方だけど……エリザ・リーズフェルトの実力が計れていない以上、迂闊な攻めは逆効果となる可能性が高い。リーサ・アルファード・アルテミスがどこまで見切れるかが、勝負の鍵)」


 そのティナの考えは的を射ていた。居合いで待ち構えるリーサには、エリザの動きを見てから動く事も出来る状態となっている。一方、攻め側であるエリザはリーサの反撃パターンを予想しなくてはならない。

 互いに睨み合いながら、二手三手の動きを先読みしたうえで行動しなくてはならないのである。だがしかし、互いの実力も分かっていないというのがそれを難しくさせていた。

 明確な情報が無ければ、例え予想をしていたとしても意味が無くなってしまう可能性が高いのだ。


 「では、行きますわよ」

 「はい。いつでもどうぞ」


 短く交わされた言葉。その言葉を受けたリーサは、先程よりも深く守りに入った為に居合いの範囲を拡大させた。だがリーサの剣術を知らないエリザは、構えを警戒しつつも正面突破という行動を取った。


 「はぁあっっ――!!」

 「――!(速い。でも、この程度なら追い着ける)」


 居合いの範囲に後一歩入った瞬間、リーサは抜刀するつもりだった。だがしかし、エリザは地に足を付けたと同時に方向転換をした。


 「……っ!?」

 「甘いですわね。私が無防備に正面突破をするとお思いですか?――ふんっ!」

 

 槍を薙ぎ払い、エリザはリーサの身体を押し退ける。力任せに放ったその攻撃を受けたリーサは、防御に徹した事によって抜刀が中途半端になってしまった。ここから立て直すには、距離を作る必要があった。

 そう思ったリーサは、少し笑みを浮かべて言った。


 「そんな事は思ってませんよ。けど、貴女も少し甘いですね、リーズフェルトさん――」


 

 

 

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