世界のひと雫 / Wring World
遠く、陽光を切り裂き、雲の隙間に見える幽かな手がかり。
虹のように追っても追っても辿り着くことの出来なかった「それ」を追い求めてきた私の旅はようやく終わりを告げようとしていた。
泥炭地に面した山あいの静かな村。
そこにはただ一つ他の集落とは違う特徴があった。
もし、私の推測が正しければの話だが「あれ」の願いを叶えられるこの世にただ一つの存在があるという特徴が。
何故、私は「それ」になかなか辿り着けなかったのだろうか。
村の周りの植生はCfaといったところで伝説とは大きく異なる。
恐らくは大変動の影響だろう。
大変動の影響を考慮に入れ、当時との磁差を計算し現在の緯度経度を割り出すまでに数年はかかった。
数日をかけて「それ」に近づいて行く。
この村に辿り着くまででも足掛け十年以上はかかっている。
今さら数日程度の経過は惜しくはないのだが、今が私の一生の中でただ一度だけ近づくことのできる機会かもしれないという疑いもまた捨てられない。
いつでも、いつまでも「それ」に接近できることを祈るばかりだ。
「それ」は見れば見るほど奇妙な形状をしていた。
巨大な建造物……そう、天然自然の物ではない証拠として垂直やら平行やらに基づいて造られているのだ……でありながら橋脚が見当たらない。
もし、あるとしても「それ」の腕の伸びる先は遥か遠く、空の彼方にまで続いていて、恐らく脚部分は山の向こうに隠れて見ることは叶わなかっただろう。
そして、私は「それ」に乗り込み……
――ある人物の冒険記録より――
ここからはある人物の冒険記録の正当な所有者である私が記録されていない部分を資料と想像によって少しばかり追補することをご容赦願いたい。
「それ」とは現在、軌道エレベータと呼ばれているものである。
「それ」は造った者たちが滅びても、なお回り続けるのだ。
いつでも、いつまでも来るものを拒まず載せる観覧車のように。
そして、ある人物はその後こう記したとされる。
私は「あれ」の願い通りにどうしても宇宙に還ることの出来なかった物体を宇宙に放ち……その日、地球はほんの少しだけ軽くなった。
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