やさしい魔王の物語

鬼龍﨑

すべての始まり

ここはドラグナイト王国。大陸中央に位置する、大陸最大の国である。


その王都。町は活気好き、民の笑顔が花咲き、子供たちの笑い声が響く。そんな風景を王城のテラスで眺める3人の姿があった。


「やっと、約束果たせたね。」


「そうだね。10年かかったけど、やっと、あの方の願いが叶った。」


「いつまでも、この風景を守っていかないとね。」


そう言って、3人は、茜色の空を、見上げた。この安らぎに満ちた世界を作った真の英雄を、真にやさしい魔王の姿を思い浮かべて・・・・






20年前


一つの廃墟に一人の少年の姿があった。家屋は燃やし尽くされ、男達は惨殺され、女達は犯され、そして殺され、子供達は攫われて行った様だった。


これが、今のドラグーン王国の姿だった。貴族が冨と権力を握り、悪政の限りをつくし、力あるものは、略奪者となり、強盗、強姦、惨殺を尽くした、そして、力なき者は、怯えて暮らすしかなかった。


「すまない。私にもっと力があれば。」


「私は誓う。いつか必ず皆が笑って暮らせる世にしてみせる。」


目の前の廃墟を前に、黒の鎧を纏い、大剣を背負い、腰まで伸びた赤髪、そして、その隻眼からは、涙を流し、頭を下げた。


この美少年こそが、この国の王子。アースロイド=ファン=ドラグーンである。












「おら、さっさとこい!」


いつもの風景。奴隷商人が子供を連れて行く風景だ。ただ、今日は、少し違っていた。周りに多くの村人がいて、寂しそうに、悲しそうに並んで見ていた。そして、連れ去られようとしている姉弟。金髪で。青い大きな眼をして、天使の様な可愛らしさをした美少女と。同じく金髪で青眼の、まだまだ子供らしい顔立ちの少年。


そして、何よりも違うのは、二人は、奴隷などとは、ほど遠い貴族が着る様な装いだったのだ。それもその筈である、二人が出てきたのは、リーファン家の屋敷で、貴族令嬢と令息だったからだ。


二人は、首輪を付けられ両手を拘束具で繋がれていた。「早くしろよ!」商人の部下らしい男が拘束具に繋がった鎖を引っ張ると、その勢いで幼い弟が転び顔から地面に突っ込んで、口から血が流れた。


「カイン!」姉が駆け寄り声を掛ける。「大丈夫?」「大丈夫だよ。フィリア姉さん。」少年は姉と共に立ち上がり、「僕は負けない。いつかリーファン家を建て直し、ここに帰ってくる。必ずだ!」その言葉を聞いた奴隷商人が、薄ら笑いで一言「できればいいな。キヒヒ。」と言った。そして、部下の一人が「できるわけねえだろ。おまえたちは、奴隷なんだぜ。男は鉱山、女は娼館行きだよ。わかったか!」


「えっ」僕は姉の顔を見た。「お前たちが、いっしょに居られるのも、あと少しだってことだよ。ハハハハ」


フィリア姉さんの顔が優しく微笑み、「大丈夫。何年たっても必ず探して迎えに行くから、待っててね。」そう言うと、キッとした顔を奴隷商人に向けて、睨みつけた。そして、その時、その人が現れた。




「おい。フィリアではないか?」


そこには、赤髪を腰まで伸ばし、剣を背負った剣士が白馬に乗って、後ろに護衛らしき二人の騎士をたずさえた少年がいた。


「この人の事を美男子っていうんだろうな」僕は思わず見とれてしまった。


「おい、商人。これは、どういうことか?」その問に、奴隷商人が答える。「これはこれはアースロイド様。この物は奴隷でございます。元は貴族様でしたが先日お取り潰しとなり奴隷となったので、引き取りに参った次第でございます。」アースロイド様は、僕たち二人を見ていた。フィリア姉さんは顔見知りらしく、恥ずかしそうに、俯いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る