大魔術師は外伝を語りたい

第95話 外伝・アヴァロンのバレンタインデー

今日はバレンタインデーである。



「ふっふふふーん♪」


ガッシガッシと泡立て器でクリームを混ぜ、お湯の中に浸けたボウルの中には白と黒とピンクのチョコレートが良い感じに溶けている。

オーブンにはクッキー勢揃いで完成までジリジリと焼けていて、クレープもワッフルも全て用意満タン。


「今日は、年に一度のバレンタインデー」


常にお菓子を作っているけど、今日だけの特別なチョコレートも用意しているんだよね。


この世界にはバレンタインデーという言葉も概念も無いけれど、そんなの僕には関係ない。

ないなら作れば良いんだしね。


向こうの世界にいたときは貰えるのを心待にしていたもんだけど、正直作るのが性に合っていたなって今更ながら実感している。


よーし、このくらいかな。


みんなにはお使いを頼んでこのアヴァロンから退いてもらっている。


居るのは見張り役のグロウとヒウロとロックの三人、そしてアヴァロン本体。

そして。


「………」


いつの間にか姿を表すようになったアップルマン。


始めてみたときはあまりの姿に衝撃を受けたものだ。

なんせ茶色い全身タイツに頭がリンゴで、葉っぱのついた王冠を被ってる。

いや、今でもビックリするけどね。


現に今も木の隙間からこっちをコッソリ見てみるわけだし。


「ああ、ありがとう」


どんな魔法なのか窓際にリンゴを入れた籠が出現した。


アップルマンのくれるリンゴはみんな最高級だ。

生クリームを完成させて取りに行くとアップルマンは消えていた。

うーん、精霊の類いなのだろうか??


「わぁ、良いリンゴ」


アップルパイにするか、ジャムにするか。


「迷うなー。でもきっとあの子達は喜ぶだろうね」


さて続き続きと魔法でとある装置を出現させながら着々と準備を進めていった。


残る時間はあと四時間。

おやつの時間に間に合うようにしなきゃ。













「完成!!」


時計を見ると二時半ちょっと過ぎ。

よし、間に合ったぞ!


目の前には様々なチョコレートとお菓子が積み上げられ、さっきのリンゴも色んなものへと変化している。

時間がなかったので少し魔法を使ったけど、変に魔法の通魔率が高くて五秒でできたのはさすがにビックリした。

アップルマン特性のリンゴは研究対象だな。


「ただいまー!!」

「ウィルー!!帰ったよー!!」

「楽しかったぁ!!」


大福とわたあめ、そしてアヴァロンが我先にと帰宅。


「こらこら!ちゃんとお手てを洗いなさい!」


そしてマリちゃんが続く。


「おかえりなさい。みんな!先に手洗いしておいで!」

「あれー?ドア開かない」


鍵を閉めた扉を開けようとしているわたあめ。


「お手て洗ったら開くよ」

「えー」

「いこ、わたあめ」

「はーい」


足跡が洗面所へと向かう。

わかるよ。猫は濡れるの嫌だもんね。

でもダメです。


扉が開いてマリちゃんが入ってきた。


「ただいま戻りました」

「おかえりなさい」


そして机の上に並べられたごちそうに頬を赤らめた。


「わあああ!チョコレートですか!?え?え?なんで!?」


この世界では高価なチョコレート。

ふふふ、しかし僕はカカオの調達ルートを確保しているんですよ。


「バレンタインデーだからね」

「これが、噂の…」


ごくりと喉をならすマリちゃん。


みんなに聞いてるよね、バレンタインデーのことは。


「チョコレートフォンデュもあるよ」

「チョコの滝…」


止めどなく流れるチョコレートの滝に釘付けマリちゃん。


「きゃあー!!チョコレート!!チョコレート!!」

「バレンタイン!!バレンタイン!!」

「甘い臭い!!」


ドタドタと入ってきた三人が机の上で止まる。

そして何故かそこでモジモジしながらみんなが入ってくるのを待っている。


ん?なんだ?なんか可愛い袋持ってる?


んん??てか入ってきたみんななんか隠し持ってる??

なになに??

ええ?グロウたちも!?


そんな僕を見て何故かマリちゃんが小さく笑う。


「さぁ、みんな!せーのっ!!」


一斉に差し出された袋。


「ウィル「おかーさん「師匠「主!ハッピーバレンタインデー!!」

「いつも美味しいご飯ありがとう!」

「これね!これね!作ったんだよ!!」

「姫様からのもあるぞー!!」


ポカンとしてしまい、一気に顔が熱くなった。


「こここここ、これ、みんなが作ったの??僕のために??」

「そうだよー!」

「はいどうぞ!」

「こっちはクッキー」

「俺のはべっこう飴な」


袋を受けとる。

あっという間に抱えきれないほどになった。

ウンデーネからも。


なにこれ凄い嬉しい。


「ウィルうれしー?」


大福が訊ねてくる。


「うん!すごく嬉しい!ありがとう!」

「やったぁ!」


まさかプレゼントするはずが、逆にされるなんて思ってもみなかった。


「ふふふふ、どうですか?私たちのドッキリは」

「本当に最高だよ!今日はとっても良い日だね! さ!みんなも僕が準備したお菓子を食べて!」


口々に歓声を上げながら席につき、みんなお菓子を食べ始めた。

チョコレートフォンデュも好評で、張り切った甲斐があった。

もちろん途中からアップルマンも参加してたからリンゴ型のチョコをあげた。貰いっぱなしだからね。


口一杯に貰った手作りチョコを頬張る。

きっと竜の国で作ったのだろう。


下の上で溶ける甘味に頬を緩ませた。


ああ、生きてて良かったな。



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