第81話 過大評価ですう!!

山を越えると見えてきたのが大きな湖だ。

カイビャッ湖、何の変哲もない湖に見えるがとんでもない。

あれは死海だ。

恐ろしく透き通りすぎて生き物が住めず、人間でさえ頭痛を発生させるほど静寂な空間に恐れて近付こうともしない。


「…あれが…」

「そう。あれが聖水のオリジナル。聖水を取りに行った旅人のお話は聞いたことあるだろう?」

「はい、だけど。本当にあるなんて…」


ここも“もうひとつの地の果て”と同様に禁域にされている場所だ。

お伽噺の様な作り話だと思うはずだ。

でもあの話は事実であり、そのあとの悲惨な話も全部本当だ。


《ヴェルディロードとギャッシュの事か? そうかー、無事に取りに行けたのか。良かった良かった》


デュランバルの代わりに杖に収納したエクスカリバーのアルスレッドが言う。

知り合いだったんだね。

というか、その言い方だと取りに行ったあとの出来事は知らない感じかな?

言わないでおこう。

沈黙はなんとかっていうし。


「この辺で停止して」


慌てて止まるマリちゃん。

実は飛ぶのって、空中停止のが大変だったりする。


「と、とと…っ」


器用にバランスを取ってる。


これなら大丈夫かな。


「マリちゃん。これから向かうところはきっと離れ離れになるから、何とかしてその剣と魔法でなんとか辿り着いてね」

「………」


不安そうなマリちゃん。

まぁ、そうだよね。


「大丈夫大丈夫。個人の強さに合わせて来るから、キツいのは僕もおんなじ感じだし、一緒に頑張ろう」


と、ゲンナリしているであろう僕の顔を見せれば察してくれたようだ。

彼の者達は生かさず殺さずで様子見するからね。

ああ怖い怖い。

でもこれは僕があのめんどくさい魔王に完全勝利するためだ。


頑張ろうと気合いを入れ直すマリちゃんを確認して鞄を外す。


「じゃあ、いくよ」


血を1滴だけ湖に向かって落とす。


湖が水色に輝くと、すごい勢いで水が渦を巻く。


「土地の主、ロロン。折り入ってお願いがあって参りました。お礼の品を用意してあります。どうか通してください」


ゴプンと音が鳴り、水の柱が凄まじい勢いで二つ昇ってきた。


「ひいいいい!!?」


マリちゃんが思わず逃げようとしてる。


「マリちゃんストップ!!!!!」

「!!」


なんとかマリちゃんを引き留めた瞬間水の柱に飲み込まれた。














ひどい目に遭った。


「……嘘じゃん?僕あんなに強くないよ??」


死ぬかと思った。

魔力枯渇寸前で、危うく四肢犠牲にするところだった。

なんとかなったのは付け替えたアルスレッドさんの差異でごり押しした感じでなんとか勝った。

誰が自分自身と戦うと思う?

てか、いつの時の僕よ。


《………》


アルスレッドも疲れすぎて死んでるし。


「どうしよう。マリちゃんに軽々しく大丈夫大丈夫って言っちゃったけど、トラウマになっちゃってたらどうしよう…」


怪我も魔力も全て回復するとはいえ、心の傷まではどうすることもできない!!


『心配するな、人の子。あの人の娘はそんなに柔ではない』

「はっ!」


ビックリした。

いつの間に後ろに…!?


「…お初にお目にかかります。ロロン様」


もっふもふの巨大なキノコであった。

声しか聞いたことなかったけどこんな容姿をしていたんですね。


『みんなから話は聞いている。勿論強さも。調整は完璧だっただろう?』

「過大評価ですう!!」

『しかし生きてるではないか』

「ごもっともでしたあ!!」


嬉しそうにフッサフッサと体を揺するロロン様。

キラキラ光っているのは胞子ですかね。


「そら、ご覧? 君が心配するほど娘は弱くはない」


胞子が集まって光輝くと、なんと奮闘するマリちゃんの姿が撮し出された。


あれ?

結構強いなマリちゃん。

てか、僕の知らない魔法ガンガン使ってない?


「ホッホッホッ。人の娘は強いのだよ。やるときはやる!」


視線がこっちを向いた。

目玉はどれかわからない。


『側にいるからと言って、何もかもを知った気でいるなよ?』

「心に刻んでおきます」


ガッシガシとね。


三分後。

マリちゃんが目の前に現れた。


「うわああああー!!!お師匠おおおお!!!!」


泣きながらすっ飛んできた。

みぞおちアタックは痛いけど、マリちゃんが無事で良かった。


『さて、揃ったようだし、主らが作ったお菓子でも食べて話し合おうではないか』

「…!??」


あ、マリちゃんがロロン様に気が付いて固まってる。

キノコと声には出してないけど、頭の上にキノコマークとハテナマークがポンポン出ている気がする。


「この国の土地の主だよ」

「ロロン様、ですか?」


にんまり笑う気配。

口はどこかわからない。


『ホッホッホー! さささ!食べよう食べよう!』


ロロン様の後ろにキノコの机と椅子が生え、持ってきたお菓子が並べられた状態で現れた。

ぴょいんぴょいんとジャンプして机に向かうロロン様の後について行った。


さーて、交渉うまくいってくれよー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る