第78話 アルスレッド・サリアーさん

飛び掛かってきたウィーヴルの顔面を掴んで地面に叩き付けた。が、既にウィーヴルの姿はそこにはなく、


「アルスレッドアルスレッドアルスレッドアルスレッドアルスレッドアルスレッドアルスレッドアルスレッドアルスレッドアルスレッドアルスレッドアルスレッドアルスレッドアルスレッド」


額のダイアモンドの瞳が媒体になって瞬間移動をした後だった。


「ふぅー、相変わらず逃げ足が早いこと。でも、もうこれで終わりですよ」


さっきの攻撃で既にマーキングは済ませた。

あとは勝手に自滅してくれる。


「アルスレッドオオオオオ!!!わたじのモノオオオオオ!!!」


再び宝石化の能力を発動させた。

今だ。


くいっと指先を地面からウィーヴルの方へと向けてやれば、四方八方から鏡が生え、ウィーヴルの姿を映した。

邪眼持ちに嫌われる対魔法の、ミラーハウス(僕が製作者)。


「三秒間待ってやるっ!byム○カ風」


心のなかでたっぷりと三秒数えてから解除すると、ウィーヴルが宝石化していた。


よーし!これで一時間は安心だ!


本来なら額のダイアモンド取って瞬間移動と宝石化の能力を封印とか、もしくは心臓まっぷたつにしてしまうんだけど。


「どうせ僕以外来ないだろうし。外に出なければ害もないしね」


岩に刺さった剣の前に来る。

刺さったっていっても、こう、縦に刺さった訳じゃなく、こう斜めに刺さってる。

あと数ミリ下にいってれば傷つけること出来たのに、惜しかったねって感じ。


「ふんふふふーん♪」


物語とかだと、こういうシチュエーションって、選ばれし者の剣を引き抜くぞー!って感じだけど、そんなのに縁無いし。

あ、でもごっこ遊びでやってみるのも楽しそう。

柄を握り、大きく息を吸う。


「さあ!コールブランドよ!秘めたる力を目覚めさせたまえ!!」


なんつって。


そのままスポンと引き抜いた。


《承認》


ん?

なんか聞こえた気が。


《貴方を主と認めました。これからよろしくお願いします。こちらは助けてくれたお礼です。どうぞ受け取ってください》


突然剣が光輝いて、無かった筈の鞘が生み出された。

ボトンと地面に落ちる鞘。

剣をよく見てみればデザインが変わっていた。


うっすらと魔力と、あと人間の気配が。

まさか…。


「……アルスレッド・サリアーさんですか?」

《そうです。よく分かりましたね。あの魔物の呪いが発動したときに咄嗟に意識を移したのですが、どうにもこうにも動けなくなってしまって、絶望していたのです》


禁忌の魂鞍返しの魔法を使っている事例を見たの初めてだ。

大昔の、身代わり魔法が生まれる前の古い魔法。

死ぬ前に自ら魂を封印して、仲間に代わりの肉体に移し変えて復活するやつなんだけど、あまりにも道徳的にどうなの?ってなって使用禁止になった魔法。


《本来なら仲間に回収して貰う予定だったのですが、逃げちゃったので》

「あー、まぁそういうこともありますよね」


我が身が大切なのはいつの時代も変わらない。


《出来る限りのお手伝いをさせていただこうと思ってます!ランプがわりにもなりますよ!ほら!》


ピカー!と光る刀身。

格好いいな。

漫画の演出がリアルでできるやつじゃん。


「あの鞘は?」

《いつの間にか隣に出来上がってた相棒です。中に入れてくれると刃こぼれとか、ヒビとか治ります!》

「超便利ー!」


砥石いらず!


では遠慮なくと、剣を鞘に入れて腰に差した。

思ったよりも軽い。魂宿ってるからかな?


「君に頼みたいことがあるけど、それは帰ってから伝えるね」

《はい!》


洞窟に戻り、いくつか宝石を貰いながらこのもうひとつの地の果てを後にした。



















結局二日掛かってしまった。


『おかえりなさいませ』


まだ夜も明けてないのにメナードが起きて待っててくれた。


「ただいま。仲間が増えたよ」


ほら、と剣を指した。


《…おはようございます。アルスレッドです。よろしくお願いいたします…》


おや?声が弱々しいな。

なんでだろう。


『なんだか弱ってますね』

「ねー。どうしたんだろう?」


魔力も異常なし。

というか、少し強くなっていた。


「大丈夫ですか?」

《………近くに湖か、泉はありますか…?…》


泉はある。


「ありますね」

《…………そこに、投げ入れて貰えませんか…?……》

「え。だって沈みますよ?」

《………お願いします……》


なんだか分からないけど、要望通りに泉に連れてきた。


『…? どうしたの?』


ウィンデーネがやって来た。


「この剣を沈めて貰ってもいいかな?剣の要望なんだけど」

『剣の?』


ウィンデーネに剣を見せると、何かを察したように手を伸ばしたので差し出した。


『明日の昼頃取りに来なさい。そうしたら、ふふ』


なんだろうか。

凄く楽しげに笑っている。


『この子、もっともっと強くなっているわよ』

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