豊玉発句集、奪還作戦

 ある晴れた日の昼下がり。

 沖田さんを筆頭に斎藤さん、藤堂さん、原田さん、永倉さん、そして井上さんという所謂試衛館出身の副長助勤たちが、広間の一角で円陣を組み座っていた。

 最重要機密である“とある計画”の作戦を立てるからと、沖田さんによって秘密裏に召集され、私も少し遅れて参加したのだけれど……。


「あのー、沖田さん。重要な話なんですよね? 私がいてもいいんですか?」

「何言ってるんです? 春くんには重要な任務があるんです。むしろ、いてもらわないと困ります」

「ど、どういうことですか?」


 重要な任務って一体何だ?

 そんなもの、私に勤まる気が全くしないのだけれど!


 そんな中、すでに内容を聞かされたらしい永倉さんが提案する。


「山崎に探らせた方が早いんじゃないか?」

「そうしたかったんですけどね〜。丞さんは、ひとあし先に土方さんに懐柔されてしまいました。ねぇ、春くん?」

「へ!?」


 なぜ私に振る!?


 何のことかわからず首を捻るも、永倉さんは気にする様子もなく続きを口にする。


「まぁ、部屋の中にあるなら、全員で探せばすぐに見つかるか」

「じゃあさ、誰が先に見つけるか勝負でもする?」


 そんな藤堂さんらしい提案に、すかさず原田さんが反応を示した。


「そういうことなら、見つけた奴は次の飲みがタダになる、でどうだ?」


 いいね、と勝手に盛り上がれば、沖田さんがにこにこしながら斎藤さんを見る。


「一くんも、タダ酒がかかったとあれば参加しますよね~?」

「まぁ、悪くはないな」


 部屋の中での探し物に、山崎さんはすでに土方さんの味方……となれば、何となく話は見えてきた。

 うん、激しく嫌な予感しかしない。


「というわけで、春くんには豊玉発句集奪還作戦のため、土方さんを部屋の外に連れ出すという重要な任務を任せますね〜」

「なっ!」


 やっぱりそれか!

 あえてかどうかはこの際突っ込むまい。だから……私を巻き込むのはやめて!


 この場を正しく収めてくれるのはこの人しかない……と、それまで黙っていた井上さんに視線を移せば、にっこりと微笑み返された。


「たまには総司の遊びにも付き合ってやらんとな。歳がどんなものを書いてるかも見てみたい」


 まるで、成長を暖かく見守る親戚の叔父さんのごとく微笑み……。


 このままではマズイ。

 けれども私の心配をよそに、今夜はタダ酒だ、などとますます盛り上がる。


「では、春くん。さっそく作戦実行といきましょうか〜」


 そう言って、沖田さんが立ち上がった時だった。 

 背後から影が差すと同時に背中にもの凄い圧を感じれば、頭上からは聞き慣れた声まで響く。


「その作戦ってのに俺も参加して、てめぇら揃って無一文にさせてやろうか」

「やだなぁ〜。土方さんは隠し場所知ってるんだから、駄目に決まってるじゃないですか。そんなこともわからないんですか〜?」


 お、沖田さんめっ!

 なぜ余計に煽る!?


 恐る恐る上向けば、腕を組んで仁王立ちする土方さんと目が合った。


「お前はどっちの味方だ?」

「わ、私は……どっちの味方でも――って痛ッ!」


 案の定デコピンが飛んでくるも、しばらく摩ったのちに反論する。


「何で私ばっかり!」


 私は巻き込まれただけであって、何にもしていないのに!


「何でって、もうお前しかいねぇからな」

「えっ!?」


 辺りを見渡せば、すでに全員いなくなっていたのだった……。

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