第77話 いざ、大蛇の腸へ。

オロチの鍵を解錠し、大和さんは運転席側のドアを開けながらこちらを見て、


「ほら、どうしたの?乗った乗った!!」


と笑顔で手招きしてきた。 促されるままに、私は


「は、はい・・・」


と、ゆっくり返事をして、オロチの『腸』へと潜り込んだ。


太いサイドシルを踏み越えて乗り込むと、内装はホワイトゴールドのボディカラーに合わせて、ブラックとダークレッドにまとめられたインテリアはなんだか、さながら蛇の腸内にいるような心地だった。


流石はスーパーカーらしく、内装の素材という素材は、全てレザーであつらえられていて、大和さんがチラと言ったところによると、一台当たり十頭分の牛の革が「捧げられて」いるという。 部材一つ一つがオーダーできるという事もあって、大和さんは内装のアクセントパネルになんと、自分の名前を印字してもらっているんだとか。


低くて、グラスエリアから見える景色も独特で、さながら只者ではないクルマに乗っている感は強かった。


その、オロチの腸の中にいるうちにオロチ独特の世界観という毒に飲まれていると、大和さんは


「それじゃ、行こっか!!」


テンション高めに大和さんは告げて、オロチの心臓に火を入れた。


V型6気筒エンジンが穏やかな鼓動を立てて鼓動を打つ。 ギアレバーをDレンジに入れると、オロチはゆっくりと地下駐車場から這うように、地上へと躍り出た。


オロチは、その獰猛な見た目からは想像もつかないくらい自然に、スムーズに、しなやかに夜の繁華街を走り抜けた。 乗り心地も存外優しくて、割とリラックスできた。


そして、街を普通に駆け抜けているだけでも集まってくる沢山の熱い視線。


どのスポーツカーやスーパーカーとも違う、和のエッセンスとエキゾチックさに溢れたデザインは、このネオン街の中にいてもなお埋もれることはなかった。


見た目は綺麗で、でもとても個性を放っていて、でも本当に触れてみると意外に親しみやすい・・・なんだか、このオーナーによく似ているかもね。 この趣味やってるとよくある事だけれども。


そんな事を考えながら、窓の外の景色を眺めていると、横から声が聞こえてきた。


「こうして何となく車で繁華街流すのってさ・・・なんかいいよね。煌びやかな光の中で色々な人達の人生が交差して流れて・・・・そして、その中で自分もこうして好きなクルマと一緒に、人生っていう大河を漂っていくような感覚を味わえる・・・っていうかさ。ごめん、こんなこと言ったらクサいかな。」


「いえいえ、そんなことないですよ!私も分かります。 なんだかしんみりしちゃうっていうか・・・・。私も色々考え事してしんどくなった時、こうしてドライブにきたりとかするんですけど、同じような気持ちになりますよ! 大好きなクルマという相棒がいれば、私はまだまだ、頑張っていけるぞ!ってなりますよね!!」


わかってるじゃなあい!!と、はにかんで、大和さんは答えた。


オロチは、光り輝くビル街を前へ前へ進んでいった。

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