第41話  ふと一人旅に行きたくなって。前編

莉緒と一緒に出掛けてから早一週間経った金曜日。今週は重要な会議や、残業が連続していて、本当に忙しくストレスが溜まる日々が続いていた。好きなドライブに行きたくても確保できず悶々としていた気分をリフレッシュするために今日は、いつもより早くに退勤させてもらい、事にした。ササっとパジェロに乗り込み、一旦自宅へと戻る。そして、軽くシャワーを浴びて着替えた後に数日分の衣服と荷物をまとめ、パジェロのラゲッジに積み込み、颯爽と自宅を後にした。

途中でコンビニによってちょっとした軽食とボトルコーヒーを買った後、練馬インターから関越自動車道に乗り、新潟方面へと向かっていった。途中からオーディオのボタンのスイッチを入れ、昔から好きだったアーティストの曲を流し、ムードに浸りながら走った。車の少ない時間帯にこうして好きな音楽を聴きながら気持ちのいいペースで流すのは最高に気持ちいいひと時であった。程よく伝ってくる澄んだエンジン音とオーディオから流れてくる音楽のハーモニー・・・・・・これ以上のドライブミュージックはあろうはずもない。あっという間に埼玉を通過し、故郷の群馬へと突入する。群馬特有の山に囲まれたような風景を見ていると、学生時代の記憶だったり、色んな事が蘇ってくる。時にむず痒い記憶も上がってくるけど、何故か温かい気持ちになってくる。生まれ育った土地故か。

そのまま視覚でもわかる位のキツい勾配が谷川岳に向かって続いてゆく。パジェロエボはそんなところでもグングン登っていくのが気持ちいい。大排気量エンジンの余裕が心地よかった。運転席側に入れたレカロのフルバケも、身体をガッチリ支えてくれて快適そのもの。そして一旦、休憩のために関越トンネル前の谷川岳パーキングに立ち寄る。疲れは全くなかったが、流石に何時間もぶっ通しで走っていたので一旦息抜き。


パジェロエボを区画に止め、降りて「うーん・・・・」と伸びて深呼吸をする。真夜中の山の中の少し冷たい空気が気持ちいい。


「さーて。ちょっとトイレ休憩して建物中でも覗いてくるか。」


と言って私はトイレで用を足した後、パーキングの中を見て回った。割と近年になってリニューアルされたこともあり、綺麗で快適・・・・なのだが、昔の目玉(?)であったトンネル館という関越トンネルの構造や消火設備を解説した建物が撤去されていたのが少し寂しかった。また、ここでもホルモンを使ったもつ煮などが名物だったようで、食べていきたかったのだが、とりあえずコンビニで買ったおにぎり等があったのでここでは我慢することにした。再びパジェロエボの中に戻り、買ってあったおにぎりをついばんで夕食をとる。なんてことない普通のおにぎりだけど、好きな車の中だと妙においしく感じた。


食べ終わった後はふう・・・と息をついてまた五分間グデーっと休憩を入れた。



「さあて、そろそろ行きますか。」


私は再びパジェロエボのエンジンに火を入れ、ギアを入れ、パーキングを後にした。


出るとすぐに関越トンネルへと入る。関越トンネルは、少し前まで自動車用トンネルとしては日本最長(今は山手トンネルが最長)でお馴染みであり、全長はなんと約11キロもある。実際いつ通っても果てしなく続いていくような感覚に陥る。うわあ・・・まだかなあ・・・ながいなあ・・・と思いながら走っていると、壁に遂に「新潟県」という文字が見えてきた。あともうちょいかな・・・・。そう思いながら進んでいくと、とうとう出口が見えてきた。


「よおし。」


と思わず声が出てしまった。遂に、新潟の方まで来てしまった。少し急な下りになっているところを過ぎると、横にガーラ湯沢やその他スキー場が見えてきた。今はまだシーズンじゃないので当然人気はなさそうだったが、シーズンになるとすごいんだろうなあ・・・なんて通るたびに考えてしまう。それこそ、RVブームの頃なんか関越道にはパジェロがいっぱいいたんだろうなあ・・・なんて考えたり。ここを過ぎると、後は新潟らしいだだっ広い平野の上をひた走ることになる。 夜中だからそこまで目立って見えるわけではないが、田んぼ・・・田んぼ・・・田んぼ・・・見渡す限りの田んぼが広がっていた。流石は米作りで有名な新潟といったところか。


余りに直線が長いから、ちょっと退屈に思ったりもしつつ、走り抜けていくと長岡インターで関越道は終わり、北陸自動車道へと入る。


「よーし。あともうちょい行くか。寺泊付近で一旦仮眠でも取ろ。」


凛子はぼやいた。


そこからもう少し行った中之島見附インターで高速を降りて、一般道へと入る。寺泊方面へと向かうと、とうとう日本海が見えてきた。夜間だからそこまで気持ちよく見えるわけではなかったが、海を見るとなんだか興奮してしまう。


付近にちょうどいい道の駅があったので、ここで車中泊をすることにした。パジェロエボで車中泊をするのは初めてだったので妙にワクワクした。

運転席側はフルバケが入っていてシートが倒れないので、助手席側を目いっぱい倒し、その上に寝袋を置いた。


「これでいっか。今日はパジェロエボ宿でお泊りだね!」


とウキウキしながら私は呟いた。 その後は、車内に乗り込んで施錠し、そのまま寝袋に入りバタンキューだった。 明日はどこ回ろうか・・・朝日もみたいな・・・なんて考えながら。


・・・しかし、この時点で夜明けまでいくばくもない時間だったから、起きた時にはとっくに朝日が昇り切っていたのはここだけの話である。


続く。



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