第34話 好きな車を操る喜び。

練習場所へとAK45マグナムを転がす。今回ナンバーを取るために車検とリフレッシュを済ませたAK45マグナムの調子は抜群で、快音を響かせながら町を軽やかに走り抜けた。クラッチペダルの重さも程よくなっていたし、足回りのブッシュ類やタイヤなどの消耗品の交換、その他諸々も一新したおかげでまるで新車になったかのように軽い身のこなしを見せてくれた。助手席のふうみん先生もとても興奮していたようだった。


「うわあ凄い!!私のAK45マグナムが走ってる・・・!この車って、こんなに軽快に走るんですね・・・・横に乗ってるだけでも感激しちゃいます!」


「しかも今日はこうしてるだけじゃなくて、このAK45マグナムで練習して、自由に走れるようになるんですよ!今日は頑張りましょうね!」


そういうとふうみん先生は「ええ、もちろん!」と笑顔で答えてくれた。


それから程なくして『練習場所』に着いた。山奥にある古ぼけた公園の駐車場だ。ここは結構前から整備もされておらず、遊びに来る人も殆ど今ではいない上に、駐車場のスペースがだだっ広いので練習場所にはちょうどいいということで選んだ。適当な枠に車を駐車した後、


「さ、先生。どうぞこちらへ。」


はい・・・・。と少し緊張した面持ちのまま、運転を交代し、ふうみん先生は運転席へと座った。

ドライビングポジションを合わせ、スー・・・・ふう・・・・と深呼吸をしていた。


「じゃ、先ずはエンジンをかけて、ギアを入れて発進してみましょうか!」


「はい・・・。10年ぶりの運転・・・凄く緊張します・・・・・。」


ふうみん先生はキーをひねってエンジンに火を入れた。3リッターV6ツインターボエンジンはドドドドドド・・・・と獰猛な音を響かせた。そして、また深く深呼吸をした後、シフトレバーを一速に入れ、アクセルをかなり強く煽りながらクラッチペダルをトンっと荒く繋いだ・・・・


ガコンっ!と音がしてエンジンが止まった。所謂エンストである。


「あはは・・・・エンストしちゃいました・・・。」


頭を掻きながらふうみん先生は言った。


「大丈夫です!久しぶりに乗ればこんなこともありますよ!さ、今度はもう少しペダル操作をゆっくりとスムーズにやってみましょ!」


そこから私は助手席側から身振り手振りを交えながらアドバイスを入れた。スムーズな発進の仕方、シフトチェンジの仕方、曲がり方・・・・。私の持てる知識を教えられる限り精いっぱいに教えた。最初はぎこちなかったふうみん先生の運転であったがみるみるスムーズになっていき、駐車場内を軽快に動けるほどになった。そして、私はふうみん先生を次のステップに進めることにした。


「それじゃあ次は・・・公道に出てみましょうか。」



「はい!わかりました! 公道は流れとか歩行者とか色々ありますし、もっと気を引き締めなきゃですね・・・・。」


少し表情が強張りながらも、しかしさっきより見違えるように自信をつけたふうみん先生は、滑らかに車を操り、駐車場を後にした。


駐車場から出ると暫くはずっと下る山道。曲がりくねっている上、下り勾配になっているから、中々神経を使うところである。ここもエンジンブレーキとスムーズなステアリング操作であっさり切り抜けてしまった。その後も街中、バイパスと様々なシチュエーションを走って練習を重ね、3~4時間後には自由自在に操れるようになっていた。まるで駐車場で練習した時の様子が嘘のように、上手く呼吸を合わせてシンクロしているかのようにAK45マグナムを道路で踊らせるように走らせていた。ふうみん先生は、まるで子供に戻ったように眩しいくらいの笑顔で運転を楽しんでいた。


これならもう安心だ・・・・。そんなことを考えながら助手席でふうみん先生の顔を眺めていた。



そうこうしてるうちにすっかり日が暮れ、私とふうみん先生は再び志熊自動車の方へと戻り、ひと休憩入れていた。


「ふう~~!今日は本当に楽しかったです。篠塚さん、ご教示いただき本当にありがとうございます!! 車を運転するってこんなに楽しいことだったんですね・・・・。」


「いえいえ、礼には及びませんって!私はただ少しアドバイスを飛ばしただけなんですから・・・・。免許取ってから暫く運転してなくてこの順応性は本当に凄いと思います。是非、AK45マグナムと他のパジェロたちとも運転楽しんでくださいね!」


「はい!もちろんです!!今日運転する楽しさに目覚めちゃいましたし、他の子たちもナンバー取って色々走らせようと思います!次はどこ行こうかなあ・・・・。」


そう言っているふうみん先生の横顔は本当に素敵だった。


自分の好きな車に乗り、そして車と呼吸を合わせるようにしてコントロールし、駆け抜ける喜び・・・・・・。やはり目覚めてしまうと、止まらなくなってしまうだろう。


その後、ふうみん先生は持っている他の車も無事ナンバー登録を済ませ、空いた時間に遠出にいったり、なんとイラストのモデルを探しに各地に行くようになり、より素晴らしいイラストを描くようになって更に人気を上げたらしい。やはり車は、ただ何処かに移動するためだけでなく、人の心を動かす、力を与えてくれる何かがあるんだなと改めて凛子は思った。


続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る