第8話 若きヤマネコ遣い
パドックに止まった4代目パジェロショートから、一人の女の子が降りてきた。年齢はどうやら私より一回りくらい若いようだ・・・・ぐぬぬ。 髪はスポーティな感じのショートヘアーで、ちょっと吊り目で、クールそうな背が高く細身の子であった。 その横にはパソコンを持ったエンジニア(?)のような人がいて、何やら車のセッティングについて話し合ってたらしい。
二人が話し合ってるのを尻目に、私はシルバーのパジェロをチラッと覗きこんでいた。 グレーのフェンダーアーチパネルに、「3.8L V6」のエンブレム、どうやらV87W型のVR-Ⅱというモデルのようだ。 チューニングもそれなりにされているようで、タイヤ&ホイールはレイズのTE37にヨコハマのジオランダーA/T G015の組み合わせ、車高も若干上がっていて、マフラーも社外製のものが付き、シートもフルバケットの本格的なものになっていて、ロールケージも入り、マッドフラップも付くなどかなり弄りこんでいるようだった。
暫くすると、その子はショップ名と思わしきロゴが入ったレーシングスーツ(!)を着てヘルメットを着用して車に乗り込んだ。
エンジンに火が入り、暫く暖気を済ませたV87パジェロはコースに入っていった。
恐らく様子見でまだ流している感じであったが、ラインどりからして明らかに素人ではなさそうだ。
その様子をジュースを飲みながら眺めていると、管理人のおじさんが来た。
「速そうですね~・・・あの子。」
「あ~あの子ね・・・・凄くキレッキレな走りだよねえ・・どうやらラリードライバーの四ノ宮敏弘の娘みたいなのよね・・。」
「ええええ!?四ノ宮敏弘ってあの四ノ宮敏弘ですか!?」
四ノ宮敏弘、ラリー好きなら誰もが知る超有名選手だ。全日本ラリーのトップカテゴリーであるJN6(現JN1)クラスでランエボを駆り、5度のシリーズチャンピオンを獲得している。
私も昔全日本ラリーを観戦しに行ってた頃、サインをもらったりしたことがある。
話を聞くところによると、どうやらあの子の名前は四ノ宮涼というらしく、19歳の大学生兼駆け出しのラリードライバーなんだそうで、現在オフロード4×4向けパーツメーカーで有名な「RADIUS(ラディウス)」のワークスドライバーなんだとか。で、よくエンジニアとトレーニングのためにここに自身の愛車、V87パジェロと共によく練習しに来るらしい。
アタックラップに入った様子を見ていたが、無駄のないスムーズかつ、繊細なドライビングに思わずくぎ付けになってしまった。特に高速コーナーを軽くリアをスライドさせながら鮮やかに立ち上がるところなんかは流石ラリードライバーだなあと思った。
ベストタイムは1分32秒93。流石だ。
パドックに四ノ宮涼さんのパジェロが戻ってきた。 降りてエンジニアの人と話をしていた。
「中々いい感じじゃないか、涼。 自己ベスト更新だな。」
「んん~まあね・・・。まだ最終コーナーなんかははらみ過ぎちゃって納得してないけど。」
なんて聞こえてきた。
様子を見ていたらなんだか私も古参の意地(?)というか、闘争心が沸いてきたので、この後すぐにコースインし、アタックラップに入った。
最初の時より更にパジェロエボを攻めたてる。車の限界が段々と掴めてきた気がする。アクセルを踏む足にいつもより力が入った。私だってまだまだ負けないぞ・・・・そんな事を考えてひたすら走っていた。
・・・・暫くして、パドックに入ってタイムを確認しようとすると、管理人さんが目を真ん丸くしてタイム表を渡してきた。なんとさっきの四ノ宮涼さんよりも速く、しかもこのコースのライトチューンクラスでコースレコードとなる、1分32秒61をマークしていた。我ながらびっくりした。 まさか初日でそんなタイムまで出せちゃうとは。
自分でもたまげていると四ノ宮涼さんがこちらに来て話しかけてきた。
「やあ、初めまして。あたし、四ノ宮涼っていうんだ。 ・・・あなた速いね。もしかしてあなたもプロドライバーだったり?」
「あ、こ、こんにちは四ノ宮さん・・・。私は篠塚凛子って言います・・・・。昔はちょっとかじってたってだけで、今はズブの素人ですよ・・・。」
「別に涼でいいよ。 そうなんだ~。でもあなた相当上手いね。あれだけ車をコントロールできるんだから。凄くびっくりしたよ。」
あ、ありがとうございます・・・。なんて小声で答えてしまった。結構愛嬌のある子みたいだ。
その後暫く話していると、同じパジェロ乗りという共通項があったのでそれぞれの愛車の話になった。 どうやら涼も私と同じようにパリダカの影響でパジェロ好きになったそうで、このV87もドライバー契約を結んだ直後に思い切って買ってしまったらしい。
そこで、涼はこう切り出してきた。
「なあ、凛子。 来月末にここでやる、NXCD第二戦に興味はないか? よかったら今度はそこで対決してみようぜ。」
「た、対決?」
なんて首を傾げていると、涼は続けた。
「ああ、そうだ。フリー走行じゃなく、今度は公式の大会で対決してみようよ。 凛子の腕ならかなり上位・・・いや、優勝争いだってできるかもな。 あ、スポット参戦は普通にできるから安心してくれ。」
っと言ってきた。
NXCD(日本クロスカントリーカーダートチャレンジ)は、日本におけるクロカン4WD車のダートトライアル競技の一つで、人気が高い。 それこそ私もパジェロミニ時代にお手伝いで行ったりして興味はあったけれど・・・。
うーん・・・と悩んでいると涼は、
「まあ、まだ時間はあるからゆっくり悩んでもらっていいよ。あ、連絡先交換しとこ?」
そう言われて、連絡先を交換した後、涼は用があったらしく挨拶をしてそのまま帰ってしまった。
私もその後、もう少しだけ走ってそのまま帰路に着いた。
「そうかあ・・・NXCDか。 競技またやってみたいけど・・・ね。」
悩んで少しばかり苦笑いを顔に浮かべながら、凛子は自宅に向かってパジェロエボを走らせていた。
続く。
(NXCDは架空の競技名です。予めご了承ください。)
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