第1158話 王都からの援軍到着までもう少し



 シュットラウルさんが、街の人達や兵士さん達を思いやれる人柄であるのは、短い付き合いでもわかっている。

 それなのに、人的被害を覚悟してでも必要な事というのであれば、本当に必要なんだろう。

 もしかすると、シュットラウルさん自身は言わないけど、鎧を使って魔物に飛び込んで行ったのはそういった考えがあったからかもしれない。


 俺が南側の魔物と戦うなら、こちらは東側の魔物と……みたいな?

 本人に確認はしていないけど、シュットラウルさんと合流した時に聞いた、後方でただ指示をしているだけなのは……というだけだったら理由として、ちょっと弱くて不自然だったからね。

 

「それじゃ……俺は直接は戦わないように……あぁ、そうだ。後ろで怪我人を治療するくらいなら、問題ありませんか?」

「むぅ、一度目の演習で兵士達に施した治療か。あれもまた控えて欲しいとは思うが……仕方ない。いたずらに被害を増やしたいわけではないからな」

「はい。それじゃ、俺は怪我をした人を片っ端から治療する事にしますね」


 治療に専念すれば、直接戦うよりは頼られる事も少なくなるはず?

 シュットラウルさんは悩むようにしていたけど、治療に関しては許可してくれた。

 まぁ、シュットラウルさんだって被害はできるだけ大きくしたくないんだからね。


「とはいえ、大きな被害はもう出そうにないがな。そろそろ、王都からの軍が到着する頃だ」

「え、王都からの軍ですか?」

「あぁ。ヘルサルへの道を解放した後、王都へも連絡をしていた。さすがに、何も報告しないわけにはいくまいよ」

「それは確かにそうですね」


 そうか……王都からの援軍がそろそろ到着する頃なのか。

 まぁ、完全に囲まれていた時ならともかく、ヘルサルとの行き来ができるようになれば報せも送るよね。

 そもそも、包囲された時点でヘルサルからも王都に報せが行っているかもしれないし。


「おそらくだが、二、三日中には到着するだろう。それまで耐えていられるか、街への侵入を許さずにいられるかは、難しいと読んでいたのだが……それもリク殿のおかげでなんとかなった」

「なら、大きな被害はあまりなく、直に終結するんですね」

「うむ。だからリク殿は、心おきなく休んでもらっていい。行方不明になっていた理由なども聞きたいが……それは落ち着いてからでもいいだろう。それに、リク殿が何も理由なくいなくなるわけもないからな」

「信頼されていますね……」

「これまでの国への貢献、ヘルサルを始めとした民達を助けた事。私が見たリク殿。信頼に足る人物なのは間違いないからな」


 いつの間にか、シュットラウルさんには凄く信頼されているみたいだ。

 さっきモニカさん達の事を褒められている時程ではないけど、正面から真っ直ぐ言われるとさすがに照れてしまうね。

 そうだね、俺もシュットラウルさんの事は信頼しているし、これだけセンテを守ろうと頑張っている人だから……落ち着いたら、破壊神の事も含めて話しておこう。

 ユノはなんとなく察していたようだけど、モニカさん達にも詳しく話さないといけないし。


「それじゃ、遠慮なく休ませてもら……あ、その前に」

「む?」

「いえ、連れてきたワイバーン以外にも、十体近くのワイバーンが待機しているんです。さすがに放っておくわけにはいかないので……ちょっと休んだら、そっちに行って来ます。……多少の食糧でも用意して行けばしばらくはおとなしくしてくれると思いますから」

「ふむそうか……十体程度、か。ならば、センテに連れて来ていても良かろう」

「いいんですか? でも、さすがに宿の庭にワイバーン全ては……」


 今はボスワイバーンとワイバーン一体だから、なんとかなっているけど……十体以上のワイバーンはさすがに入らない。

 多分、アマリーラさん達に貸した一体が戻ってくれば、それでいっぱいいっぱいってとこだろう。

 さすがに、そこらで自由にさせるわけにはいかないし……街全体が戦闘状態と言えるわけだし……連れて来ても居場所がない。


「そうだな……戦闘に参加させるのはまだ尚早か。リク殿に頼る考えに繋がりかねん。だとしたら……北側が良いだろう」

「北側ですか? 確か、武具工房などが多くある場所ですよね?」


 何度か、買いに来た事もある。


「あぁ。今はさすがに武具を生産しているような状況ではないが……北側は現在兵士達が集まる場となっている」

「兵士さん達が……」


 シュットラウルさんが言うには、包囲された直後は門がなく外壁に守られているため、魔物が侵入する可能性の低い場所として、住民の避難先になっていたらしい。

 けど、西側が解放されたおかげで非難する人はヘルサルへ、非難しなくても住民は西側へと移動したんだとか。

 そのため、現在は北側を兵士さん達が使っていると……。

 あと、元々北側には広場というか開いている土地が多くあるため、ワイバーンが行っても余裕があるだろうとの事だ。


 住民は不安になりながら過ごしているだろうから、ワイバーンを西側に向かわせて不安を煽る事はしたくないし、兵士さん達なら通達を送るだけで済むからという事でもあるらしい。

 東門でシュットラウルさんを連れ戻す際に、ワイバーンが魔物相手に戦っていたのを見た兵士さんも多いし、南門で俺が説明しているのを聞いた兵士さんもいる。

 冒険者は冒険者ギルド周辺に集まっているらしいけど。

 ワイバーンが敵じゃない事を知っている兵士さん達がいる場所の方が、通達を広めやすいしやりやすそうだ。


 それに、もし北の外壁から魔物に侵入されても、ワイバーン達がいれば守りの要みたいになってくれそうだね。

 シュットラウルさんからの頼みだから、積極的に戦いには参加しないように、人間は絶対に襲わないように言い含めておく必要があるけど、魔物が外壁を越えて侵入して来たら排除するように言っておこうかな。

 まぁ、これは俺の勝手な考えだし、多分侵入される事はないんだろうけど。

 なんたって、今は外壁の上から魔法を使い放題になっているからね。


「さすがに今すぐ、というのはエルサも俺も魔力が心許ないので……」


 いつの間にか、エルサは俺の頭にくっ付いたまま寝ている……疲れたのと、魔力が少ないからだろう。

 ワイバーンのいる所まで、無理をすれば飛んで行けるかもしれないけど、頑張ってくれたから無理はさせたくない。


「少し休んでから、ワイバーンの所に行って連れて戻ってきますよ」

「そうだな、頼んだ。リク殿は短時間で他の何者の追随を許さない程の活躍をしてくれた。ゆっくり休……」

「リク様! ワイバーンがリク様と一緒にいると! 是非、今後の研究のために……!」


 魔力に少し余裕ができるくらいは休ませてもらって、エルサに乗ってワイバーンの所に行けばいいかな。

 ……と話していたら、シュットラウルさんの言葉を遮って、何やら聞き覚えのある声と共に男性が入り口の扉を勢いよく開け放って、飛び込んできた。


「落ち着きなさいカイツ! リクは気にする方じゃないけど、侯爵様に失礼でしょうが!!」

「ぐあっ! フィ、フィリーナ……蹴らなくてもいいだろう。それと、少々重いのだが……」



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