第1154話 シュットラウルさんとの話



「はい。今の所、ちゃんと言う事を聞いてくれていますし、他の人間を見ても襲い掛かるような事はしていません。まぁ、誰かが攻撃したらわかりませんけど……多少は耐えるように言ってあります。あと、もし俺の指示とは違うところで、罪もない人間を襲った場合は斬る、とも。それが俺なりの責任の取り方です」


 不十分かもしれないし、襲われた人は納得してくれないかもしれないけど……味方に引き入れる以上、もしもが起こった時の事は考えておかないといけない。

 この短時間でも、なんとなくのんびりしていてエルサや俺に通じるような暢気さを感じる事もあって、多少情が移りつつはあるけど責任を取る覚悟は絶対だ。

 

「そうか……リク殿がそこまで覚悟しているのであれば、私からは何も言う事はないな。もちろん、ワイバーンが何か問題を起こせば、こちらでも対処させてもらうが……良いか?」

「もちろんです。俺から離れている時は、すぐに対処できないかもしれませんから。迷惑や手間をかけてしまいますが、その時はよろしくお願いします」

「うむ。多少の手間程度なら、ワイバーンを引き入れた利点でお釣りが大量に来るくらいだろうがな。とはいえ、今は宿の庭で寝ているのだろう? 先程の様子も見ていれば、早々悪い事は起こさないとは思うが……そうだな。――至急、センテにいる全兵士、そして冒険者達に通達しろ。事情の説明と共に、街中にいるワイバーン、人と一緒にいるワイバーンには攻撃を加えるなとな。こちらがつつかなければ、向こうは何もしないだろう」

「はい、畏まりました」


 執事さんに指示を出すシュットラウルさん、先程まで説教をされて落ち込んでいた様子とは全く違って、頼もしい。

 ワイバーンの方も、自分から人間を襲わないようにしていても、逆に人間から何かされたら反撃してしまうかもしれない。

 不可抗力であっても、そういった事は起こるものだ。

 シュットラウルさんの通達で、ワイバーン達と人間の衝突が少なくなってくれるなら、ありがたい。


「ワイバーンさえこちらにいれば、サマナースケルトンがいくら魔物を召喚しても、すぐこちらに向かう事はないだろう。南門の魔物は殲滅し、余裕も出ている。これで、他の魔物を減らして、勝利への道筋が見えてきた」

「あ、サマナースケルトンは、もうこの街周辺にいません。いないというより、全て倒しました」

「は? 南門の魔物を殲滅し、ワイバーンと戦い、そのうえサマナースケルトンをもか?」

「南門の魔物もそうなんですけど、サマナースケルトンは俺が直接やったわけじゃなくて……」


 そういえばと、サマナースケルトンの事を話し忘れていたので、今のうちに伝えておく。

 するとシュットラウルさん、ポカンと口を開いて呆気に取られている様子だ。

 サマナースケルトンに関しては、本当についでのようなものだったし、俺がやったわけじゃないけど……。


「精霊召喚……そんな事までできるのか、リク殿は」

「なんというか、ドラゴンの魔法のおかげ……ですかね」


 精霊……スピリットを召喚して、そのスピリット達がサマナースケルトンを倒した事を伝えると、さらに驚きを増したシュットラウルさん。

 召喚魔法とか、そういう区切りはなくイメージで魔法を使っているから、これもエルサとの契約のおかげなんだろう。

 まぁ、魔力量が多いのも使える理由の一つだろうけど。


「魔力を節約するために、俺の代わりに魔物達を殲滅してくれないかなぁと思って。俺がやると残り魔力の問題もありますけど、やり過ぎる事が多いみたいですし」

「みたいじゃなくて、そのままやり過ぎなのだわ。リクがやっていたら、地形が変わるか南側の外壁がすべてなくなっていてもおかしくなかったのだわ。ヘルサルの時の事を思い出すのだわ。あの時私が結界を使わなかったら、ヘルサル東は今頃一切の壁がなくなっていたのだわ」

「門だけでなく、外壁をもか……地形を変え、街を守る外壁がなくなるのは困るな……」

「……さすがに、そこまでの魔法は使わないよ」


 ヘルサルの時は後で本当にやり過ぎたと後悔したんだから、同じ事はやらない、多分。

 というより、魔力の残りもそうだけどあれと同じ魔法、今使える気がしないんだよね……なんとなく。

 イメージの問題なのかもしれないけど。

 あの時は、マックスさんが俺を庇ってくれて、頭に血が上っていたせいで使えたのかもしれない……イメージなのに、冷静じゃない時の方が使えるというのもおかしな話だけど、怒っている時は破壊的な事を考えたりする物だからと納得している。


「しかし精霊を召喚か……アマリーラ達が騒いだのではないか?」

「まぁ……ちょっと、いやかなり? 獣人の国に招待します! なんて言われましたけど」

「はっはっは! そうだろうな。あの国は獣王が治めるが、国の成り立ちに精霊を召喚する獣神が関わっていると言われているからな。精霊を召喚する人間が目の前に現れたら、攫ってでも連れて行こうとするだろう」

「さすがに、攫われるのはちょっと……」


 そこまで強行する必要があるのだろうか? エルフにとってのアルセイス様のように、獣神様を敬っているからなのかもしれない。

 アマリーラさんの勢いから、現人神(あらひとがみ)のように扱われそうで、ちょっと怖くもある。

 歓迎してくれると言ってくれていたのは嬉しいけど、祀られる気はない。


「ふむ、しかし……リク殿がいてくれれば、獣人の国の協力も取り付けられるかもしれんな……」

「獣人の国の協力ですか?」

「うむ。まぁ、センテ周りの事が片付いてからになるし、今論ずるべき事ではないのだが……帝国との戦争に備えてだな。獣人の国には、屈強な兵が多い……これはアマリーラ達を見ていてもわかる事だが」

「そうですね、人間よりも身体能力が優れている気がします」


 獣人は人間よりも俊敏だったり力が強かったり、というのはありがちだけど。


「ほぼ魔法が使えないが……どちらが優れているというのは、状況によりけりだ」

「まぁ、そうですね」


 人間だって、獣人並みに動ける人や戦える人もいる。

 魔法が使える人間の方が、状況的には優れている事だってあるだろう。

 個人差もあるし、どちらが優れているかというのは安易に考えるべきじゃないね。


「獣人自体は多いのだが、戦える者は多くないらしくてな。平均的で鍛えればそれなりに戦えるようになるから、数では人間の戦士や兵士は多い。逆に獣人は個人差が大きく、戦える者と戦えない者がはっきり分かれているのだよ」

「成る程……」


 誰もが訓練をすれば戦えるようになるわけじゃないけど、でも絶対数が多い。

 逆に獣人は突出した人がいる代わりに、訓練いかんにかかわらず戦えない人が多くて、兵士や戦士になれる人が少ないのか……。


「傭兵として、国外へ出しているのもあるが……国としては我らがアテトリア王国だけでなく、他国に対しても中立を保っている。まぁ、交流などをして友好的な関係は築いているがな。だが、他国がどこかと戦争をする、といった事には関らないようにしているのだ」



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