第1102話 リクの魔力VS破壊神の干渉力



「……俺も痛い目に合わされたし、おあいこじゃないかな?」


 人間である俺がお互いさまと言ったところで、破壊が目的や存在意義なのかもしれない破壊神に対しては、意味のない問答なんだろうけど。

 それはともかく、どうするべきか……魔力が万全でも難しいと思えるのに、今は魔力量もかなり減っている。

 小さい魔力弾は、凝縮させる手間がかかる代わりに、結界より必要魔力が少ないんだけど……向こうからの攻撃を防ぐ必要もあると考えれば、あまり長く戦闘ができるとは思えない。

 ただ、破壊神の方も空間を維持するのに干渉力を使っているみたいだし、攻撃も同様……と考えれば、あまり干渉力が残っているわけじゃないはず。


「何度目かの、一か八か……かな? 分の悪い賭けじゃないと思うけど」

「何を考えているかは知らないけど、リクに私をどうにかする事はできないわよ!」

「……それは確かに正しいんだろうけどね」


 でも、どうにかしなきゃいけない……少なくとも、できるだけ早くこの空間から抜け出して、センテの状況や場合によっては皆に加勢をしたいところだ。

 だけど現状で破壊神は倒せそうにない……となると、賭けになるけど方法は一つだけ。


「君の干渉力と、俺の魔力……どちらが先に尽きるか、試してみようか」

「正気!? 魔力が枯渇したら自滅するのよ?」

「さすがにそこまでは魔力を使う気はないけどね」


 魔力が完全になくなれば、俺の命が危ないし、それまでに意識を失う可能性だってある。

 そうなる前に止めるつもりではあるけど、破壊神に干渉力を使わせれば使わせる程、この空間から抜け出すのが早くなるはず。

 倒せない以上、できるだけ早く脱出するにはこの方法しか今は思いつかない。

 説得も効かないだろうからね……。


「よし!……はっ! せいっ! これもっ!」

「ちょっ! まっ! 痛っ!」


 覚悟を決めて、魔力を体内で凝縮して魔力弾を生成……連続で破壊神に向けて放つ。

 当たればおそらく干渉力が減ると思われるし、避けられて反撃が来ればそれでも干渉力が減るはず。

 ついでに、魔力節約のために別の行動もしておかないと……。


「せやぁ!」

「ちょ、ちょっと! 今度は自棄にでもなったの!? さすがにそれは無駄よ!」


 魔力はできるだけ魔力弾や結界に使いたいので、持っていたボロボロの剣を振りかぶって、破壊神に肉薄。

 渾身の力を込めて振り下ろす……けど、それは簡単に受け止められたうえ、剣が折れてしまう。


「だろうね……けど、ここからなら確実に当たるよね? っ!」


 壊れかけの剣なんて、ほぼ使い捨ての気持ちだ。

 狙いは、近付いて近距離での魔力弾……手を伸ばせば触れられる距離なら、外す事はない!


「きゃあ! っっったーーい!!」

「おっと、多重曲面結界!」


 見た目が女の子なのでやりたくはなかったけど、そんな甘い事を言っていられる相手じゃない。

 折れた剣を手放して、両手の指先から二つの魔力弾を破壊神のお腹に向けて放つ。

 至近距離から直撃した魔力弾に、破壊神は弾かれて後ろに下がりながらも、目に涙を浮かべて反撃のため手をこちらに向けて衝撃を放つ。

 予想していた……というよりも、いつ来ても対処できるよう既にイメージは済ませてある、多重曲面結界を展開。


 距離が近いので、ちょっと多めに結界が壊れたけど何とか防ぐ事ができた。

 魔力弾は、魔力を凝縮させて固めて放つだけの単純な攻撃……つまり魔法ですらないので、魔法イメージをする必要がほぼない。

 そのため、魔力弾を使いながらも結界などのイメージをして、攻撃に備える事ができる。

 実質的には、攻撃と防御を同時にできるようなものだね……魔力弾、便利だなぁ。


「さぁ、どちらが先に根を上げるか……っ!」

「これだけ痛くされて、おめおめと引き下がるわけにはいかないわ! 破壊神として……も!」


 そうして始まる、怪獣大決戦……ではなく、俺と破壊神の根比べ。

 魔力弾を連発する俺に対し、反撃で衝撃を放つ破壊神、多重曲面結界でそれを防ぎつつ、魔力を節約するために肉弾戦に挑んだりと工夫もする。

 魔力か干渉力か、どちらが切れるのが先か。

 少しでも早く、ちょっとでも干渉力を使わせて、さっさとこの空間を解除させないとね……!


 ……閃光を使わせないようにしたのは、ちょっと失敗だったかもしれないけど。

 あれなら、結界を張らなくても避ける事だってできたし、今ならさっきのように連発はしないだろうから――。



「はぁ……はぁ……はぁ……!」

「どんだけなのよ……まったく。破壊神をここまで追い詰めるなんて……」

「はぁ……追い詰めるって事は、俺にやられそうなんだ?」

「寝言は寝てから言いなさい。私がやられるわけないわよ」


 そりゃそうだよね。

 干渉力消費作戦を開始してからしばらく……多分二十分経ったかどうかくらいだけど、動き続けて息を切らす俺に対し、破壊神の息は乱れていない。

 疲れを感じないのか? という疑問も沸いて来るけど、衝撃の威力や動きの鋭さがあからさまに落ちてきているので、干渉力が少ないのは間違いない。


「でも、そろそろ限界が近いんじゃないのかな? ふぅ……空間のあちこちにほころびが出始めているよ?」

「……気のせいよ」


 余裕があるように見せかけながら、周囲を見渡す俺と視線を合わせようとしない破壊神……絶対気のせいなんかじゃない。

 実際にはともかく、無限に広がっているようにも見えていた空間は、今ではあちこちから外というか、元いた洞窟の岩肌が見えている。

 さすがに、俺が通れる程の大きさじゃないけど、それでも干渉力が残り少ない証拠だ。

 ただ俺の魔力も、そこが見え始めている……。


「はぁ……やめよやめ!」

「え?」


 急にどうしたのか、破壊神が溜め息を吐いたと思ったら、首を振りながら手を振ってやめる宣言。

 思わず、間抜けな声を漏らしてしまった。


「こんなところで、これだけの干渉力を使わされるとはね。正直、リクの事を見くびっていたわ。あの駄ドラゴンを脱出させたのもそうだけど、私の言葉に絶望せず、全力ではないけど攻撃をも防いで見せた。これ以上やる意味はないわね」

「……」

「そんなに警戒しないでよ。私の目的は、全てではなくても時間稼ぎという部分をある程度達成したわ。でも、ここで干渉力を使い果たすのは得策じゃないって考えただけよ」


 俺を見直したって事なんだろうけど、本気でそう考えているのか……訝しがるのが表情に出ていたんだろう、破壊神は手を振りながら俺から距離を取った。

 攻撃してこないって事は、本当にそうなの、かな?


「それじゃ、この空間から出してくれるって事でいいのかな?」

「そういう事ね。とは言っても、それなりに時間稼ぎはできたし、外はどれくらいの時間が経っているのかしらね?」

「皆が頑張っているはず……それに、エルサも向かったからきっと大丈夫」

「そう。まぁ、そう信じるならそれでいいわ。今のリクが出ても、すぐになんとかできる力があるとは思えないけど……」


 それは確かにそうだ。

 魔力の底が見えている現状、俺が外に出て加勢しても大して役に立たない可能性が高いからね。

 そこらの魔物に負けるつもりはないけど、ろくに魔法も使えない状態で、形勢逆転させる力は確かにない――。



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