第1067話 とある魔物の発見情報



「何があるのかはわからないのだわ。けど、必ず何かがあるのだわ。だから私も、監視者としてこうして協力しているのだわ」

「そういえば、そんな役割だったっけ」


 俺が頼んだ時以外、基本的に寝ていたり暢気にしているエルサだけど、そういえばドラゴン自体が世界を見守る監視者の役目があったっけか。

 監視者というか、見守るだけみたいなものらしいし、わりと好き勝手に動いているみたいだけど。

 そもそも、ドラゴンを創って見守らせていたユノ……というか創造神様が、俺達と一緒に行動して同じ物を見ているんだけどね。


「私も忘れがちだけど、そうなのだわ」

「忘れがちなんだ。まぁ、ユノが近くにいるから、あんまり意味ない役割なのかもしれないけど……」


 でもそういえば、センテに来てからお腹が減ったとかキューを要求したりだとかは、減っていたような気がする。

 エルサなりに、真剣に取り組んでいるからなのかもね……食事となると、変わらずユノと競うようにしながら、大量に食べるんだけど。

 そんな風にエルサと話しながら、センテ周辺をしばらく見回ってみたけど結局何も見つからず、言いようのない不安感のようなものを感じながら、調査を切り上げた。

 さすがに、辺りが真っ暗になると飛んでいるワイバーンを遠目に発見とかはできないからね……探知魔法も、高速飛行中だと役にたたないし……魔力反応が返ってくるよりも、移動の方が速いから――。



 宿に戻ると、いつもとは違う緊張感のようなものが漂っていた。

 夕食時だとおもっていたし、いつもなら和やかな雰囲気なんだけど……迎えてくれた執事さん達の表情は硬い。

 何かあったのかと聞く前に、執事さんから食堂に集まるように言われてそちらへ向かう。


 荷物とかは、他の使用人さん達に部屋へと運んでもらった。

 雰囲気的に、夕食の準備ができているから……というわけじゃなさそうだ。


「……リクさん、戻ったのね」

「リク殿……」

「モニカさん、皆、ただいま。……シュットラウルさん、何かあったんですか?」

「うむ……」


 食堂に入ると、執事さん達と同じく表情を硬くしたモニカさん達や、シュットラウルさんに迎えられる……ソフィーフィネさん、フィリーナやカイツさんもいて、それぞれ同じように表情は硬い。

 唯一、ユノだけはいつもと変わらない様子だけど。

 シュットラウルさんは、奥で両肘をテーブルに付け、手を組んで顎を乗せて険しい表情をさせていて、威厳がある……さすが侯爵様。

 俺もテーブルにつきながら、物々しい雰囲気に何かあったのかと尋ねると、重々しく頷くシュットラウルさん……モニカさん達も同じく頷いていた。


「一体何が……皆がこんな雰囲気になるなんて、よっぽどの事だと思いますけど……」

「リク殿、まずはお願いが。これは冒険者ギルド、そしてこの地を預かる領主としてのお願いでもある。もちろん、報酬や褒賞は出すが……この話はあまりリク殿には響かないか」

「いえ……まぁ、この先必要になるかもしれないので、もらえるなら貰いますけど……でも、俺にお願いって?」


 今のところお金には困っていないので、報酬や褒賞と言われても、あまり心は動かないんだけど……そんな俺の様子を見たのか、シュットラウルさんはすぐに話を切る。

 クランの事を考えると必要ないとまでは言えないので、くれるというのなら貰うけど、とりあえず今はその事よりも何が起こっているのかだ。


「センテを、守って欲しいのだ。リク殿の協力なくして、センテの存続が危ういと私は考えている」

「センテが……?」

「リクさん。リクさんは見た事も倒した事もあるけど……サマナースケルトンが発見されたの。それも複数」

「え!?」


 重々しい雰囲気で話すシュットラウルさんからは、センテの守りを頼まれる。

 どうしてセンテをとか、俺がいなくても今でも十分……なんて思って首を傾げる俺に、モニカさんが教えてくれた。

 サマナースケルトンと言えば、エルフの集落……村で大量の魔物を召喚していた魔物だ。

 召喚する魔物は選べないらしいし、一体が短期間で大量に召喚する事はできないらしいけど、それでも複数という事は……頭に思い浮かぶのは、エルフの村での魔物襲撃戦だ。


「エルフの集落……陛下が認めたのだから、今は村か。そちらでの事は聞いている。フィリーナ殿からもな。その時と同じ状況を想定して、リク殿への頼みだ。まぁ、必ずしもそうなるとは限らないのだが……」

「……そう、ですね。サマナースケルトンがいるのなら、放っておけばエルフの村と同じ事になるかもしれません」


 サマナースケルトン自体は、そこまで脅威じゃない。

 単体なら召喚した魔物を連れている事はあるけど、強力過ぎる魔物が呼び出される事はほぼないらしく、落ち着いて対処すれば他の冒険者さん達でどうにでもなるはず。

 ただ、複数確認されたという事は、他にもまだまだいる可能性が高いという事でもある。

 もし放っておけば、センテ付近に魔物が大量に召喚され、エルフの村の時のように襲われてしまうかもしれない。


「……わかりました。できる限りの協力をしたいと思います」


 モニカさんやソフィー達に視線を送り、それぞれ協力する気がある事を確認して、シュットラウルさんに頷く。

 センテがもし壊滅させられたら、次は近くのヘルサルに大きな被害が出るだろうし、ここまで調査とか魔物の討伐に協力しているのだから、今更知らんぷりして王都に戻るなんて事はできないからね。


「助かる。はぁ……これでセンテは無事な事が決定したな」

「いや……まだどうなるかわからないので、決まったわけじゃないと思いますけど……」

「もちろん、状況はこれから次第と言ったところだろう。だが、五百名からなる統率された軍隊を相手に、一人で勝利したリク殿だからな……これまでの事と含めて考えると、多くの魔物が召喚されても、なんとかなる気になるものだ」

「サマナースケルトンが召喚する魔物なら、ほとんどが私達も相手にできる魔物よ。今回はリクさんだけに任せはしないし、ルジナウム程とも思えないわ」

「まぁ、そうなんだけど……」


 シュットラウルさんが安堵の溜め息を吐き、大袈裟な事を言っていたと思いきや、そうでもなかったらしくモニカさんもそれに同意するように話している。

 確かに、キマイラやキュクロプス、マンティコラースなんかの協力で一人一体なんて通常は相手にできない魔物が大量に押し寄せて来ていたルジナウムと比べたら、サマナースケルトンが呼び出す魔物が多くても脅威には感じないかもしれない。

 とは言っても、さすがに油断はしないし、強力な魔物が絶対に出て来ないとは限らないけどね。

 あと、再生ワイバーンもいると考えたら、楽に終わるとも思えないし……。


「でも、サマナースケルトンがいるって事は、もしかして南側の魔物が増えている現象は……?」

「召喚された魔物である可能性が高いな。だが、まだはっきりと決まったわけじゃない。他の要因があるのかも考えて調査をするつもりだ」



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