第1065話 核と再生能力の関係



 フィリーナに、魔物の核とその再生能力や復元について説明を受ける。

 何らかの条件で核の再生能力が失われ、また核に再生能力が復活するみたいではあるけど、詳細はわかっていないらしい……少なくとも、生き物として活動できる状態であれば、核はその再生機能を使えないのだとか。

 魔物の研究は進んでいないから、この辺りの事はよくわかっていないらしい。

 核に魔力を注げば復元可能というのも、エクスブロジオンオーガの事があってから、初めてわかった事みたいだから……少なくとも、アテトリア王国と国内のエルフはね。


「つまりね、核の備わっている再生能力を、生きた状態でも使えるようにしているんじゃないか……って事よ」

「……それだと、どの魔物も同じように再生能力を付与できるって事に?」


 核からの復元能力は、魔物の核そのものに備わっている。

 つまり、核が存在する魔物はワイバーンのように、斬り取られた部分を再生するくらいの強力な能力を得る事ができる。


「この考えが正しければ、だけどね。でも、それを示す証拠みたいなのもあるのよ。リクに言われて繋がったのだけど」

「証拠って?」

「このクォンツァイタ、そして中にある核よ」

「えーっと……?」


 フィリーナが示した証拠は、テーブルに置かれているクォンツァイタ。

 透明で色がなく、魔力を蓄積していない状態のそれと、内部にある核が……?


「私の目で見たからわかった事なんだろうけど……核がもう完全に機能していないのよ。魔力を吸収していない……つまりどうやっても復元する事はできないわ。再生能力を無理矢理引き出す事で、その魔物がやられたら核そのものが駄目になるって事だと思うわ」

「核を使って何度も復元するか、それとも一度だけでも強力な能力を付与するか……って事だね」


 核が残ってさえいれば何度でも復元できるのに、それを捨てて強力な再生能力を付与させる、か。

 倒されなければ再生できるのなら、強みになるとは思うけど……。

 ちなみに、核は魔物が生きている時は通常機能しておらず、人間で言う心臓のような器官などは別にある。


「でも、魔物と戦うが側からしたら、再生能力があった方が楽かなぁ」

「そうなの? 魔力次第だけど、生きてさえいれば体内の魔力で補えるだろうから、すぐに再生されるのは厄介な気がするわよ?」

「でも、代わりに魔法が使えない。魔力量は魔物次第だろうけど、再生する時には動きを止めてそちらに集中するようだから。戦い方がわかればなんとでもなりそうかなって」


 魔法を使えない魔物もいるけど、魔法を使われたら厄介な魔物もいる。

 ワイバーンで言うと火を吐く事だけど……火なんて触れても触れなくても危険だからね。

 それがないというだけでも戦いやすくなるし、怪我を負わせられれば動きを止めるのであれば、なんとか斬りつければ、再生するまでの間にこちらはやりたい放題だ。

 まぁ、単純にそれだけじゃないとは思うけどね。


「確かにそうね……しかも、一度倒してしまえば核が回収されても、復元される事はない……」

「集団で来られたり、魔物側もやり方次第だとは思うけど、魔法が使われないだけでもね」


 強力な魔法を放つ魔物もいるからね。


「あ、そうだ。集団って言って思ったんだけど……ワイバーンが誰かに指示されて動いているかもしれないって考えてたんだ」


 指示されず、本能のままに動いていたら空を飛んでいても、どこかで目撃されているだろう。

 人のいなさそうな場所の上空を飛ぶ事で、発見されないようにしていた節がある。

 それに、魔物の死骸を置いているのもワイバーンだとしたら、誰かが指示をしなければそんな事やらないからね。



「そちらについては私が」

「カイツさん」


 今まで黙っていたカイツさんが、俺の言葉に反応して手を挙げる。

 フィリーナが話している間に落ち着いたんだろう、先程までの要領を得ない興奮状態ではなくなっている様子。

 これなら、落ち着いて話が聞けそうだ。


「まず、魔物に何者かが命令する事が可能なのかですが……おそらく可能です。魔物は基本的に本能で動きますが、知能はあるのです。魔物にもよりますが、ワイバーンともなると命令を理解、実行する事はできるでしょう。とは言っても、細かすぎる命令を理解するかまではわかりませんが」

「知能はある……という事は、ブハギムノングのエクスブロジオンオーガみたいに、能力以外にも何かが組み込まれていたって事ですか?」


 エクスブロジオンオーガは確か、あまり多くないけど一部の人間を襲わないように、という内容をインプットされていたはずだ。

 どうやってかはわからないし、どこまで、そしてどうやって判断しているのかもわからないけど……実際にブハギムノングやツヴァイの地下研究所で復元された魔物は、俺達にしか向かって来なかった。


「フィリーナから、その話は聞いています。私は見ていませんが……おそらくそれを発展させたのだろうと。何者かを魔物の標的から外すのではなく、指定者を命令者として、もしくは仲間として認識させたのではないかと考えています」

「指定者……この場合は命令した誰かですね。仲間として認識かぁ……」

「復元する際に魔力を注いだ者、再生能力と一緒に認識に割り込んでいるのだろうと。核やクォンツァイタではなく、ワイバーンに残っていた魔力の残滓から、異常が発見されています。この異常が、認識を変えていたようです」

「魔力そのものに干渉してって事ですか……そうやって認識を変えて、命令を聞かせられるようにした、と」


 カイツさんの話で細かい事はともかく、なんとなくどうやって魔物が指示を聞いて動いているのかを、納得する。

 確か……アルセイス様と話した時、帝国側のエルフは魔力の研究をしていると聞いた。

 魔力に何かしらの作用をさせるように、仕組みを組み込む研究をしていてもおかしくないか……。


「つまり、誰か命令者がいる事は確実ね。そして魔力に対してだけでなく、核への処置……」

「……やっぱり、帝国の組織が関わっているんだろうね。予想した通りではあるけど、これで確定かな」

「そうね」

「……帝国?」

「そういえば、カイツには話していなかったわね。ワイバーンの事だけじゃなく……」


 ここまでの情報が揃えば、さすがに疑っていた事が確定と言えるだろう。

 今更、似たような事ができる別の何かが出て来るなんて事はないからね。

 フィリーナと視線を合わせ、頷き合う俺達にカイツさんが首を傾げる。

 エヴァルトさんには話していたけど、研究に没頭していたり、すぐにエルフの村を出たカイツさんが知らあないのも無理はないか。


 フィリーナがカイツさんに、これまでの事や帝国の事などを説明。

 頷くカイツさん……ワイバーンの事を調べて欲しくて、事情説明もそこそこに連れてきたからね……。


「そんな事があったのか、成る程な」

「カイツがいてくれて良かったわ。ワイバーンの調査、私だけだったらもっと時間がかかっていたわ」

「私も、中々興味深い調査をさせてもらったからな」


 フィリーナはクォンツァイタの魔法具化をする作業もあるので、一人だったらもっと大変だっただろう。

 カイツさんが尋常じゃない方向音痴を発揮して、偶然センテにいたわけだけど……ある意味結果オーライって事かもしれないね――。



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