第1000話 目的の場所に到着も何も見当たらず



 探知魔法で調べられる範囲で、はっきりわかる距離とぼんやりとしてなんとなくしかわからない距離などを、アマリーラさん達に説明する。

 実際には、もう少し範囲は狭いからここくらい見晴らしのいい場所だったら、探知魔法に頼らないでも周囲の状況はよくわかるんだけどね。


「魔力を広げて反応を探る……一体、どのような感覚なのでしょうか?」

「んーと、はっきりわかる範囲内だと、魔力の質や量から人なのか魔物なのか、それとも自然物なのかはわかります。なんというか、俺が広げた魔力が振動する感じ……ですかね?」


 自分で言ってても、感覚的な部分が多くてうまく説明できない。

 ソナーに例えようとしたけど、アマリーラさん達には伝わらないだろうから止めた。

 音波を魔力に置き換えると、わかりやすい気がするんだけどなぁ。


「……よくわかりません。ですが、自然の魔力は人や物がいない場所でも、空気中に漂っているはずです。それらは邪魔にならないのでしょうか?」

「うーん、なんて言ったらいいのか……自然の魔力や空気は、魔力を広げる中で障害にならないんですよ。反応として返ってくるのは、誰か、何か、が持つ魔力だけなので」


 空気はともかく、自然の魔力は水のようなイメージで俺は考えている。

 その空気や水の中を薄く広げた自分の魔力が、誰かの魔力反応を捉えて……みたいな感覚だから、ソナーに近いと思っているんだよね。

 多分、自然の魔力は量はともかく基本的に濃い密度で漂っていて、誰かが持つ魔力は一定の質を備えて、持つ者の中で常に消費されて生産されている……と思う、多分。

 自分でも、どういう事なのか結構わかっていないんだなぁ……まぁ、問題なく使えるんだし、探知魔法は便利だからいいんだけど。


「……やはりよく、わかりません。ですが、リク様は私達獣人だけでなく、人間やエルフにも理解の及ばぬ考えや力を有している、と納得しました」

「よくわかりませんが、凄い人です~」

「一応、俺も人間なんですけどね……」


 なんだか、アマリーラさんの言い方だと俺がそれらの種族から外れている、と言われているようでちょっと微妙だった。

 ドラゴンの魔法はともかくとして、魔力量に関して最近は俺も本当に自分が人間の範疇なのか、疑問に思う事が結構あるんだけどね。

 でも、ちゃんと食べなければお腹が減るし、夜には眠くなる……うん、ちゃんと人間だ……多分。

 自分でも自信を持てない事の表れなのか、二人に苦笑しながら探知魔法に反応があった目的の場所へと急いだ――。



「うーん、反応があったのはこの辺りのはずですけど……」

「何も、いませんね」

「向こうに村の建物は見えますけど~。それよりリク様、結界ってすごいですね~。見えないのに本当に壁があります~」


 東側の結界の隙間、農地の出入り口に到着して周囲を見渡す。

 付近には特に目立った物はなく、探知魔法にひっかかりそうな木すらなかった……一応、兵士さんが数人いるけど、それくらいだ。

 リネルトさんが言っているように、建設中の村が遠目に見えるけど、あそこまでは探知魔法を広げていないはずだし、見える範囲に何かあるはずなんだけどなぁ。

 もしかして、兵士さんと間違えた? いやいや、数人いる兵士さんと違って、俺が気になった反応は一つだけだったはず。


「うーん……とりあえず、もう一度探知魔法を使って調べてみます。これだけ近くなればすぐにわかるはずですから」

「わかりました。私達は、付近の兵士から話を聞いてみます」

「私は~もうちょっと結界を触っています~。こう、ツルッとした感触が癖になりますね~」

「リネルト、お前もこっちだ! リク様の結界に変な事をするんじゃない!」

「あ~れ~……」

「はははは……まぁ、触った程度で結界がどうこうはならないけど……よろしくお願いします」


 目で見て確かめればわかると思っていたので、到着するまで使わなかったけど……ともあれここで探知魔法を使えば、俺の勘違いかどうかも含めてはっきりわかるだろう。

 アマリーラさんは、結界に頬ずりを始めてリネルトさんの襟首を引っ張って、兵士さん達の方へ連れて行った。

 小柄なアマリーラさんが、大柄なリネルトさんを引きずっている姿はちょっと面白い。


 ただ、リネルトさんの服が破れないか心配だけど……まぁ向こうは任せよう。

 笑って二人を見送りながら、兵士さん達から情報収集は任せて、俺は探知魔法に集中だ。

 範囲が劇的に広がったせいで、以前より集中しないと近場でも他の反応に紛れてわからなくなる事もあるから……多少は慣れてきたけどね。


「えーと……ん? これは……」


 探知魔法を使って、付近を調べると妙な事に気付いた。

 目に見える範囲では、アマリーラさん達や兵士さん達くらいしか見えないのに、その他にも別の反応がある。

 というか、兵士さん達よりも魔力反応が強い……植物なんかは、もっと魔力量の少ない反応になるはず。

 そもそも、雑草くらいは生えているけど、遠くからでも反応がわかるそれなりの魔力を備えているような、大きな木とかも見渡す限り見えない。


 質の方でも明らかに魔物と思われる反応だろうし……どういう事だろう? 

 うーん……反応の位置は、あっちか。

 東の村があるはずの方向で、そちらには兵士さん達も含めて人はいない……村の方まで調べたら人くらい入るだろうけど。

 方向はともかく、高さというか位置が低いような? でも、地面にはまばらに雑草が生えているくらいで何者かが隠れられるような物はない。


「隠れる……隠れる……もしかして?」


 ふと思い当たる事があったので、魔力の反応がある場所に意識を集中させながら、目を凝らす。

 確かに魔力の反応はあるけど、人より魔力量のある何かはそこにないように見える……いや違う。

 よく見ると、草の葉に似た緑色だけど明らかに風で揺れているわけではない、ゆらゆらとしている細い何かがあった……そもそも風は今、ほとんど吹いていないし草花すらほとんど動いていない。

 ……そういう事か。


「リク様、兵士達に話を聞いたのですが、異常は見当たらないようです」

「私もそう言われました~。見渡しても特に何もありませんよ~?」


 俺がとある発見をしたあたりで、兵士さん達に話を聞いていたアマリーラさん達が戻ってきた。

 二人共、特に有益な情報は得られなかったようだ。

 それもそのはず、よっぽど注意深く……いや、そこ何かがあるはずと疑って見ていなければ、ほぼわからないのだから。


「アマリーラさん、リネルトさん、大まかに見渡すだけじゃわからないだけのようです」

「どういう事ですか?」

「あっちに何か、あるんですか~? ん~?」


 俺が一点を注視している様子に、首を傾げるアマリーラさん。

 リネルトさんは、俺の視線を追って同じ場所を見るけど、何も見つけられないようだ。


「よーく見ると、怪しい物があるんですけど……まぁ、離れていたらわからなくても仕方ないですね」


 保護色と言うのだろうか? 周囲の雑草などと同じ緑色で、しかも細いので草と見間違えるのも仕方ない。

 というか、ほとんど周辺の草と変わらない見た目だからね……不自然な揺れも、疑ってかからないと気付かないだろうし――。



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