第962話 ワイバーン素材は最高級の分類



「ワイバーンの革も、その一つですね」

「あれは本当に特殊な物の一つね。そもそも、ワイバーンを仕留められる冒険者自体が少ないから……丈夫だし、効果も大きいうえに量が少ない……値段が跳ね上がるのよねぇ。リクちゃん、またワイバーン倒してきてくれないかしら?」

「ははは……ワイバーンを倒す依頼があったり、余裕があればですね」


 ワイバーンの素材に関しては、王城に突撃してきたのを倒して吹き飛ばしたのと、大量に飛ばした先を知っていたからで、タイミングというか運というか、色々重なった結果だからね。

 今のところ、他でワイバーンを討伐するような依頼は見ていないし、どこにいるのかもわからない。

 そもそも、あの時はアテトリア王国中どころかそれ以外の国からも集まったくらいの、ワイバーンが集結していたから……。


「とは言っても、そのワイバーンの素材も全部加工が終わったわけじゃないんだけどね。丈夫な分、加工にも手間がかかるのよね」

「そうなんですか?」


 市場に流す冒険者ギルドではなく、王城の方に渡したワイバーンの素材もなのかな?

 新兵さん達には、ワイバーンの鎧としてそれなりに行き渡っていたようだったけど。


「なんでも、国からの加工依頼が大量に来て、そちらにかかりっきりだったらしいわ。当然よね、自分達で市場から買い取った素材の加工より、国からの依頼は優先されるのは。ただおかげで、ワイバーンの素材を扱う経験が得られて、取り扱える人が増えたって聞いたわね」

「あぁ、そういえば、ララさんって元鍛冶職人さんでしたっけ。だから、そういった情報も入って来るんですね」

「こっちが聞いていないのに、ルドルが勝手に話すのよ。まぁ、私も加工をするのを手伝ったからってのもあるかしら。ワイバーンの素材を加工するのに、職人の手腕が問われる部分もあるし……国からの依頼品なんて、手を抜けるわけがないからね」


 新兵さんが着ていたワイバーンの鎧は、ララさんを含め町の鍛冶職人さん達が頑張って作った物だったらしい。

 そりゃそうか……王城内で素材加工から鎧を作る鍛冶の工程、全てを担って大量に作るのは難しいだろうし……そもそも、王城内にそういう場所があるわけじゃない。

 まぁ、微調整くらいはできる職人さんはいるようだけど。


「そういえば、ワイバーンの皮ってどうやって使っているんでしょう? 袋や鞄と違って、鉄の鎧に張り付けているわけでもありませんし……」


 どうせだからと、ワイバーンの革の使い方も聞いてみる。

 鞄とかみたいに、皮や革を縫って使うのではなく金属と合わせて使うのがどうなのか、わからなかったから。

 新兵さんの鎧や、俺自身が着た事があるからわかるけど、鉄の表面に張り付けてある……とか簡単な事じゃないのは間違いない。

 ワイバーンの革が、そのまま金属になるわけじゃないし……なのに完成品の触り心地とかは完全に、金属と同じような物だからね。


「あら、見た事があるの? って、そういえばリクちゃんは、パレードの時にワイバーンの鎧を着ていたんだっわね。そうねぇ……金属の物とワイバーンの革を合わせるのは……」


 ララさんが教えてくれた内容によると、ワイバーンのような特殊な素材は、魔力が帯びている事もあって金属を加工する際に一緒に溶かして使うらしい。

 その場合は、一枚皮のように大きな面積がとかは気にしないでいいとか。

 そうして溶かして混ぜた金属は、ワイバーンの皮の性質と魔力を含み、強度が跳ね上がるとか……そこまでの加工は、鍛冶師なら誰でもできるらしい。

 ただし、その後の加工……鎧にしたり剣にしたり、といった成形になるとその頑強さが問題になって、一部の職人にしか加工できなくなるとの事。


 だから、ベテランで腕のいいらしいララさんにも、加工する際に手伝わされたって言っていた。

 火にも強いから、金属が溶ける程の高温なら混ぜ合わされても、その後はさらに硬く強くなるから、すごく手間暇がかかってしまうらしい。


「そんな素材なら、また多くを持ってきたとしても、すぐは加工できないんじゃ……?」

「国からの依頼をこなして、扱える職人が増えたのよ。だから、多少はなんとかなるわ。まぁ、どうしても一日や二日で大量にとはいかないのだけどね」

「それはまぁ、仕方ないですよね。……そうなんだ、扱える人が増えたから多く持って帰っても、なんとかなる、と」

「期待してるわよ?」

「ははは、ワイバーンがいればですけどね。それに、前回大量に倒したので……そんなに数が残っているかわかりませんから」


 どれくらいの数がいるのかわからないし、そもそも前回集まって来たのが周辺にいるワイバーンの全てかもしれない。

 ララさんは、期待しているような目を向けているけど、またワイバーンを討伐して素材を持ち帰れるかどうか、保証はできないからね。

 でも、戦争の事を考えれば、次善の一手で攻撃側の改善がされているから、防御側もなんとかしたいと思うのは、贅沢なんだろうか……?

 せめて、ワイバーンの鎧とまでは言わなくとも、通常の金属鎧よりもいい素材とかがあればいいんだけど……。


「ワイバーン以外には、鎧に使えそうな素材ってありますか?」

「そうねぇ……革の鎧にというのなら、蛇革とかがいいわね。ただし、大きめの一枚皮にしないといけないから、金額も希少性も上がるのだけど……結局、ワイバーン素材と同等になりかねないわね。金属の鎧となれば……リザードマンやグリーンタートルがいいかしら?」

「リザードマンは高値で取引されるってさっき聞きましたけど、グリーンタートルもですか?」

「グリーンタートルは、ワイバーンと同じように甲羅を金属と混ぜ合わせれば、硬さだけならワイバーン並みよ? まぁ、火に強いとかの特性はないけど、硬さはお墨付きね」

「まぁ、確かに甲羅そのものが硬いですけど……」


 魔力を帯びていたりという事はなかったはずだけど、硬さだけならグリーンタートルの甲羅はかなり硬い。

 ……ユノが斬ったり、俺が割ったりしていたけど。


「リザードマンは、ワイバーンの劣化版と言える特性ね。手に入れやすさや値段を考えれば、ワイバーンの素材を使うよりは作りやすいわ。劣化版というだけあって、硬さも魔法とかへの耐久性も劣るのだけど……それでも十分な防具となるわ。冒険者からすれば、BランクやAランクが目指すべき物ね」

「そうなんですか……」

「ワイバーンは高くて手に入りづらいし、そもそも数が少ないの。だから運良く手に入るとかでなければ、目指す人は少ないわ。欲しいと思う人なら数多くいるだろうけど……お金を積んでも簡単には入手できないのよね。だから、Aランク以上になったら一度はワイバーン討伐で素材入手を目指す……とも言われているわ。まぁ、そのワイバーンを見つけるのも一苦労なんだけど」


 だから、手に入りやすいリザードマンで我慢というか、妥協するわけか。

 それでも、リザードマンの皮を使って作った鎧などは、十分過ぎるくらいの性能を発揮してくれるから、無理してワイバーンをと思わなくなるんだろう――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る