第913話 怒れるモニカさん



「まぁ色々事情はわかったわ。通常ではあり得ない魔力量を持っていて、強力な魔法を使い、以前は帝国の組織にいたって事。そして、今回の街での騒動の原因というか仕掛けた本人で、捕まえたはいいけど、街側で安全に捕まえておく事が難しいから、リクさんが王都へ連れて行く事になったってわけね」

「随分説明口調だけど……そうだね」


 モニカさんがクラウリアさんの事をまとめて、説明と共に理解を示す。

 ただ、その雰囲気は何かを我慢するというか、爆発する寸前みたいな、危うい雰囲気が……。


「でも、でもね……」

「モ、モニカさん?」

「……何この人。プルプル震えていますよ?」

「っ! どうして! どうしてさっきから、リクさんにまとわりつこうとしているのかしら!?」

「……う、うぅむ……」


 何かに耐えるように、両手で拳を作ってテーブルに置き、俯いてプルプル震えるモニカさん。

 そんな中、クラウリアさんが震えているのをキョトンとして、俺に報告と疑問を投げかけた瞬間、爆発した。

 モニカさんが、両手の拳をテーブルに打ち付け、ドンッ! という音と共に立ち上がって叫ぶ!

 獅子亭のテーブルは、荒い客が来る事もあって丈夫な物なので壊れなくて良かったけど、一瞬だけ大きくゆがんだように見えたのは俺の気のせいなのか……。


 いや、壊れなくて安心している場合じゃないな。

 マックスさんは腕を組んで目を閉じ、小さく唸ってこめかみから汗を流し、フィネさんは何も言わずススス……と椅子を話して距離を取った。


「モ、モニカさん落ちつ……」

「落ち着いてなんていられないわよ! 今はリクさんから距離を離しているけど、さっき! 座る前! 横から全力で抱き着いていたわよね!?」

「ま、まぁそうなんだけどね……」


 そうなのだ、説明している間も少し不穏な雰囲気にはなっていたんだけど、その原因は皆でテーブルに着く時の事。

 俺が油断してしまった瞬間……というか座ろうとした瞬間、手探りで結界の大きさを把握したクラウリアさんが、体を迂回させて俺へと勢いよく抱き着いたのだ。

 気を付けていれば、ここに来るまでもそうだったんだけど、結界を動かして防いだんだけど……マックスさんやモニカさんの無事を確認して、気が抜けてしまっていたらしい。


 その場はすぐに引き離し、改めて結界で阻んでおいて、さらに椅子へ縛り付けているため、先に事情の説明ができたわけだけど……。

 それでも俺へ近寄ろうとするクラウリアさんの様子や、とどめに空気の読めない一言……耐えていたモニカさんをこの人扱いした事などが原因で、噴火してしまったのだと思う。


「英雄様の忠実なしもべなの、くっ付くのも当たり前ですよ?」

「しもべ……リクさん……一体どういう事かしらぁ?」

「え、ええっと……とりあえず捕まえようと思って、戦意喪失して欲しくて魔法を使ったんだけどね……」


 何がどうしてそうなったのか、俺のしもべだとかのたまうクラウリアさん……空気読んで! というか口を閉じてて!。

 立ち上がったまま、目を見開いて座っている俺を見下ろし、ゆらりと首を傾げるモニカさんの迫力は、マリーさんが怒ったり誰かを鍛える時以上だ。

 いや、ルジナウムで群れとなして迫って来ていた魔物の大群よりも、恐ろしいかもしれない……。


「まぁ、リクさんはいいわ。事態に対処しようとしてやった事みたいだから。……リクさん優しいから、人が相手だとできるだけ傷付けないようにしていもの。野盗相手だって、動けなくするくらいだし……ツヴァイの時だって……あれは、事情を引き出すためだったかしら?」

「えぇっと……とりあえずクラウリアさん?」

「はい、なんでしょうか? 二人でどこか遠くへの逃避行ですか? もちろん、私は英雄様と一緒であれば、どこへなりとも行きますよ!」

「いや、そうじゃなくて……」


 モニカさんに、クラウリアさんを捕まえた時の状況などを説明すると、なんとか納得してくれた様子……まだ、眉根を寄せてブツブツ呟いているけど。

 ともあれ、マックスさんは目を閉じて汗を流すだけで助けてくれなさそうだし、このままで収まるかわからなかったので、クラウリアさんを差し出す事に決めた。

 名前を呼ぶと、飛躍した返答をされる……モニカさんの様子も気にしていないようだけど、少しくらいは空気を読んで欲しいかなぁ……。

 

「モニカさん、どうぞ。存分に、なんでも聞いて」

「え? お? あれぇ?」


 クラウリアさんと俺の間にある結界を操作し、新たに作ったりもして、クラウリアさんの全身を包み、モニカさんの前へと差し出す。

 強制的に体を動かされたクラウリアさんは、戸惑う声を出すだけだけど……貴女の行動や言動が原因なのだから、なんとかして欲しいところだ。


「ふふふふ……」

「何、この迫力!?」

「生贄、か……」

「マックスさん、変な事言わないで下さい。モニカさんが怒っているのは、クラウリアさん相手ですから。それなら、じっくり話した方がいいと思っただけです」


 モニカさんが何やら陽炎のような、怒りのオーラみたいなものがゆらゆらと出しながら、差し出したクラウリアさんの両肩をガシッと掴む。

 まぁ、陽炎のようなのは幻覚なんだろうけど。

 ともかく、それを見てポツリとマックスさんが呟く。

 けどさすがに、本人に反省や弁解してもらいたいから差し出しただけであって、そんな生贄なんて……。


「物は言いようだが……しかし、先程からの言動を考えると悪手に思えるぞ? そもそもリク、なんでモニカが怒っているのか、わかっていないだろう?」

「え? クラウリアさんが、今回の騒動を起こした張本人なのに、気にせず反省した様子がないから……ですよね?」

「……はぁ……」

「え?」


 さらにマックスさんから、今回モニカさんが怒っている理由を聞かれて考えている事を答えたら、溜め息を吐かれた。

 さらに何やら、モニカさんの方から陽炎のような何かが、さらに強まった気がする……。

 あれ、違うの?


「あのー、英雄様? わ、私どうなっちゃうんでしょうか?」

「今回の事を反省して、モニカさんにしっかり謝る事。……マックスさん、俺は冒険者ギルドの方に向かったソフィー達が気になるから、様子を見てきます。あちらにも話しておいた方がいいでしょうから」

「まぁ、そうなんだが……逃げるのか?」

「逃げるのだわ? でも、ここはその方が良さそうなのだわ」

「……クラウリアさん、もし魔法を使ったりとか、変な事をしようとしたら……わかっていますね?」


 マックスさんに溜め息の理由を聞きたかったけど、モニカさんに捕まれているクラウリアさんが情けない声を出しているので、そちらの対応。

 ついでに、冒険者ギルドの方を任せたソフィー達の事を思い出したので、そちらに行く事も決める……忘れてはいなかったよ、うん。

 ヤンさん含めて、あちらでも色々説明しておかないといけないだろうし。


 モニカさんを落ち着かせるのは、俺には難しそうなので、マックスさんやエルサが呟いた言葉は聞かなかった事にして……念のため魔力を滲み出させて、脅しをかけておく。

 大丈夫だと思いたいけど、俺が離れた際にクラウリアさんが無暗に魔法を使ったら、獅子亭やマックスさん達が大変な事になるからね。


「ぴぃ! は、はい! わかりました!……前面には何やら恐ろしい迫力、後ろからは英雄様の魔力……どうしてこんな事に……」


 どうしたこうなったかは、クラウリアさん本人が一番わかっているはずだけど……。



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