第910話 街側で捕らえておくのは不可能



「帝都……リク様、やはり……私は行った事すらありませんが、帝都での出入りに関しては我が国の王都よりも厳しく調べられる、と聞き及んでおります。それを自由に出入りできるという事は……」

「そのようですね。間違いなく、帝国の中枢が拘わっているという事でしょう」


 クラウリアさんが言う好き勝手、というのがどれくらいの事なのかはわからないけど、帝都……アテトリア王国で言うなら王都のような場所で、何もチェックされずに自由に出入りできるのは特別だと思う。

 王都でも、出入りの際は一応チェックされるからね……最近は、ほとんどエルサで王城に直接行っているけど。

 ともあれ、クラウリアさんの話で帝国そのものが深く組織とかかわりを持っていると判明した。

 これは、姉さんにも報告しないと……。



「それじゃあ、俺は街の様子……というかモニカさん達の事が気になるので、そちらへ行きます」

「はい。私も、街全体の確認をしなければいけないでしょう。そろそろ、ある程度以上は確認されて、報告される頃でしょうからな。リク様、今回の迅速な事態収束、ありがとうございました」

「いえ、偶然戻って来た時に、今回の騒動に遭遇しただけなので……何か起こっていたら、街に住む人達が困らないよう尽力するのが、冒険者でもありますからね」


 その後もある程度クラウリアさんから聞き取りをしたけど、特にこれといった情報は引き出せなかった。

 聞き方の問題もあるとは思うけど、幹部と言っても知っている情報は限られているようだ……徹底的な秘密主義の組織って事だろう。

 話を切り上げて、モニカさんやソフィー達にも話をしたり、向こうの確認をするためこの場を辞するために立ち上がると、クラウスさんからお礼を言われた。

 隣でトニさんも頭を下げている。


 とは言っても、俺がいなくても大きな被害はなく騒動は収まっていたっぽいけど……まぁ、元凶のクラウリアさんをさっさと捕まえた事で、早めに収めたのは間違いないか。

 ちなみに、門が閉まっていたのは今回の騒動を起こしてすぐ、街の内部で起こった事のため、犯人を逃がさないようにすぐクラウスさんが指示したらしい。

 門の付近、というか内側に兵士さんを配置しなかったのは、囮の意味合いもあって、逃げようと門に近付いた者を監視するためだったそうだ。

 一応、数人の兵士が近くで門を監視していたとか……だから外から門を叩いても中からの反応がなかったのか。


 内側からなら、外壁の上に上るのは容易でも外へ行くのは不可能……外へ向かって数メートルの高さで落ちる事になるから。

 門を開けるのは、数が多くても仕組みなどを知らなければ時間がかかるため、逃げようとしても簡単には逃げられなくなっているからとかなんとか。

 結局、逃げる事を考えさせる前に、俺が元凶に向かってクラウリアさんを捕まえたわけだけどね。


「ではリク様、そちらの女性は王都へ引き渡すようお願いいたします」

「……え? クラウスさんに引き渡そうと考えていたんですけど……」


 やる事は終わった、と部屋を出ようとする俺にクラウスさんから、クラウリアさんの事をお願いされる。

 クラウスさんが捕まえて、その後罰するか王都に護送するかだと思っていたんだけど……。


「リク様の願いでも、さすがにそれは……拘束をするくらいなら我々でもできますし、監視もできます。が……その、通常より多い魔力を持ち、何をするかわからないので、こちらでは万全に捕らえている状の維持が難しいかと……」

「以前、ヴェンツェルさんがツヴァイという、クラウリアさんと同等の幹部を捕まえた時、魔法具を使って魔法を使えないようにしていましたけど……?」


 確かツヴァイの時は、体に身に着ける魔法具を使って、声が出ないようにして魔法を使わせなくしたんだっけ。

 あれがあれば、クラウリアさんが抵抗して魔法を使おうとしても、発動しないから簡単に捕まえておけると思うんだけど。


「ヴェンツェル様方、王国軍とは違い我々にはそのような魔法具の準備がないのです。いえ、他に魔力を乱したり抑えて抵抗されないようにする魔法具はあります。ですが、それですと対応できない恐れがありまして……」

「あの時は、声が出ないようにする魔法具でしたけど、それは?」

「人の行動を抑制する魔法具は、多くを作られていません。本来一般に売られている魔法具は、役に立たせる物なので……人に作用して行動を阻害する物は、通常の商店では売られませんし、作られていないのです。なので……我々街の方で入手できなくはないですが、用意するのにも時間がかかるのです」

「あー、成る程……」


 人の行動を阻害する魔法具って、使い方次第で悪い事にも使えるから、誰でも買える物にはならないよね。

 それに、多くが作られていないなら、なんとかして集めるのにも時間がかかるのは当然だし……ツヴァイの時はヴェンツェルさんがいた事と、あらゆる事を想定して準備したから、あの時持って来ていたんだろう。

 まぁ、魔力量が異常に多い相手を拘束するとは考えていなかっただろうけど、魔物と戦うのはわかっていた事だし。


「ですので、我々でなんとかしたいと思うのですが……万全ではない以上、リク様に頼むしかできません。申し訳ありません」

「クラウリアさん、抵抗せずに捕まってくれていたりは……?」

「え、私は貴方様について行く気満々ですよ!? それが他の場所になんて、我慢できるわけないじゃないですか! それに、おとなしく捕まっていたら組織から狙われ放題です。そんな危険がわかりきっているのに、抵抗しないなんてできませんよ!」

「自信満々に抵抗するって言われても……はぁ……痛めつけて動けなくする、とかもできるけど、さすがにそれはなぁ……仕方ないか」

「申し訳ありません、リク様」

「いえ、準備もなくクラウスさんや街の人達が困るのは望んでいませんから。まぁ、王都に連れて行って、もっと詳しく取り調べをしないといけないのは間違いないですし……わかりました」


 頭を下げるクラウスさんに、苦笑というか、溜め息を吐いて承諾するしか道はないようだね。

 でもクラウリアさん、そんな胸を張って抵抗するなんて言わなくても……いやまぁ、もし組織から本当に処分するように狙われたら、街の牢獄とかに捕まったりしていると居場所がわかりやすくて、襲撃される恐れもあるのかもしれないけど……。

 その際、確実にクラウリアさん以外にも被害が出るだろうし、考えれば考える程俺が連れて行かなきゃいけないようだ……はぁ。


 結局、クラウスさんやトニのお願いもあって、なぜかまとわりつこうとしたり、エルサのモフモフを触ろうとするクラウリアさんを、結界で阻みながら一緒に連れて行く事になった。

 庁舎を出て、街中を歩いている際に、見えない壁に顔や体をくっつけている女性を連れて歩くのは、傍から見たら異様な光景だったのは間違いない……恥ずかしい。

 結界を知らない人がほとんどなので、不思議そうに見られる事が多かった――。



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