第887話 冷房魔法具クールフト
カイツさんが作った魔法具、クールフトは大体横に二メートル、縦に一メートルくらいで、奥行き約五十センチの筒みたいな物。
金属製なのもあって重そうに見えたけど、中は広く空洞になっている部分が多いため、見た目よりは軽いらしく、カイツさん一人で運べるほどのようだ。
その横長の箱、左右がぽっかりと開いており、片方から空気を吸ってもう片方から冷たい空気を出すという仕組みらしい……大体想像していたクーラーと同じような仕組みだね、形は違うけど。
内部が空洞になっているのは、そこに魔力を蓄積するための物を設置し、魔法を発動。
吸い込んだ空気がそこを通る事で、冷えた空気となって出て行くようにできているらしい。
空気の吸い込みと追い出しを一方向に定め、さらに冷やすという同時に複数の効果を持たせている事に、アルネが驚いていた。
本来なら、複数の効果を持たせるのであれば、複数の発動回路を組み込まねばならず、魔力を蓄積させる物も複数個用いる必要があるので、もっと大型化するはずだからだそうだ。
「複数の魔法を同時にって難しい事だったんだね」
「……リク自信が、簡単そうに複数の魔法を同時に使うからな。あまり実感はないだろうが……ともかく、この仕組み……いや、この発動回路は他にも応用できるかもしれんな。それこそ、クォンツァイタを用いれば、もっと小型化したり、強力な効果も出せるだろう」
「そういえば、そうだね」
カイツさんは、まだクォンツァイタの事は知らず、目の前にある魔法具はそれとは別の魔力蓄積ができる物を使用している。
クォンツァイタを使えば、現状の物より魔力を蓄積できるので、もっと強い魔法効果をだせるだろうし、小型化もできる可能性は高いと思う。
ちなみに、耐久度の問題で金属製なのかと思っていたけど、それにも魔法的な効果を求めるためでちゃんと意味があったようだ。
なんでも発動回路を組み込ませる時に、木製よりも金属製の方が魔力効率がいいとかなんとか……詳しい話は俺には理解できなかったけど、アルネが何度も驚き交じりに頷いていたから、凄い事なんだろう。
「うーん……」
「どうした、リク?」
「リク様、どうかされましたか?」
クールフトを見ながら、意気揚々と詳細の説明をしているカイツさんは、冷静さはあってもやっぱりアルネと同じように研究熱心だなと思いつつ、実物を見ていて少し気になる事がある。
考えるように声を出すと、アルネもカイツさんも気付いたようで話を中断して俺へと視線を投げかけた。
「いや、この機能……空気を吸い込んで、冷やして逆側から冷たい空気として出すっていうのはわかるんだけど……」
冷房も暖房も、細かい機能はともかくエアコンは大体そんな仕組みだったはず。
冷やすのなら、暖かい空気を取り込んで冷やし、その空気を部屋に流す事で室温を下げる……暖める場合はこの逆だね。
まぁ、仕組みに魔法を使っているから、冷やす機構とかは違っても仕組みとしては同じだ。
だったら……。
「これをこのまま、暖める方に使えないかなと思って……内部で空気を冷やすんじゃなくて、暖めて吐き出すようにすれば、部屋を暖める魔法具ができるんじゃない?」
「ふむ、理屈としては確かにそうか……どうなんだ、カイツ?」
「先程事情を聞き、冷やすだけでなく暖める魔法具も必要と聞きましたが……それはあの者の研究の領分ですね? ……えーと、端的に結論を申しますと、できますができません。というのが正しいかと」
「できるけどできない? それはいったいどういう?」
俺の疑問に、頷いたアルネがカイツさんへと視線を向ける。
クールフトが必要な理由を説明するついでに、暖める機構も必要であると伝えていたんだけど、カイツさんは眉根を寄せながら否定とも肯定とも取れない返答をされた。
できるのにできないって、矛盾した言い方のような気がするけど……?
「おそらく、同じように魔法の発動回路を組み込めば、できるでしょう。冷やすための魔法を温める魔法に帰ればいいだけですからね。それは難しくありません。ですが、その際に熱を発してしまうので内部にある魔力蓄積をしている物だけでなく、外側の外装も耐えられないでしょう」
「そういう事か……」
「ん? どういう事? 暖めるのだから、熱を発するのはわかるけど……」
「リク、簡単に言うとだな……暖めるという事は火を扱うのとほぼ変わらん。常に内部に火がある状態と考えればわかりやすいか。当然、外装が木製なら燃えてしまうし、金属でも……溶けはしなくとも熱が伝わってしまい危険だ。まぁ、暖めるだけを目的とするなら、効果は絶大だろうがな」
つまり、火を内部に閉じ込めた状態にできないという事か。
冷やすのなら、ある程度冷たい氷に空気を触れさせるとかでなんとかなるけど、暖める方は火を使うために危険が多いんだね。
常に空気を吸い込むから、火が燃えるための酸素には事欠かないけど、調節が難しいし、金属の外装が耐えられたとしても触れられないくらい熱くなるため危険と。
外装からも熱を発するようになるから、効率としてはいいんだろうけど触れられない程というのはちょっとね……冷めるまで魔力を補充する事もできなくなるし、誤って誰かが触れてしまえば火傷の危険がある。
さらに言うなら、内部にある魔力蓄積させている物も、その熱に耐えられない事も考えられるため、同じ機構を利用しての暖房はほぼ不可能に近いって事か。
短時間の利用で、使い捨てのように考えればできるだろうから、さっきカイツさんはできるけどできないという答え方になったんだろう。
農園で温度管理をするための物だから、一日や二日で使い物にならなくなるような使い捨ての魔法具だと、作る方が大変過ぎてコストに見合わないから、この案は却下だね。
「ともあれ、効果の程を実際にお見せ致しましょう」
「はい、お願いします」
暖める方はクールフトを利用してできない事がわかったところで、機能が求めた通りなのかの実験。
説明だけでなく、本当に使えるのかどうかを確かめないといけないからね。
カイツさんがクールフトを運んで、俺とアルネもそれに付いて行く。
到着した場所は、カイツさんと話していた居間とは別の広い部屋……乱雑に物が置かれていたり、何かが書き込まれた書類、クールフトと同じ形の物が幾つか見られる事から、研究室なんだろう。
「では、発動いたします。この中央、窪みのある部分に手を当てて魔力を流す事で、内部に魔力が蓄積されて魔法が発動します。魔力の量によって発動させる時間の調整も可能です」
スイッチとかがないなぁ、と思っていたらオンオフは魔力の量で調節するらしい。
リモコン操作とかをするわけではないだろう、と思っていたけど……まぁ、オフタイマー付きと考えればいいかな。
魔力を蓄積させる事が、スイッチオンに該当するのと、必要量はそんなに多くないそうなので、人間でも扱う事ができると思う……これで、必要な魔力量が多くてエルフくらいしか扱えないとかだったら、一般に普及させたりはできないからね。
もちろん、人間が主体のハウス栽培にも使えないだろう――。
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